秘宝の魔法石
来ていただいてありがとうございます!
「今……クロックフォードって……ちょっと待って!」
私は特訓を中断して二人に駆け寄ろうとしたけど、兵士さんに案内されて桃佳とフィロメーラさんは行ってしまった。
「リサ様はどうぞ特訓の続きを!」
フィロメーラさんにはそう言われたけど、気になって仕方ないから絶対無理!セシルがどうかしたの?兵士さんや二人の様子がおかしかった。もしかして夢見の魔女に何か動きがあったの?私は最後の魔法石を掴んで二人の後を追った。走りながら特訓の続きで魔法石をロッドの形に変えていく。なんだろう……。不思議な感覚がある。この最後の魔法石に体の中の何かの感覚を引き出されていくような気がする。
「最後の魔法石の詳しい説明、聞いておけばよかった」
今日はノワール先生はステラ学園の授業でお城へは来てないんだよね。ちょっと後悔したけど、たぶんこれを使いこなせればかなりのレベルアップにはなるはず。私の手の中で魔法石は透き通って水晶のようになり、白い光を放ってる。金色と銀色の光の輪がついた錫杖みたいな形に変化した。走る振動に合わせてシャラシャラととても澄んだ音がする。
「なんか、今までと違う……」
今までは持て余してた魔力をこの最後の魔法石はかなり受け止めてくれてるような気がした。
三人を追ってお城の地下の道を走った。私がいた薄暗い洞窟みたいな地下じゃなくて、ちゃんとしたお城の中みたいな地下の道。ちなみにお城の中では転移魔法は使えないんだって。防犯上、場所ごとに魔法の仕切りみたいなものがあるらしい。せっかく特訓の合間にフィロメーラさんに教えてもらったのに、肝心な時に使えないなんて……。地下には不似合いな豪華な装飾がされた廊下や壁。煌びやかな廊下の先には大きな広間があった。三人はそこへ入って行く。
やがて豪華な装飾の施された大きな扉が見えてきた。たぶんあれが宝物庫の扉だよね。その前にルーク王子様、王太子様、ノワール先生以外のステラ学園の魔法使い達や魔法使いのローブを着たたくさんの人達や兵士さん達が集まってる。みんなに対峙するようにこちらに背を向けて立ってるのは見覚えのある後ろ姿だった。
「セシル?」
私の呼びかけに反応は無かった。黒い王子様みたいな服を着たセシルはなんかカッコいい。闇落ちしたヒーローみたい。ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。セシルからはいつもとは違う大きくて仄暗いような魔力を感じる。
「さあ、さっさと王家の秘宝を渡してもらおう。我が主がご所望だ」
冷たく言い放つセシル。我が主って何?誰のこと?
「セシル!!」
もう一度呼びかけたけどやっぱり反応してくれない。
「危ないよ。前に出ちゃダメだ」
「ハーヴェイ殿下?」
私の両肩を押さえて下がらせたのはハーヴェイ第二王子だった。いつからいたの?
「ちょっと城から出ていてね。駆けつけるのが遅くなってしまった。何だろうねこの騒ぎは。魔女じゃなくてセシルがいるみたいだけど。そういえば特訓をしてるって聞いてるけど?って聞くまでもないかな」
ハーヴェイ王子は私の手に持ったロッドを見て眩しそうに眼を細めた。
「聖なる輝きか。素晴らしいね。やはり貴女を王家に迎え入れたいな。僕に乗り換えない?」
この人こんな時に何を言ってるの?呆れて言葉も出ないよ。そういえば前にも似たようなことを言われたけど、もしかして記憶が戻ってきてるの?
ふいにセシルがこちらを振り向いた。無表情で目に光が無い。これ小説とかでよくある典型的な操られてる表情なのでは?じゃあさっきセシルが言ってた主って、夢見の魔女?夢見の魔女に操られてコスモス王家の秘宝を盗みに来たの?何でこんなことに……どうしよう、どうしたらいいの?
