第十六話「帝国の陰謀」
第十六話「帝国の陰謀」
帝国の東へ向かう街道は、王国とは別物だった。
広い。速い。無駄がない。
石畳は均一に敷かれ、距離標が正確に並ぶ。
「軍のための道です」
ライラが言う。
「帝国はすべてを戦争基準で設計する」
「誇張じゃないのか?」
「事実です。一日で五千の兵が通れる」
「六千だ」
前を歩くシアが訂正する。
「……どっちでもいいな」
セラが呟いた。
◇
一日目の夜。
街道沿いの宿で、情報を整理する。
「神殿跡で異常が続いている」
シアが言った。
「光。魔力の流れ。……そして偵察隊が引き返した」
「負けたんですか?」
「違う。“近づけなかった”」
嫌な言い方だった。
「結界です」
ライラが断言する。
「一定以上の力がない者は、近づく前に意識が砕ける」
「砕けるって……」
「比喩ではありません」
セラが黙った。
「対処は可能です」
ライラが続ける。
「アレクは吸収。私は制御。シア殿は耐性あり」
「俺は大丈夫だ」
短い返答。
「問題はセラ殿です」
「俺か」
「補助をかけます」
セラが頷く。
戦闘前の静かな準備。
そして――
「脱出経路は?」
シアの問い。
鋭い。
「転移術で出口を作れます」
「誤差は?」
「構造を把握していれば数メートル。なければ百メートル単位」
「図面が必要だな」
結論は早かった。
翌日、古文書館へ寄る。
◇
三百年前の設計図。
地下三層。
最下層――“聖域”。
「ここが儀式場」
ライラが指す。
入口は二つ。
正面と隠し通路。
「分かれるか?」
セラの提案。
「陽動と潜入」
シアが考え、頷く。
「俺とセラが正面」
「俺も派手にやるぞ」
「問題ない。柱が折れる程度だ」
「それ十分派手だな」
決まりだ。
◇
夕暮れ。
神殿跡に到着。
空気が重い。
近づくだけで圧がかかる。
「結界」
ライラの声。
「アレク、吸収を」
意識を集中。
流れを掴む。
少しずつ、削る。
圧が和らぐ。
「行けます」
セラに補助術。
シアが剣を背負い直す。
「合図は?」
「光を三発」
「制限時間は」
「一時間」
「撤退は?」
「してください」
「しない」
即答だった。
セラも同じ顔をしている。
仕方ない。
「合流地点を決めましょう」
北西の岩場。
そこで再集合。
「一時間で終わらせる」
◇
分断。
セラとシアが正面へ。
僕とライラは東へ回る。
隠し扉。
見た目はただの壁。
「ここです」
ライラが触れる。
封印術式。
解除開始。
五分。
静かに開く。
闇。
地下へ。
◇
一層。
二層。
深くなるほど、魔力が濃い。
「無理はしないで」
「大丈夫です」
足音。
番兵。
やり過ごす。
そして――
轟音。
上層。
「始まりましたね」
柱が折れる音。
予定通り。
今がチャンス。
◇
三層。
空気が違う。
濃すぎる。
息が重い。
奥に赤い光。
詠唱。
複数。
扉の前へ。
「中は?」
「五人。それと――」
ライラが目を細める。
「生存者。複数」
迷う理由はない。
「行きます」
扉を開ける。
◇
聖域。
広い。
高い天井。
巨大な魔法陣。
そして――
人間。
縛られ、並べられている。
生きている。
間に合った。
「来たか」
声。
中央。
白い法衣。
銀の装飾。
――ゼクス。
「止めます」
「止める?」
笑う。
「神の儀式を?」
「はい」
「無理だ」
「やります」
短い会話。
それで十分。
「ヴェインを知っているか」
「記録で」
空気が変わる。
「……ライラか」
視線が交差する。
そして。
「終わりにしよう」
五人が動く。
同時詠唱。
魔法が来る。
全部、吸収。
まだいける。
ライラが拘束。
残り三人。
接近戦。
痛み。
それでも止まらない。
返す。
止める。
――三十秒。
終了。
残るは一人。
「強くなったな」
「おかげさまで」
ゼクスが杖を上げる。
空気が、変わる。
重い。
古い。
異質。
圧が段違い。
「神の力だ」
来る。
「全力で吸収を」
「やめたら?」
「死にます」
「やめません」
会話はそれだけ。
次の瞬間。
――爆発した。
世界が、歪む。
(第十七話へつづく――「帝国の地下牢」)




