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神に捨てられた最弱少年、実は全魔法を無効化するチート持ちだった件  作者: マサキ


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第十話 ライラの挑戦

第十話 ライラの挑戦


 王都は、想像していたよりも大きかった。

 高い石壁に囲まれた城塞都市。

 人口は数十万を超えると言われている。

 街道から見えてくる外壁だけでも、ベルタの倍以上はある。

 城壁の上には何本もの旗が立ち、強い風を受けて大きくはためいていた。

 門をくぐると、石畳の大通りが真っ直ぐ奥まで伸びている。

 両側には商店が並び、行き交う人の数もベルタとは比べものにならない。

「初めてか、王都は」

 隣を歩くセラが聞いた。

「はい」

「迷子になるなよ」

「なりません」

「根拠は?」

「方向感覚には自信があります」

 セラは「ふうん」とだけ言って歩き出した。

 まず向かったのは、治癒師ギルドだった。

 肋骨のひびを治癒魔法で修復してもらうと、鈍く残っていた痛みが嘘のように消えた。

 費用は銀貨二枚。

 痛みが消えるだけで、体が驚くほど軽くなる。

 そのあと、王都の冒険者ギルド本部へ向かった。

 本部はベルタとは比べものにならない規模だった。

 五階建ての巨大な石造り。

 入口には守衛が立ち、中に入ると広大なホールに無数の冒険者が出入りしている。

 受付でレオンの仮証明書を提示すると、手続きはすぐに終わった。

 そして渡されたのは――

 金色に輝く証章だった。

「おめでとうございます、アレク様。王都では初のSランク新規登録者です」

 受付嬢が丁寧に頭を下げる。

 様、と呼ばれたのは初めてだった。

 少し居心地が悪い。

 ギルドを出たのは昼過ぎだった。

 セラと合流して昼食を取ろうとした、そのときだった。

 大通りの空気が変わった。

 人々が左右に割れる。

 誰かが近づいてくる。

 現れたのは、一人の女だった。

 年齢は十六歳ほどに見える。

 だが――纏っている魔力が違う。

 銀色の長い髪。

 金色の瞳。

 黒を基調とした外套。

 そして腰には細い杖。

 周囲の人間が道を開けているのは、威圧しているからではない。

 本能的に、近づけないのだ。

 女が足を止めた。

 金色の瞳が、まっすぐ僕を見た。

「貴方がアレク=クロウですね」

 涼しい声だった。

「そうですが」

「探していました」

「僕を?」

「魔王軍のダークランサー三体を単独で無力化した冒険者がいると聞いて」

 隣で、セラが剣の柄に手をかけた。

「お前、魔王軍の関係者か」

「元、です」

 女は静かに答えた。

「私はライラ。かつて魔王軍の将を務めていました」

 一瞬、空気が凍った。

「今は違います」

 結局、話は食堂で聞くことになった。

 セラは警戒を解かなかったが、追い払うこともしなかった。

 食堂の隅の席。

 ライラは向かいに座り、両手をテーブルの上に置いた。

「誤解されたくないので先に言います。私は貴方を害しに来たのではない」

「ではなぜ?」

「確かめに来た」

「何を?」

 ライラの金の瞳が細くなる。

「千年前の記録を、知っていますか」

 セラが眉を上げた。

 僕は静かに答えた。

「少し」

「全ての魔法を飲み込む者が現れた、という記録です」

「はい」

「私はその記録の、続きを知っています」

 食堂の喧騒が遠くなった。

 ラーグが言っていた。

 ――続きを探せ。

 こんなに早く見つかるとは思わなかった。

「聞かせてもらえますか」

「その前に」

 ライラが立ち上がった。

「実力を確かめさせてください」

 セラがすぐに言った。

「待て。ここは街中だぞ」

「街の外で、なら?」

 セラが僕を見る。

 僕は頷いた。

「わかりました。ただし手加減はしないでください」

 ライラの口元が、わずかに動いた。

「それはこちらの台詞です」

 王都の南門の外。

 魔法の実験などに使われる草原があった。

 地面はところどころ焦げている。

 セラは離れた場所で腕を組んだ。

「俺は見てる。死ぬな、二人とも」

「了解」

 ライラは無言で頷いた。

 十メートルの距離。

 向かい合う。

 ライラが杖を抜いた。

 銀色の光が灯る。

