ウサギ乱入
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『あらあら、どうしてあなたにはこの魔法が効かないのかしら』
『物凄い魔力ね。さすが渡り人だわ』
『でも、あなたはこの世界の住人じゃないのよね。私と同じ』
聖堂の壁に夢見の魔女の姿がいくつも映って、それぞれの口が私に話しかけてくる。だけど私は動かなくなってしまった四人を前に呆然とするだけだった。セシル……どうしよう……セシルが死んじゃった?生きてるよね?大丈夫だよね?ゆっくりと足元の床が侵食してくるけど、光の砂になって散っていく。それでも次第に侵食の速度が上がってきてるような気がする。
『どうして帰って来たの?せっかく用意してあげたのに。あの世界で幸せな夢を見続けてたら良かったのに』
「あの世界は牢獄……偽物なんでしょう?」
元の世界へ帰されるならともかく、あんな場所にいて夢を見続けることが幸せなはずない。
『そうね。でもこの世界に来てしまったら、もう向こうの世界にはあなたの居場所は無いのよ?』
からかうような声が冷たく響く。
「どういう意味?」
『こちらに来てしまった時点で、向こうの世界からあなたの存在は消えてしまってるから。勿論鈴木桃佳さんもね』
「え……、存在が消える?いなかったことになってるの?」
私は覚えているのに?待って。この魔女が本当のことを言ってるとは限らない。そうだよ、この人は魔女なんだから!……でも、この人も私と同じ日本人で同じ渡り人だった。じゃあ、本当の事なの?
『そうよ。存在ごと切り離す。そういう魔法だから。安心してね?あなたを心配してる家族なんてもういないから』
お母さんも弟も妹もおじいちゃんもおばあちゃんももう私のことを覚えていない……?帰れない覚悟はしてたけど、まさかそんなことになってるなんて。自分の根っこが消えてふわふわと頼りなく浮いているみたいに感じる。気持ちとは正反対に体が重たくなって床に手をついてしまってた。指先がオーロラ色の魔法石の色に染まっていく。でももうどうでもいいやって思っちゃう。
「…………あなたは何者なの?さっき渡り人って言ってたけど」
頭の中にもやがかかったみたいにぼんやりと考えがまとまらない。
『里沙さんと同じよ。日本から突然こちらへ来たの。向こうでは普通の大学生だったわ。大学へ行ってバイトして妹が書く小説を楽しみにしてた』
私も学校へ行ってバイトして弟と妹とご飯食べて……。ああ、あの家にもう私はいないんだ。いろんな思い出がよみがえってきて、それがどんどん消えていく。
『ふふ……それにこの世界にもあなたの居場所はなくなっちゃったわね』
そうだった……。私のことはみんなに忘れられちゃったんだっけ。それにセシルまこんなことに……。こんな場所に不用意に踏み込んだせいで。
『あなたのせいで』
「私のせいで……」
バタンッ!!
突然の大きな音にハッとなる。頭の中がはっきりした瞬間に白いモフモフしたものがたくさん飛び込んで来た。
『なっ!?』
「え、何?これ何ごとっ?!」
ウサギ?白い毛足の長いウサギで目が水色で可愛いっ!!可愛いけど小さな氷色の角が生えてるウサギ達がたくさん飛び込んで来たっ!?あれ?角?もしかして氷ウサギって魔物なんじゃないの?!
「きゃぁぁぁっ!うさぎちゃん達待ってぇぇっ!」
「シビル?!」
ウサギ達の後を追って、今度はシビルが聖堂に飛び込んで来た。ウサギ達が視界を覆っていき夢見の魔女の姿が見えなくなる。
「リサ、行きましょぉ!」
シビルが私の手を握って立たせ、聖堂の扉の方へ向かって走っていく。
「ちょ、ちょっと待って!!セシルがっ!それにチェンバーズさんもアビーもチェルシーも……」
引っ張られながら足を止めようともがくけど、シビルの力は意外に強くて全然逆らえなかった。
「今はとにかく逃げて下さい、リサ様」
フィロメーラさんの声が聞こえてきて、またびっくり!周りを見回すけど白いモフモフしかいない。
「フィロメーラさん?!ここにいるの?」
「いいえ。私はその場所にはいません」
そうだよね。桃佳と一緒にお留守番のはず。
「詳しい事はまた後で!今はすぐにその場を離れてください!」
「急ぎなさいっ!水樹里沙!」
「桃佳……?でもセシルが……」
「いいから急ぎましょうぅっ!」」
大量のモフモフウサギ達と一緒に扉を駆け抜けて聖堂の外へ転げ出た。後ろで聖堂の扉がバタンと閉じる。
雪が降りそうだった曇り空はいつの間にか晴れて夕焼け色に染まってた。
「寒い……」
どうしよう……。みんなを置いてきちゃった……。
「セシル……セシルっ!!」
いくら呼びかけても応えてくれる声は聞こえてこなかった。
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