第十五話「シアとの激突」
第十五話「シアとの激突」
ガルナを出たのは、救出から二日後だった。
七人は全員、目を覚ました。
衰弱はしていたが、命に別状はない。
一番年若い少年が目を開けた瞬間――
バルドが、泣いた。
無骨な軍人が、人目も気にせず。
「……もらい泣きしそうだな」
セラが小さく呟く。
その気持ちは、少しわかった。
◇
出発の朝。
バルドが門まで見送りに来た。
「帝国に行くのか」
「情報を追います」
「国境は緊張状態だ。検問で止められる可能性がある」
差し出されたのは、一通の書状。
「俺の名義だ。足りないかもしれんが、ないよりはいい」
「助かります」
「……また何かあった時、頼れる相手がいると思えるだけで違う」
差し出された手を、握る。
硬く、傷だらけの手だった。
◇
三日後。
国境の峠へ。
山脈が王国と帝国を分けている。
その最狭部に、検問所はあった。
石門。帝国旗。
門番は四人。全員、魔力持ち。
書状を渡す。
空気が、少し張り詰めた。
――嫌な予感。
門番が奥へ引っ込む。
しばらくして。
一人の女が現れた。
赤みがかった黒髪。無駄のない歩き方。
鎧には帝国騎士団の紋章。
そして――
戦う前提の目。
「王国の人間か」
「はい」
「理由を言え。本当の理由だ」
少しだけ考える。
「魔王軍の調査です。発端が帝国内にある可能性がある」
「スパイの可能性は?」
「否定できません」
「正直だな」
視線が突き刺さる。
一瞬で測られる。
「お前がアレク=クロウか」
「そうです」
「噂は聞いている」
女が一歩、前へ。
「シア=クロノス。帝国騎士団第一席」
空気が変わる。
「通す前に一つ。――実力を見せろ」
◇
検問横の空き地。
円を作る門番たち。
審判の目だ。
シアが大剣を抜く。
重いはずのそれを、片手で構えた。
「ルールは?」
「ありません」
「降参で止める。俺は手加減しない」
「こちらもです」
一瞬。
ほんのわずかに、シアが笑った。
「いいな。――来い」
初手は魔法。
剣に魔力を乗せた衝撃波。
――吸収。
できた。
だが。
衝撃そのものは、防げない。
吹き飛ばされた。
地面を転がる。
「魔法は消えた。だが飛んだな」
「物理は通ります」
「わざわざ教えるのか」
「隠しても意味がないので」
シアが大剣を両手に持ち替えた。
「なら、剣で行く」
速い。
次元が違う。
一撃、回避。
二撃、回避。
三撃目――
刺さった。
息が詰まる。
膝が落ちる。
「立てるか」
「……立てます」
無理やり立つ。
腹が痛い。
でも――まだ動ける。
「独学だな」
「そうです」
「無駄は多い。だが勘はいい」
「褒めてます?」
「事実だ」
シアが言う。
「魔法を使え」
なら。
吸収した力を使う。
衝撃波を再構築。
放つ。
シアが受ける。
後退する。
それでも倒れない。
「……俺の魔法か」
「はい」
沈黙。
そして。
大剣が地面に突き立てられた。
「続ける意味がない」
「どういうことですか」
「お前の魔法は防げない。消耗戦なら俺が負ける」
剣を収める。
「通行を認める」
ざわめき。
「シア様――」
「構わん」
シアが僕を見る。
「帝国内で何をする」
「ゼクスを追います」
空気が、変わった。
「……中で話せ」
◇
詰め所。
椅子に座るシア。
「ゼクスをどこまで知っている」
「神殿を通じて国家を動かしている。高魔力者を集めている」
「それだけか」
「違いますね」
間。
「帝国でも動いている」
シアが答えた。
「魔法師が三人消えた。王国と同じだ」
やはり。
「本拠を探したい」
「心当たりがある」
帝国東部。
廃神殿。
情報は揃った。
問題は――
「なぜ俺に頼む」
「強いからです」
正直に言う。
シアの目が揺れる。
「それと、必要だからです」
沈黙。
長い。
「目的は何だ」
「神を止めること」
「……本気か」
「本気です」
さらに沈黙。
そして。
「一晩待て」
◇
翌朝。
答えは早かった。
「同行する」
やはり。
「条件がある」
「何でしょう」
「帝国民を守れ」
「約束します」
少しだけ、空気が緩む。
「それと」
シアが視線を逸らす。
「昨日の続き、いずれやる」
「いつでも」
「次は本気で行く」
「楽しみにしています」
ほんのわずか。
シアが笑った。
◇
四人で歩き出す。
帝国の東へ。
「また増えたな」
セラが呟く。
「静かに」
ライラの肘が入る。
「痛い」
いつものやり取り。
でも。
戦力は確実に上がった。
「教えてやる」
シアが前を向いたまま言う。
「剣と魔法の使い方」
「ぜひ」
「お前の弱点は明確だ」
「物理ですね」
「そこを潰す」
いい提案だ。
「両方やります」
「欲張りだな」
「弱点は嫌いなので」
少しの沈黙。
「……嫌いじゃない考え方だ」
足音が揃う。
目的地は、廃神殿。
その先に、ゼクス。
そして――
本当の戦い。
前だけを見る。
それでいい。
(第十六話へつづく――「帝国の陰謀」)




