悪役魔女
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「はぁぁぁぁ…………」
私は力が抜けて座り込んでしまった。手に持ったバットが元のダイヤモンドみたいな石に戻ってコロンと宝物庫の床に転がった。
「リサっ!大丈夫?」
「うん。ちょっと力が入らないだけ……セシルは大丈夫?もう何ともない?」
セシルに支えて貰ってやっと立ち上がった。
「ああ、わざと魔法にかかったふりをしてたつもりだったけど、やっぱり全く影響無しとはいかなかったみたいだ。リサにキスされてからは思考がはっきりしたよ」
「ちょ、あれは、そういうんじゃなくて……」
思い出して顔が熱くなってしまう。そういえば私はみんなの前で自分から……うわぁ……恥ずかしい。
「何とか撃退できたかな?」
「いや、奴が簡単に諦めることはないだろうな。それにまだチェンバーズ達が捕まったままだ。助けにいかないと」
「そうだったよね」
私は足に力を入れた。あの三人は夢見の魔女に力を吸い取られ続けてる。もしかしたら命も危ないかもしれない。早く助けに行かなくちゃ。付け焼刃の特訓だったけど、今なら三人を助けられるかもしれない。
「まさかこの秘宝を使いこなすものがおるとはな」
赤いローヴのロッソ先生が何か布のようなものを使って床に落ちた王国の魔法石を拾い上げた。宝物庫の外では壁に打ち付けられた人達がみんな起き上がって来てる。
「良かった。みんな大丈夫そう」
「大丈夫じゃないわよ!すごく痛かったんだからね!セシル・クロフォード!!」
桃佳が腰に手を当てて、めちゃくちゃ怒って怒鳴りつけてきた。いつの間にか復活してルーク王子やフィロメーラさん、ハーヴェイ王子や王太子様と一緒に宝物庫に入って来てたみたい。
「申し訳ございません、聖女様。なにぶん夢見の魔女に操られてしまっておりまして……」
セシルはしれっと、でもとても丁寧に頭を下げた。
「もうっ!」
桃佳はぷりぷりと怒ってたけど、それ以上は追及してこなかった。その後はフィロメーラさんと一緒に怪我人の手当てをしてまわってた。
「へえ、それが王家の秘宝かぁ」
「光り輝いていて眩しいですね」
ハーヴェイ王子とルーク王子はロッソ先生の手の中の魔法石を興味深そうに眺めてる。
「お手を触れてはなりません。こいつはとても気まぐれなのでお怪我をされては大変だ」
ロッソ先生は複雑な模様が刺繍された布で魔法石を隠すように包み込もうとしたけど、できなかった。
「うわっ!動いた?!」
ルーク王子もハーヴェイ王子も驚いて一歩下がった。そして魔法石は布を押しのけてなんと私の方へ飛んできた。
「わわっ!!」
慌てて受け止めたけど、これ、どうすればいいの?私は困ってロッソ先生を見たけど、ロッソ先生は苦笑いするだけだった。
「この魔法石もリサのことを好きになったみたいだね」
セシルは魔法石と私を見比べて嬉しそうに笑った。
「笑い事ではないぞ!クロフォード侯爵令息!私への狼藉や宝物庫への侵入と王国の秘宝の勝手な使用。これは許されざる大罪だ!!」
怒りの形相の王太子様がグラウ先生、ヴェルデ先生、アスール先生や学園から駆けつけたノワール先生に囲まれてセシルに迫って来た。先生方は王太子様を止めようとしたみたいだけど勢いが凄かった。
「お待ちください!クロフォード殿は明らかに様子がおかしかった」
「そうですぞ!あのようなことをなさる方ではありません。お話をきちんと伺わなくては!」
「そしてリサ嬢は秘宝の魔法石に選ばれたお方。無下に扱われてはなりません!」
「そうですぞ!リサ嬢のおかげで助かったのですから!」
先生方は一生懸命とりなしてくれている。
「しかし……!」
「王太子殿下、我が本意では無かったとはいえ先程の無礼はお詫び申し上げます。ですが今は火急の時です。夢見の魔女は我が王国を消滅させ、新たな世界に作り替えようとしています」
「は……?」
セシルの言葉に王太子様を始め、その場にいたみんな(たぶん桃佳以外)が顔を見合わせて困惑していた。
その時、一人の兵士が宝物庫の入り口へ走って来た。
「城に!城の外に魔物が!魔物が王都を取り囲んでいます!」
「なに?」
王太子様はそのまま言葉を失った。
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『最初からこうすれば良かった
他人任せにしたからこんなことになったのよね
まずは邪魔な王家を消してしまいましょう』
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『王国の秘宝を渡しなさい。さもなければこの魔物達が王都を破壊するわ』
長い黒髪、白いワンピースに白いマントを身につけた女の子がお城の空に浮かんでる。でもその姿は後ろの空が透けていて何かの映像みたい。可愛い顔立ちなのにその暗くて陰鬱な表情で台無しになっていた。周りにはたくさんの魔物達が威嚇するように空を飛んでいる。
「あれが夢見の魔女なの?」
「うん。間違いない。僕に命令してきたのはあの女だ」
「なんか透けてるし、幽霊みたい……」
「あながち間違ってないかもね」
セシルと一緒にお城の庭に出て空を見上げてた。どうしても離れてくれないから魔法石はまだ私が持ってるんだけど、大丈夫かなこれ。なくしたりしたら逮捕とかされそう……。
『その魔法石を渡しなさい。さもないと王都の無事とあの三人の命の保証はしないわ』
夢見の魔女は私を指差して暗く笑った。その言葉に兵士さん達や先生方が私を(っていうか魔法石を)守るために前に出た。
『私を裏切ったセシルは許さない。魔法石を渡さないのなら、まずはあの金髪の男の生命エネルギーを吸い尽くしてやるわ』
「!」
「チェンバーズ……」
それってチェンバーズさんが死んじゃうってこと?そんな……!
「いけません!」
私が魔法石を渡そうとしたら、兵士さんの中の一番偉い人っぽい人に止められた。
「でも、渡さないとチェンバーズさんが死んじゃう……」
「駄目だよ、リサ。これを渡してもどのみちみんな助からない」
「どうしたらいいの?」
私達は空を見上げててそれに気が付かなかった。地面から伸びる黒い腕に。あっという間に魔法石を取られてしまう。
「あっ!」
「しまった!」
セシルが剣を振るうけど間に合わない。魔法石を持った黒い腕物凄い速さで夢見の魔女の手の中に収まった。夢見の魔女はうっとりと輝く魔法石を見つめた。
『うふふふ、やったわ!これでこの世界は、小説の、私の思い通りになる……きゃあぁっ!』
透けた夢見の魔女は魔法石を投げ捨てた。一瞬魔法石から煙が出たような気がする。
「やっぱり拒絶されたか!」
嬉しそうに庭に出てきたのはハーヴェイ王子だった。後ろにはルーク王子と桃佳、それにフィロメーラさんもいた。
「ハーヴェイ殿下?!危険です。城の中へお戻りください」
兵士の隊長さんが慌てて城の中へ戻そうとする。
「こんなのどこにいても同じだよ」
確かにいつ魔物達が城の中に侵入してくるかわからない。今はまだ攻撃されてないだけだから。
「夢見の魔女は魔法石に認められなかったってことか」
セシルの言葉に安心したものの、危機的な状況は変わってない。
『もういいわ……この世界が私を全否定するなら……これで全部壊してやる』
そんな!それって八つ当たりじゃない?
唇をかみしめた夢見の魔女が右手を上げると、魔物の咆哮が響き渡った。
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