「へえ~、やっと小説の通りになってきたわね!」
「桃佳!」
いつの間にかルーク王子を守るように桃佳とフィロメーラさんが立っていた。途中で見失ったからどこか別の入り口から回り込んだのかもしれない。
「ちょうど良かったじゃない。ダブルヒロイン、ダブル聖女なのは気に入らないけど倒すわよ!悪い魔女とその手下!」
「セシルは手下じゃない!セシルっ!!大丈夫?!」
桃佳ってばやる気満々だ……。でも私もセシルを取り戻したい。そのために特訓を頑張ったんだから!アビーやシビルの時みたいにこのロッドで浄化すれば元に戻る?とにかくやってみなくちゃ。
「こらこら、前に出すぎたら危ないよ」
ハーヴェイ王子が困り顔で私を抱きしめるように引き留めた。
「離してくださいっ!セシルを助けないとっ!」
ハーヴェイ王子を押しのけてセシルに近づいた。
「へえ、僕がいない間に殿下と浮気?酷いな」
「浮気なんてしてないっ……あ」
背中を見せたセシルに好機とばかりに兵士達が拘束しようと襲い掛かった。でも。
「邪魔をしないでもらおう」
セシルが剣を一閃すると突風が起きて兵士達や魔法使い達が広間の壁際に吹っ飛んで行った。桃佳とフィロメーラさんはルーク王子を魔法で庇ったみたい。学園の先生達は王太子様と一緒に無事な姿で立っていた。吹っ飛ばされて壁に激突した人達はみんなぐったりしていて動かない。
「こんな……」
セシルに人を傷つけさせるなんて……。許せない。セシルは炎の魔法が得意だったはず。無意識に危険な魔法を使わないでいるんだと思う。何とかセシルを正気に戻さなくちゃ!
「セシルっ!ごめんね!」
ロッドを振りかぶりセシルの頭に振り下ろそうとした。少し痛いかもだけど我慢してね。でも私のロッドはセシルに届く前に止まってしまった。目に見えないバリアがあるみたいに。
「酷いな。こんなもので僕を殴るの?まあこれも一つの愛情表現として受け取っておくね」
ロッドをはたき落とされて手首を掴まれた。セシルの力はそんなに強くないのに魔法を使ってるのか、掴まれてるのは手首だけなのに体の自由が利かない。落ちたロッドは魔法石に戻って床に落ちた。セシルはそれを拾い上げると自分の剣の柄に押し込めてしまった。ええ?!これって夢見の魔女に操られたセシルがパワーアップしちゃったってこと?どうしよう……。私のせいで状況が悪化してしまった。
セシルがもう一度剣を振るうと今度は誰も防御できなかった。
「きゃあっ!」
桃佳やフィロメーラさんまで吹っ飛ばされて壁に打ち付けられて座り込んでしまった。セシルは無防備になった王太子様に剣を突き付けて、ルーク王子に向かって言った。
「さあ、宝物庫のドアを開けてもらいましょうか」
セシルは鍵を開けたルーク王子を剣の魔法で桃佳の所まで飛ばした。
「ルーク!!」
桃佳が魔法で受け止めて無事だったみたい。やっぱりセシルは無意識に怪我をさせないようにしてるみたい。
ドアの向こうは眩しい光。宝石や金貨なんかが無造作に積まれてる。奥の方には古そうな本達。そしてほぼ中央にある金色のテーブルの上には宝石箱が置いてある。
「一緒においで」
セシルに手首を掴まれたまま私もそこに近づいた。箱のふたは簡単に開いてしまって、中にはダイヤモンドみたいに煌めく大きな石が入ってた。見るだけでわかる。これには強い力がこもってるって。
ダメ!これをセシルに、夢見の魔女に渡しては!私はセシルより先に煌めく魔法石に手を伸ばした。
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