目覚め
来ていただいてありがとうございます!
「リサッ……!!」
セシルの声が聞こえた気がした。
「行ってらっしゃいませ」
夕暮れの車窓を背景にチェンバーズさんが優雅に一礼した姿を見ながら私は光に包まれた。懐かしい電車の光景が遠く離れていく。
「リサぁ……どこなのぉ……。私は早く帰りたいのぉ。愛しいうさぎちゃん達が待ってるからぁ」
「あーっ!うるさいわよ!シビル!静かに探せないのっ?!」
目が覚めて目に入って来た光景は、なんだか怖かった。薄暗い部屋の中でぼんやりと光に照らされた女子二人がそれぞれに鏡に向かって難しい顔をしてる……。妖しさ大爆発って感じ。
「アビー、何やってるの?それにシビルまで……」
体を起こすと私の上に半透明の時計の文字盤が浮かんでるのが目に入った。その文字盤はどんどん薄くなっていってやがて見えなくなったけど、これってもしかしてアビーの魔法だったのかな?
「リサ?!目が覚めたの?!」
アビーが酷く驚いた顔でこちらを向いた。うわぁ、目の下のクマがすごい。よくわからないけどものすごく頑張ってくれてたみたい。
「あらぁ……良かったわぁ。これで帰れるぅ……」
ああ、シビルもアビーに負けず劣らずな状態だ。
「二人とも、もしかして心配かけちゃった?ごめんなさい!私どのくらい寝てた?……っ!」
正確に言うと寝てたわけじゃなくて幽体離脱みたいな感じだったんだよね。まだ体に魂が馴染んでないのか、起き上がろうとしたらめまいがしてまたベッドに倒れこんだ。
「ちょっと!そんな急に起き上がっちゃダメよ!」
アビーが慌てて駆け寄って来る
「平気、ちょっとめまいがしただけだから……」
「ダメよ!まだ寝てなさい!」
アビーは眉を吊り上げて私を押さえつけてきた。
「お母さんみたい」
「まだそんな年じゃないわよっ!失礼ね!」
なんだか可笑しくなって少し笑ってしまった。
「リサっ!!」
暗い部屋に突然光が射した。ドアの無い壁に大きな穴が音もなく出現した。
「ええええ?!壁に穴が開いた?!」
「リサ!」
「え、セシル?!」
どこから来たの?!っていうか今までどこにいたの?今のって何?どんな魔法?様々な疑問が次々と頭に浮かんでくる。またセシルに会えたことが嬉しくて涙が出そうになる。
「リサ!」
「うぷぅ……っ!!」
へ、変な声が出ちゃった……。だってセシルが私が寝てるベッドに飛び込んできたから。おなかの辺りに強い衝撃があった。
「セ、セシル、苦しいよ」
そしてそのまま抱き締められた。動けない……。自由になる腕でセシルのふるえる背中をさすった。
「ごめんね、セシル。かなり心配かけちゃったみたいで……むぐ」
……え?キス?キスされてる?!ちょっと待ってここにはアビーもシビルもいるんだよ!なんかさっきセシルの後ろにチェンバーズさんとチェルシーもいたように見えたんだけど??
「んん……っ!んんんセシル、離れて!ー!!」
たぶんみんなに見られちゃってるよね。ああ、恥ずかしい…………でもそのくらい心配させちゃったんだ。そう思うとセシルを突き飛ばしたりとかはできなかった。
「ちょっと!いつまでやってんのよ!リサの体調はまだ完全じゃないのよ!」
アビーが怒ってセシルを引きはがすまで、セシルは私を抱き締めたままだった。
「十日間?!私、そんなに眠ってたの?」
あの年の終わりの舞踏会の夜から、かなりの時間が経ってしまっていた。私が目覚めた時に見た時計の文字盤はやっぱりアビーの時の魔法だった。私の体の時間を止めて(実際には時の流れを物凄く遅くしてくれてたらしい)、私を守ってくれていた。
「もう!ひとが必死こいて魔法二つを同時進行でリサを探してたのに、自分で帰ってきちゃうんだもの。やってらんないわよ!しかも目の前でイチャイチャと!全くいやらしいわね!」
「う、ごめん。アビー、ありがとうね。シビルもありがとう」
私は部屋の隅で顔をまだ赤くしてるシビルにもお礼を言った。
「い、いいのぉ……。大丈夫だから」
シビルはそう言って顔を手で覆ってしまった。
「別に謝る必要はない。悪い魔女に引き裂かれた恋人同士の感動の再会なんだから」
私の隣でベッドに腰掛けるセシルは全然悪びれる様子がない。
「坊ちゃん。今はそれどころではないかと思われます」
「やはりチェンバーズか。何故そんな姿をしてるんだ?」
「詳しく説明を申し上げる時間はございません」
幼い姿のチェンバーズさんとチェルシーがここにいる。ということはあの子達もあの夢の牢獄から戻ってこれたってことだよね。良かった。
「今、コスモス王国は魔物の大群の襲撃を受けてるわ」
チェルシーの言葉に唖然とした。
「この前と同じように王国の北方、南方同時に魔物が大量発生してるの」
「今現在は北方をモカ様と陽光の魔女が押さえておられます。襲撃は減りつつありますが、問題は南方の方でございます。ハーヴェイ殿下が率いる兵団は国境付近にまで押し返されて来ています」
「魔物の規模がどれくらいか、正確なところはわからないが、それでも善戦している方だろうな」
チェンバーズさんの言葉に焦りの表情を浮かべるセシル。ハーヴェイ王子とは幼馴染でとても仲が良いからすごく心配なんだろうな。
「じゃあ、私達もすぐに行こう!」
「リサ……しかし……」
「ちょっと!やめなさい!まだ無理よ。リサは起きたばかりなのよ?」
躊躇うセシルと怒って止めてくるアビー。
「でもこのままだと南の地方の人達が危ないんでしょう?行かなきゃ!もし攻め込まれたらあっという間に王都まで来ちゃうかもしれない」
まだ国の外にいる今のうちに倒してしまわないと。私はセシルに手を借りてベッドから起き上がった。
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