悪役令息と七人の魔女
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※セシル視点があります
「この女性には見覚えがある」
コスモス王国の国王様が魔法石の棺の中を見て呟いた。もふもふの氷うさぎ達が変わらず周りに集まっていて、さらにその周りを兵士達や魔法使い達がさらに取り囲んでるっていうカオスな状況の中で、国王様はしばらくの間静かに夢見の魔女を見つめ、やがて魔法石の聖堂を後にした。
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「夢見の魔女はしばらくの間あのままで、聖堂ごと封印されることが決まりました」
夢見の魔女のこれからについてフィロメーラさんが教えてくれた。フィロメーラさんは話があるとかで、クロックフォード侯爵家の森のお屋敷をわざわざ訪ねてきたんだ。
夢見の魔女を安全に目覚めさせて罪を償わせるためにステラ学園の先生達を筆頭に魔法使い達があの聖堂の調査をしていくそうだ。魔法石の聖堂の番人にはシビルが選ばれた。なんでも法外なお給料が支払われるらしい。でもシビルはお金にはあまり執着が無いらしくて、ただただ氷うさぎ達に囲まれて暮らせるのが嬉しいらしい。
「でも今はいいけど、使い魔にした氷うさぎにあげる魔力はどうするんだろう?」
魔女の使い魔って主の魔力を貰うんだって。今はシビルが命じて夢見の魔女の魔力を食べさせてるからいいけど、この先夢見の魔女の力を削ぐ必要が無くなったら、たくさんの氷うさぎ達を使い魔のままにはしておけないよね?
「その時は使い魔としての契約を終わらせればいい」
「え?!契約を終わらせることってできるの?セシル」
「ああ。できるよ」
私の問いかけにセシルが頷く。そういう術式があるんだって。そういうのも今度チェルシーに教えてもらおう。実は今私は森の魔女チェルシーに弟子入りして色々教わってるんだ。
「たしか氷の魔女様は他にも氷うさぎを飼っていらっしゃるとか。でしたらそちらと同じようにペットとして普通に餌をやるようにすれば問題ありませんよ」
チェンバーズさんがお茶のおかわりを淹れながら説明してくれた。そうだった。シビルは氷うさぎの里なるものを作ってるんだった。
「へえ~!そんなこともできるんですね。あのうさぎ、結構可愛いし私も一匹飼おうかなぁ……。ああ、チェンバーズさんのお茶は美味しい……ありがとうございます、チェンバーズさん」
不思議。チェンバーズさんに淹れてもらうと何でこんなに美味しいんだろう……。
「おほめ頂きありがとうございます、リサ様」
「何?リサ、僕以外の使い魔を迎えるつもり?」
セシルが不機嫌な不満顔になる。
「使い魔って……。セシルは使い魔じゃないでしょ?」
「じゃあ、僕はリサの何?」
「何って……」
そんなこと言わなくてもわかってるのに……。
「婚約者……」
「それだけ?」
「こ、」
「こ?」
「恋人……です」
「よくできました」
セシルは一転して満足そうな嬉しそうな笑顔を浮かべ、私の頬に口付けた。
「…………クロックフォード様、随分と変わられましたね……」
フィロメーラさんはかなり驚いた後、微笑ましそうに私達を見てた。すっごく恥ずかしかったよ……。
「良かったの?せっかくまた聖女に任命してもらえるのに」
フィロメーラさんが帰った後、セシルが尋ねてきた。
「うん。それはいいの」
あの夢見の魔女の王都襲撃事件の時、私の魔法はどうもかなりの広範囲に渡ったらしく、魔物をたくさん倒せてたんだそう。そしていつの間にか二体に増えてたドラゴンは倒せはしなかったものの、かなり弱らせることができていて、さらに夢見の魔女の言う事を全く聞かなくなったんだって。連携の取れなくなったドラゴン達を桃佳はあっさり倒して見せた。おかげで聖女モカの評価はますますうなぎ上り。フィロメーラさんのお話は私が魔法でほとんどの魔物を倒して、魔法石の呪縛から王都の人達を開放したことを王家に説明すべきだって言いに来てくれたんだ。王太子様が聖女モカの功績として報告したんだって。
