掃討
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「緑の魔女は拘束してある。しかし本当なのか?彼女が魔物を呼んだというのは」
ハーヴェイ王子はコスモス王国の南に広がる荒野の高台に立ち、隣に立つセシルを見た。
私達の眼下では無数の魔物達が魔法使い達が作り出した最後の土の壁近くまで押し寄せて来ていた。コスモス王国中の魔法使いや魔女程の力を持たない女性の魔法使い達が呼び集められ、なんとか今日まで魔物の侵攻を食い止めてきたけど、そろそろ限界が近づいていた。
「緑の魔女の背後に彼女を操っていたもう一人の魔女がいるんです。今はなりを潜めていますが……。そいつが緑の魔女に指示と力を与えていたようです」
セシルは私を助ける為に緑の魔女グロリアに操られたふりをして、グロリアのアトリエに潜入したんだって。そしてひとまず力をそぐために魔法石を奪うことにしたそう。何日か観察した後、私達と同じようにペンダントにして魔法石を持っていることを確かめ、それを奪い取ったそう。お気に入りのセシルが手に入って油断してたんだろうね。でも、ちょっとモヤモヤすることがある……。私と再会するまで約十日間、ずっと一緒にいたのかな?今はそれどころじゃないけど、後で聞かなくちゃ。
「それにしてもセシル、どうしてその子達を連れて来たんだ?こんなに危険な場所に」
ハーヴェイ王子は聞いていた通り私の事を覚えてないみたいに見える。ここまで完璧に忘れられてるなんてちょっと不思議な感じ。兵士さん達もちらちらと不審そうに珍しそうに私達を見てる。でも私の事を覚えてる人とそうでない人がいるのはどうしてなんだろう?
ハーヴェイ王子が「その子達」と言ったのは私の他にチェルシーとアビー、シビルが一緒について来てるから。もちろんチェンバーズさんもいるけど、今は大人の姿に戻っててセシルのそばについてる。
「僕のお姫様は少しばかり頑固なんです。まあそこが可愛いところなんですけどね」
私達は魔物が蠢く最前線に進み出た。
動きやすいようにステラ学園の制服で行ったせいか、なんで学生がこんな戦場にいるんだって声が聞こえてくる。うーん、あの聖女の衣装って身につける意味があったのかもしれない。
「面倒だわ。もう一気にやるわよ」
何故かとてもイラついてるアビーがバキボキと指を鳴らし始めた。
「そうね。まずはこれを何とかしてあの女と話をつけないとね。まったく困ったちゃんなんだから」
あどけない愛らしい姿で、百戦錬磨の妖女のセリフを言うチェルシー。こちらもイライラマックスという感じ。
「どうして私までぇ……早く帰りたいのにぃ。うさぎちゃん達が寂しがってるわぁ……」
「ごちゃごちゃうるさいわよ!シビル!あの魔物達は次にあんたの可愛いウサギたちを襲うかもしれないわよ」
「え!?そうなの?そんなことさせないわ!!」
シビルはポケットから魔法石をいくつも取り出して構えた。シビルって普通に喋れたんだ。
「リサ、決して無理はしないようにね」
セシルが私の手を握って耳元でささやいてくる。吐息がかかって飛びのきそうになるけど、手を繋がれてるから離れられない。
「駄目だよ、僕から離れちゃ。約束しただろう?」
ここへ来るのをセシルは最後まで反対してて、絶対に離れないって約束してやっと許してもらえたんだよね。
「わ、わかってる。大丈夫!無理はしないし、セシルから離れないから!」
「お願いしますね、リサ様。リサ様が無事でないと今度こそ坊ちゃんがどうなってしまうかわかりませんから」
「は、はい。気を付けます」
チェンバーズさんにも笑顔で圧を加えられた。グロリアのことは不可抗力だと思うんだけどな……。
チェルシーが言うには私の元の世界への心残りを利用されたらしいんだ。あのリンゴの香りは魔法薬の香りで人の心の奥底にある願いを増幅させる効果があるらしい。ジェシーさん達もその魔法薬を使われたんだね。その望みをかなえるために私をあの夢の世界に連れて行ったから、私には害意を感じられなかったということなんだって。
「来るわよ!」
ゴゴゴゴゴゴゴって音がして、バリケードになってた土の壁が崩れ始めた。セシルとチェンバーズさんは剣を構える。
「みんな!気を付けてね!」
私は緊張しながらみんなに声をかけた。胸がドキドキしてるけど、セシルの手の温かさが私を安心させてくれてる。とうとう壁の一部が壊れ始めた。たくさんの魔物がなだれ込んでくる。
「よくもまあ、ここまでの魔物を呼び寄せたわね、あの女……!」
魔物が次々と凍りつき、収縮し黒い靄のようになり消滅し、土から生えてきた木々に串刺しにされ、植物に寄生され気味の悪い形の木になり、炎の剣で焼き払われていく。私はどうしよう?セシルの後ろを走りながら考えたけど、やっぱりこれかな。
「じゃーん!巨大バットー!!」
かっこよく剣を使いたいけど、刃物は使い慣れてないと危ないよね。巨大といってもちょっと長めなだけのバットを出してみた。
「よーし、私も!」
早速セシルを狙ってきたオークみたいな魔物を打ってみた。あれ?手応えがない……???バットが触れた瞬間、オークの体が白い塵になって消えた。ついでにその後ろにいた魔物達もいなくなっちゃった。
「あれ?」
「さすがだね、リサ」
「なんなのその武器。えげつないわね」
セシルとアビーが褒めてくれた。……アビーは褒めてないかもしれない。
「濃密な魔力の集合体ね。素晴らしい魔法だわ」
褒めてくれるのは嬉しいけど、チェルシーの周りを囲むように串刺しの魔物が並んでるのが怖い。
「そんなに凄いなら私要らなくない?早く終わらせて帰りましょう、そうしましょう!」
シビル、なんだかキャラが変わってない?
うおおおおおおっ!!
高台の方から大声が聞こえる。この展開は確か前にもあったような気がする。たぶん兵士さん達が歓声を上げてるんだと思う。みんな強いもんね。頼もしいよね。
私達はその後もサクサクと魔物を掃討していった。
「……あれ?もう終わっちゃった?」
気が付くと夕暮れを迎える前に南の荒野の魔物達は影も形も無くなっていた。
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