なんなのよ?
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※複数視点です
「……なんなのよぅ?どうして私までぇ……」
暗い部屋の中に何とも情けない声が響く。白色と薄青色の二つの光が二つの人影を浮かび上がらせている。
「あんただってリサに助けてもらったでしょ?シビル!ちょっとは協力しなさいよ!」
「わかってるわよぅ。アビーって魔女使いが荒いわぁ……」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとリサを探してよ!探索は得意でしょ?」
「私の探索魔法は氷うさぎちゃん達の巣穴を探すためにあるのにぃ……」
ちらりとベッドに眠り続けるリサを見てからアビーは水晶の鏡、シビルは氷の鏡にそれぞれ向き直った。
アビーは焦っていた。水晶の鏡に魔力を込め、リサを探しながら陽光の魔女の言葉を思い出していた。
『心がここに無いようですね。心が帰ってこなければ体は空虚なまま目覚めることができないかもしれません。以前に同じように心を無くした人を見たことがありますが、その方は終始ぼんやりとしてそのまま衰弱していってしまいました……。リサ様も恐らくは』
『あなたはリサを覚えているのね』
『ええ。大きな魔法が行使されたようですが、魔力の強い者達には効かなかったようですね』
『たぶんやったのは緑の魔女よ。あいつセシルに惚れすぎてリサが邪魔になったのよ。それで殺そうとしたけどできなくて、こんなふざけた真似を……!』
陽光の魔女フィロメーラはかなり古株の魔女で知識量も豊富だと言われている。リサが倒れた後すぐそんな彼女の元を訪れて、リサを救う手立てについて相談をしていたのだった。今現在は、アビーの時の魔法でリサの体の時間を止めてある。これでしばらくはもつだろう。ただしこのままリサの心が帰ってこなければ、緩やかに死を迎えてしまう。アビーの時の魔法はまだまだ研究の道途中で永遠に続くものではなく、万能ではなかった。
「待ってなさいよリサ。今見つけてあげるから!セシルも急いでよね」
時の魔法と並行して探索魔法を使うアビーの表情からはいつもの余裕の表情が消えていた。
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北の荒野に無数の影が見える。影は魔物のもの。それらが地響きを立てて、あるいは空からコスモス王国の領土を目指して向かってくる。
「なんなのよ?!なんで新年早々こんなに魔物の大群が発生するのよ!」
聖女モカはたくさんの魔物を浄化して疲弊していた。
「魔物に私達の暦は関係無いでしょうね。ですが、さすがに厳しいですね……」
陽光の魔女フィロメーラも大きな攻撃魔法を連発していて、かなり疲れた顔をしていた。
「ハーヴェイ兄上の方は大丈夫でしょうか……」
いつもはのんびりとした雰囲気を崩さないルークも険しい顔をしている。それほど事態はひっ迫していた。
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「あらあら、無駄な抵抗をしちゃって!」
緑の魔女グロリアは壁に掛けられた鏡を見て楽しそうに笑った。鏡の中では兵士やモカやフィロメーラが必死で魔物を倒そうとしているところが映し出されていた。
「緑の魔女様、一体何をなさっておいでですか」
花や薬草の鉢、ドライフラワーが所せましと置かれた薄暗い部屋のドアの近く、グロリアからは離れた場所に立っているのは水色と紫色の瞳の青年だった。
「あら、セシル!わたくしのことはグロリアと呼んでって言ったでしょう?」
「僕は使い魔です。主にそのような言葉使いをする訳にはまいりません」
「もう!真面目なんだから!でもそこがいいのよね。ずっとわたくしに冷たかったのはあの渡り人の小娘がいたからなのよね?でももう大丈夫。あの娘はこの世界から排除したから。嬉しいわ。あの邪魔な小娘がいないだけでセシルはこんなに素直になってくれるんですもの!」
緑の魔女グロリアはうっとりとセシルの無表情の顔を見つめながら近づいて来た。
「もう一度最初からやり直しするのよ。コスモス王国は一度無くしてしまおうと思うの。だって失敗しちゃったから」
緑の魔女グロリアの両手がセシルの顔に伸びてくる。
「王国の秘宝を手に入れて、私とセシルの二人の王国をつくるのですわ!」
『そう。今度はみんな物語の通りに動いてね』
鏡の中から声がする。不可思議な現象が起こっていた。緑の魔女は今鏡に背を向けているのに顔が映っている。しかもその顔は緑の魔女グロリアのものではなかった。
「ああ、本当に綺麗だわ……。少しでもあんな女に触れられていたなんて……!腹立たしいわ。綺麗にしなくちゃ」
グロリアはセシルに顔を近づけて唇を重ねようとした。途端に左肩に衝撃が走る。
「きゃあっ!」
グロリアは冷たい床に尻もちをついてしまった。信じられないという顔のグロリアはセシルを見上げた。使い魔にした従順なはずのセシルが自分を思いきり突き飛ばしたのだ。
「気持ちが悪いから触らないでくれるかな?」
「な……何?なんなのよ?どうしてっ?!魔法薬が効かなかったの?」
緑の魔女は床に座り込んだまま呆然と呟く。
「この僕に薬を盛ろうなんていい度胸だな。全く意味はなかったけどね」
緑の魔女を冷たく見下ろすセシルの片手には剣、そしてもう一方の手には淡い黄緑色の魔法石があった。
「それ、私のっ!」
緑の魔女は胸元を探った。ドレスが切れて下着が見えている。
「いやぁっ!」
慌てて両手で胸元を押えた緑の魔女はセシルを睨みつけた。
「よくもこんな……!」
「それはこちらのセリフだ。そんな汚らわしいものを見せないでくれるかな。不愉快だ」
セシルは心底嫌そうに緑の魔女の喉元に剣を突き付けた。
「け、汚らわしいですって?自分でやったくせに!」
逆上しそうになったグロリアを冷たい剣先が押しとどめた。
「僕に触れていいのはリサだけだ」
悔しそうにセシルを見上げるグロリアは動けない。魔法石無しで魔法を使うことは躊躇われた。他にも媒体となる魔法石はあったが、慢心故か身につけてはいなかったのだ。
「リサを返せ。魔物達を止めろ」
セシルは紫色の瞳を輝かせ、剣に炎をまとわせた。チリチリとグロリアの肌と髪が焦げていく。
「ひっ!」
「どうした?早くしろ」
更に炎の剣を近づけるとグロリアはとうとう涙目になった。
「む、無理よ!」
「は?」
「だって私だけの力じゃないもの!あの娘の魂が閉じ込められている場所には一人じゃ行けないし、わからない。それに一度解き放ったあれだけの魔物を制御するなんてできないっ!」
「なんだと?!」
セシルは愕然とした。信用することはできなかったが、グロリアが嘘を言ってるようには見えなかった。
『そうよ。もう止められないの。この国は一度壊してもう一度やり直すの。今度は私が最初から作るから邪魔しないで』
「この声は……」
「夢見の魔女」
「夢見の魔女の声ですね」
セシルの目の前に二人の幼子が立っていた。一人は淡い緑の髪の女の子、もう一人は金色の髪の男の子。男の子に方には何故か既視感があったが、セシルには誰なのか思い出せなかった。
「とりあえず、リサを呼んであげて。セシルにしかできないわ」
「君達は一体?」
「急いでください、坊ちゃん。夢見の魔女が再び動き出す前に」
「坊ちゃん?」
「リサが貴方を呼んでるわ。答えてあげて」
リサが自分を呼んでいる。その言葉だけでセシルを動かすのには十分だった。炎の剣を握りしめてセシルは叫んだ。
「リサ…………!!」
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