「行きます」

 最初の魔法は氷だった。

 無数の氷礫が飛んでくる。

 速い。

 密度も高い。

 だが――

 全部、吸収した。

 体が少しよろける。

「吸収できますね」

 ライラが言う。

「では、これは」

 次は炎。

 極端に圧縮された火球。

 普通の炎魔法の十倍はある魔力密度。

 それも――

 吸収した。

 腕が震える。

「面白い」

 初めて、感情が混じった声だった。

「では、これを吸収できますか」

 ライラが杖を掲げる。

 空が曇った。

 違う。

 魔力が空を覆っている。

 五秒後――

 光の柱が降ってきた。

 一本ではない。

 十本。

 二十本。

 同時に降り注ぐ。

 光属性の複合魔法。

 全てを同時に吸収すれば、体が限界に近づく。

 歯を食いしばった。

 吸収する。

 体中の毛穴から魔力が流れ込んでくる。

 頭が割れそうに痛い。

 膝をつく。

 それでも――

 立ち上がった。

「……吸収しましたか」

「しました」

「頭から血が出ています」

 触ると、確かに血がついた。

「問題ないです」

「問題あります」

 ライラが杖を下ろした。

「もういい。確認できました」

「戦闘続行できます」

「必要ない」

 ライラが近づいてくる。

「貴方が本物だと分かったので」

 金色の瞳が、まっすぐ僕を見る。

「私の全力の複合魔法を吸収した人間は、過去に一人しかいない」

「千年前の人物ですか」

「はい」

 ライラは静かに言った。

「私は古代種族の生き残りです」

 一拍。

「千年、生きています」

 遠くでセラが叫んだ。

「は?」

 草原に三人で座った。

 ライラは語り始めた。

 千年前。

 この大陸に【絶域】を持つ男が現れた。

 名は――

 ヴェイン=ゼロ。

 全ての魔法を吸収する力を持つ男。

「私はその時、魔族の若い戦士でした」

 ライラは言う。

「ヴェイン様と出会い、その力に惹かれ、従うことを誓った」

 だが――

 ヴェインは消えた。

 神との取引によって。

 この世界を守るため、自分の存在を差し出したのだという。

 そして今。

 ライラは僕を見た。

「貴方は偶然ではない」

「神に捨てられた魂が、この世界に転生した」

「ヴェイン様と同じ力を持って」

 僕は少し考えた。

 そして答えた。

「わかりました」

「受け入れてくれますか」

「一つ条件があります」

「なんですか」

「対等に話してください」

 ライラが目を瞬かせる。

「従者ではなく、仲間として」

 少し沈黙があった。

「……慣れるのに時間がかかるかもしれない」

「構いません」

 ライラは小さく息を吐いた。

「わかりました」

「仲間として」

 差し出した手を、ライラが握る。

 冷たい手だった。

 千年生きた手とは思えないほど細い。

 セラが呟く。

「なんか増えてる」

「不満ですか」

「不満じゃない」

 セラは空を見上げた。

「ただ、お前の周りはどんどん騒がしくなるな」

「そうなる気がします」

「だろうな」

 夕日が王都を染めていた。

「今夜は飯でも食うか」

 セラが言う。

「三人で」

 ライラが少し戸惑った。

「私も、ですか」

「仲間なんだろ」

「……はい」

「奢りはしないが」

 ライラが、初めてはっきり笑った。

「それで構いません」

 その夜。

 三人で食事をした。

 ライラは最初ぎこちなかったが、食事の終わり頃には少しだけ柔らかくなっていた。

「千年ぶりに、誰かと食卓を囲みました」

 その声は、少し震えていた。

 帰り道。

 ライラが僕に言った。

「一つ教えます」

「なんですか」

「大神官ゼクス」

 その名を聞いた瞬間、空気が変わった。

「気をつけてください」

「貴方の存在を、危険視しています」

 夜空を見上げる。

 三つの月が輝いていた。

 ゼクス。

 千年前の記録。

 神との取引。

 全てが繋がり始めている。

「わかりました」

「強くなります」

 ライラが言う。

「急いでください」

 声が強かった。

「時間は多くない」

 その言葉が、静かに胸に落ちた。

 王都の夜は、まだ始まったばかりだった。

(第十一話へつづく――

「古代の記録」)

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