第十四話「王国の危機」
第十四話「王国の危機」
王都を出たのは、三日後の朝だった。
メンバーはセラ、ライラ、そして僕の三人。エリアは王都に残る。
屋敷の門まで見送りに来た彼女は、最後まで表情を崩さなかった。
「連絡は入れなさい」 「できる限り」 「できる限りじゃなくて、必ず入れなさい」
わずかな間のあと、僕は頷いた。
「……わかりました」
エリアは小さな革袋を差し出す。
「お守り代わりよ。辺境伯家の紋章入りの通行証。北方なら役に立つ」 「ありがとうございます」 「礼はいらない。――生きて帰ってきなさい。それだけよ」
それだけ言って、彼女は背を向けた。
扉が閉まる直前――ほんの一瞬だけ、こちらを振り返る。
それだけだった。
「行くぞ」
セラの一言で、僕たちは歩き出した。
王都北門を抜けると、街道がまっすぐ北へ伸びている。
空は晴れているのに、北の空だけが低く沈んでいた。
嫌な予感が、ずっと消えない。
◇
二日後。
北方拠点都市ガルナに到着した。
城塞都市に近い構造。王国軍の駐屯地もある。
だが――
空気が重い。
市場は半分が閉まり、人の声は少ない。
誰もが、何かを恐れている顔をしていた。
「何かあったのか?」
セラが露店の主人に声をかける。
男は周囲を気にしてから、小さく言った。
「昨夜、また一人……消えたんです」
「また?」
「ひと月で三人。……いや、もっといるかもしれない」
声が震えていた。
「遺体も出ない。ただ、消えるんです」
――嫌な話だ。
宿を確保した後、すぐに駐屯地へ向かった。
指揮官バルドは、疲労を隠しきれていなかった。
「失踪者は把握しているだけで七人。ですが……」
「まだ増える可能性がある?」
「ええ。報告を避ける村もある」
「なぜ?」
わずかな沈黙。
「……失踪者は全員、魔法適性が高い」
空気が凍った。
「知られれば、子どもが狙われる。だから隠す親が出ている」
ライラが一歩前に出た。
「SSS適性は?」
バルドの表情が変わる。
「……一人。最初の失踪者です」
視線が自然と集まる。
答えは出ていた。
「ゼクスですね」
僕の言葉に、誰も否定しなかった。
「目的は“儀式”です」
ライラの声は静かだった。
「高魔力者を集め、魔力を抽出する。――生きたまま」
バルドの顔色が変わる。
「では……まだ生きている?」
「儀式が終わっていなければ」
「その儀式は、何のために?」
一瞬の間。
「神に干渉させるための扉を開く」
沈黙が落ちた。
「開いたら……どうなる」
「世界が壊れます」
即答だった。
◇
夜。
街外れで、ライラが術式を展開する。
「魔力の流れを辿る」
淡く光る陣。
時間だけが過ぎていく。
そして――
「……見つけた」
ライラが目を開いた。
「北東。山中。三時間ほど」
「間に合うか?」
「ギリギリです」
迷う理由はなかった。
即座にバルドへ連絡。
外周を兵で固め、中には入らせない。
理由は一つ。
――兵も“燃料”になる。
◇
夜中二時。
山へ突入。
雨が降り始めていた。
「来るぞ」
セラの声。
気配は複数。
――番兵。
「突破する」
短い作戦。
ライラが前、僕が魔法吸収、セラが近接。
完璧に噛み合った。
最初の十二人。
三分で無力化。
次の二十人。
同様。
だが――時間が足りない。
「急いで」
ライラの声が鋭くなる。
「儀式が加速しています」
◇
山中の広場。
そこに――あった。
石造りの祭壇。
七人の人間。
全員、生きている。
そして、黒衣の男。
「遅い」
男が笑う。
「あと五分で終わる」
同時に、三十以上の番兵が現れた。
「行け」
セラの声。
「ここは俺たちで止める」
「でも――」
「いいから行け!」
ライラも頷く。
「儀式を優先」
――信じるしかない。
僕は走った。
魔法が飛ぶ。
全部、吸収する。
痛みが頭を叩く。
それでも止まらない。
「愚か者が」
黒衣の男が杖を向ける。
闇魔法。
これまでで最大。
――吸収。
膝が崩れそうになる。
それでも、一歩。
さらに一歩。
男の目前へ。
「どけ」
「神に逆らうか」
「知りません」
溜めた魔力を――
叩き込む。
男が吹き飛んだ。
祭壇の光が揺れる。
そして――
消えた。
◇
十分後。
戦闘終了。
七人全員、生存。
バルドが崩れるように膝をつく。
「……全員、いる」
「約束しましたから」
それだけでよかった。
◇
帰路。
「鼻血出てるぞ」
「問題ありません」
「問題しかないだろ」
言い返せなかった。
ライラが言う。
「次は帝国です」
「なぜ」
「本拠地があるから」
スケールが跳ね上がる。
でも――
「行くしかない」
セラが笑った。
「面白くなってきたな」
夜が明ける。
戦いは、まだ終わらない。
――ここからが本番だ。