「結局みんなの記憶は戻らないままだし、このままフェードアウトしちゃおうかなって。ダメかな?」
「リサがそれでいいのなら、僕は構わないけれど」
「リサ様は無欲でいらっしゃいますね」
「うーん、面倒じゃない?お城に呼ばれてまた式典とかなんて……」
舞踏会にお呼ばれしてちょっとダンスするくらいならいいけどね。それにまた魔物が出たら、討伐を手伝うくらいはやろうと思ってる。
「リサ様は聖女よりも魔女の方が向いていらっしゃるようですね」
「魔女かぁ……」
そっかぁ、聖女じゃないなら私って魔女ってことになるのか。私は胸元のペンダントを見た。
「それ、結局戻ってきちゃったね」
「うん。困っちゃうね」
私のペンダントにはアビーから貰った魔法石の他になんとコスモス王家の秘宝がくっついてる。一度王太子様にお返しして宝物庫にしまってもらったんだけど、しばらくしたらまた私の所に戻ってきてしまってた。
「たぶんもう一度返しても同じだよ。リサはその魔法石に選ばれたんだ」
「フィロメーラさんも同じようなこと言ってたね……。でもこのまま私が持ってて大丈夫かな?逮捕とかされない?」
あの王太子様って私のことあんまり好きじゃないみたいだからなぁ……。
「そこはフィロメーラ殿が何とかしてくださるでしょう。大丈夫ですよ、リサ様」
フィロメーラさんを信じないわけじゃないけどやっぱり不安……。思わず雪の降り積もる窓の外、お城の方向を見つめてため息をついた。
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雪の積もった北の荒野に魔物の咆哮が響く。魔法の攻撃音と剣で切りつける音。
「久々に多いわね」
桃佳が不満気に呟いた。
「まあまあ、今回は国中の魔女に召集がかかってますから、すぐに終わりますわ」
フィロメーラさんは相変わらず桃佳の宥め役だ。
「そうね。さっさと終わらせましょう。行くわよ!水樹里紗!!」
「はいはい……」
「面倒なら帰る?」
隣にいたセシルが耳元で囁いた。
「ううん。村が近いから急いだ方がいいと思う。頑張ろう」
「わかった」
とりあえず一番近くにいた魔物をサクッと倒した。夢見の魔女の時に使った広範囲魔法は今回は封印。秘宝の魔法石を持ってることを知られるとまずいのと、私の力を知られると面倒そうだと師匠のチェルシーからアドバイスを貰ってるから。村に近づきそうな魔物から順番に倒していこうと思ってる。あ、向こうにアビーがいる。面倒そうに魔物を倒してるなぁ……。
夢見の魔女の一件以来、急遽法律が作られて、コスモス王国の魔法使いや魔女は全て王家に服従することが決められた。つまり王国の命令には逆らえないってことだよね。逆らうと魔物と同じ討伐対象になってしまう。今まで通り自分の研究は続けてもいいことにはなってるから、こういう時に召集される以外はほぼ自由なんだ。
魔物討伐が終わったその夜、桃佳と私達魔女は同じ天幕に集まってお茶を飲んだ。桃佳が女子会をやりたいって言い出したんだよね。メンバーは桃佳とフィロメーラさん、アビーにチェルシー、そして私。セシルは不満そうだったけど、一応聖女モカには逆らえないから渋々自分の天幕に戻ってた。
そこで聞かされたのは夢見の魔女のこと。
夢見の魔女は現国王様の祖父である先々代の国王に仕えていた魔女だった。使い捨てられた魔女。聖女になれなかった魔女。王子に選ばれなかった魔女。国王の側妃にという話もあったが強く拒絶され、いつからか王城から姿が見えなくなった。いつまでも変わらず若く美しく、力の強い人だったと母である先代王妃から国王様は聞いていたらしい。
「その魔女のことは聞いたことがある……」
チェルシーは一人だけお酒を飲みながら、何かを思い出すように考え込んでいた。チェルシーは幼い姿が気に入ったのか、魔力を取り戻してもそのままでいる。お酒を飲めるってことは大人なんだろうけど、何歳なんだろ?
「側妃は嫌よねぇ。ありえないわ」
「うん。私も嫌」
「私も嫌ですわ」
この話では桃佳とフィロメーラさん、私の意見は同じだった。
「王家や貴族なら複数の妻や愛人は普通よ」
アビーも嫌そうに吐き捨てた。女の子だったら普通に嫌だよね。特に私達や夢見の魔女にはちょっと受け入れられないことだと思う。
「まあ、ルークは私一人だけって言ってくれてるけどね!」
「はいはい。ご馳走様!」
桃佳は自慢げに胸を張った。仲が良さそうで良かった。ルーク王子は王太子じゃないからそれでも通じるんだろうね。
でもそっか……。夢見の魔女の本当のことは目覚めた時に聞いてみないとわからないけど、辛い思いをしていつしか心が歪んでしまったのかもしれない。いつか話ができる時が来るのかな。
その夜は遅くまで楽しいおしゃべりが続いた。なんだか学校に来てるみたいで楽しい。
「ちょっと、この女子会楽しいじゃない!また集まっておしゃべりしましょうよ!今度は氷の魔女も呼びましょう」
桃佳の提案にみんなが賛成して、またいつかの夜にこっそり集まろうってことになった。まるで魔女の集会みたいだね。
「大体小説の通りになったわね」
翌朝の出発間際、桃佳が私にだけぽそりと呟いた。
「そういえばそうかも」
悪い魔女が悪役令息を使って城を襲って秘宝を奪おうとするけど、失敗して聖女に倒される。そんな感じのストーリーだったっけ。ルーク王子を選んだ聖女は王妃にならなさそうだけど、概ね小説の通りになってるかも。
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数年後の春
今日は僕とリサとの結婚式だ。やっと。やっとリサは僕だけのものになってくれる。リサはクロックフォードの遠縁の貴族の令嬢として、ステラ学園に在籍し直しこの春二人で卒業した。その辺りはリサを覚えていた学園の先生方が上手くやってくれたので助かった。僕としては卒業なんて待たなくていいと思ったけど、リサは僕が中退するのを良しとしてくれなかった。
「今からでも遅くないよ。リサ嬢」
昨日もリサに惚れ直した(?)らしいハーヴェイ殿下がクロックフォードの屋敷へ訪ねて来ていたが、リサがなびくはずもない。ハーヴェイ殿下自身だけでなく、恐らく王家としてもリサを取り込みたいと思っているんだろうけど、そんなのは僕が許さない。
実は夢見の魔女の事件当時、かなりの数の人々にリサの活躍は目撃されており、巷では白銀の聖女とか白雪の魔女とか聖なる魔女なんて呼ばれてかなり人気があることをリサは知らない。半球の結界の中に閉じ込められた魔物達が、存在を無効化され白銀の粉子となって消えていく中佇む姿はそう呼ばれてもおかしくない程美しかった。その後も人々を守って戦う姿や覚えた治癒魔術で人々を救う姿は何度も目撃されており、その知名度は聖女モカと並び立つ程だ。
そんなリサを今日からは僕だけが独り占めできる。これからは僕がこの手の中に閉じ込めて僕だけが愛していく。何故か同性なのにリサに執着してる時の魔女アビーにもハーヴェイ殿下にも誰にも渡さない。リサが聖女モカのように前に出たがる性格じゃなくて良かった。今王室内では王太子派とルーク殿下を国王に推す派とで揉めてるらしい。そこにハーヴェイ殿下を擁立したい派がリサを狙ってきていて本当に鬱陶しかった。
この扉の向こうに僕の花嫁が待ってる。僕は勢いよく花嫁の控室のドアを開けた。
「セシル!」
「こら!花嫁の支度部屋に入るな!」
チェルシーが叱ってくるけど、そんなのは知らない。僕の目には美しい純白のドレス姿のリサしか映ってない。魔女の呪縛を解いてくれた聖なる乙女に僕は自分から囚われた。
「さあ行こう、僕の花嫁さん」
「うん。セシル。私の旦那様」
はにかみながら僕に手を預けるリサが愛おしい。
「今日からはずっとセシルと一緒だね」
嬉しそうに微笑むリサを思わず強く抱きしめた。後ろでチェルシーが皴になるとかってガミガミ怒鳴ってきたけど幸せすぎて聞こえない。
降りしきる花びらの中、王都の外れの森の聖堂で行われた結婚式。周囲にはたくさんの人々がお祝いにかけつけており花嫁を驚かせていた。祝福の中夫婦となった二人は時に人々を助けながら末永く幸せに暮らしたという。
終
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