黄昏の電車の中で
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電車は黄昏の中をどの駅にも停車することなく走り続けてる。
「夢見の魔女はとても力の強い魔女よ」
森の魔女チェルシーは静かに厳かに告げた。
「そしておそらく今このコスモス王国に広く深く干渉している」
「なんでそんなことを?それにどうして貴女はそれを知ってるの?」
「さあ?知らないわ。でも厄介なことに彼女はそれだけの事ができる力を持っているの。そして私がそれを知っているのは直接告げられたから」
「直接?!じゃあ夢見の魔女を見たことがあるの?」
「いいえ。私が聞いたのは声だけ。ある日突然告げられたのよ。お前は悪い魔女になれって。そしてセシル・クロックフォードを手中に入れて王国の秘宝を盗み出せってね。意味がわからないわ!」
「はい……?」
その話ってとっても聞き覚えがあるんだけど……。えっと、もしかして夢見の魔女は私達の世界の小説の事を知ってて、お話通りの世界を作り上げようとしてるってこと?何でそんなことをするの?
「勿論断ったけどね!なぁんで私があんたのいう事を聞かなくちゃいけないのよ!私は私のやりたいことをやるわ!って言ってやったわ!そうしたら、この様よ!」
頬を膨らませたチェルシーは電車の座席に座りながら両足をぶらぶらと揺すった。
「我が主は魔力を封印されて幼子の姿になってしまったんですよ、リサ様」
チェンバーズさんは一瞬だけいつもの姿に戻ると、また小さい男の子の姿に戻った。今は妹に付き合ってその姿になってるみたい。チェンバーズさんも使い魔とはいえかなり力の強い魔法使いさんなのでは?そしてその主のチェルシーはもっと力が強い魔女なわけで……。そのチェルシーの力を封印できる夢見の魔女はもっともっとすごい魔女ってことだよね?
チェルシーは少しづつ複雑な封印を解いて魔力を取り戻していった。でも夢見の魔女の力は強くて自分だけで抵抗するのは無理らしい。
「腹が立つから何とかしてあの魔女の邪魔をしてやりたいの!そこでリサ、私が貴女を導いたのよ。あの女がモカを呼び寄せたあの時にね」
「なんで……」
なんで桃佳だったの?私は巻き添えにあっただけ?一緒に電車に乗り合わせたから?
「あの女はね、たぶんリサを置き去りにするつもりだったと思うわ。だから私が拾ったの。だってリサの力はすごいから。貴女の力があれば、あの女に対抗できるわ」
「じゃあ私って桃佳のおまけでこの世界に来たのね……」
桃佳が言ってた自分が主人公っていうのは間違いないわけだ。
「前にチェンバーズさんには聞いてもらったけど……」
私は元の世界の小説のことをチェルシーにも話した。
「ふうん、小説ねぇ……。その内容通りにこの国を動かそうとしてるのなら、リサは排除されたのね」
「え?!」
「だって、リサはその小説とやらにはいないんでしょ?しかもこの世界の人間でもないし」
チェルシーの言葉に妙に納得がいった。確かに私って小説にとっては異分子。邪魔ものだわ。
「そういえば最近リサ様の身の回りでは危険なことが起こっていましたね」
チェンバーズさんがふむ……と考え込んでしまった。
「それはもう犯人がわかって終わったことじゃないの?」
私に敵意を持つ人達がやったことだって。逮捕もされたのに。
「本当にその犯人とやらの意志だったのかしら。今ステラ学園にはあの緑の魔女のガワを被った夢見の魔女がいるのよ?」
「緑の魔女は薬や薬草に詳しい魔女です。彼女が作るものの中には怪しげな薬もあるという噂です。ほら、以前坊ちゃんがリサ様に夜這いをおかけになった時も恐らくは……」
「夜這い……?あの坊や真面目そうに見えて結構やるわね」
「ちょっとチェルシー?誤解しないで!セシルはお茶会でお茶に薬を入れられたのよ!ってあの時の薬ってグロリアが作ったものなの?どこが善性の魔女なのよ!」
「病や怪我を治す薬もたくさん作っているんですよ。しかし確証はございませんが緑の魔女と呼ばれるほどの存在ならば、人の心を操るような薬を作ることも可能かと思われます」
「あ」
私はジェシーさんのどこか焦点のあってない目を思い出した。グロリアは学園の救護室に常駐して色々な薬を生徒達に処方してるとも聞いた気がする……。まさか他人を操って私を殺そうとしてたの?ゾッとして背筋が寒くなる。
ううん、それ以前に夢見の魔女はセシルやチェルシーやアビー、シビルを自分の思い通りに動かそうとしてたんだよ。許せない!
「でもどうしよう……」
セシルの所へ帰りたい。でも止まることのない電車から降りられない。たとえ無理やり降りたとしてもどこに辿り着くのかわからない。周りには果てしない黄昏の世界が広がってるだけ。
「どういたしましょう?」
「どうしようかしら。ついうっかり私達は二人で入って来ちゃったしね。この世界は夢見の魔女が作り出した世界だから外から呼んでもらえないと出られないわ」
テヘペロッとでもいいそうな表情のチェルシー。
「前の時は閉じきる前に私が一足先に脱出しました。それで我が主を呼び戻すことができたのです」
「そんな……!私達ここから出られないの?!これからどうなっちゃうんだろう……」
不安が押し寄せる。ここは私の元の世界ですらないんだ。
「ここは夢の世界。つまり心の世界なのよ」
「じゃあ、体はちゃんとコスモス王国にあるの?」
「そう。でも分霊してきた私達はともかく貴女はこのままだと危ないかもしれないわね」
分霊って……何でそんなことができるの?この世界の魔女こわい。まるで某魔法使いの物語に出てくる悪役みたいじゃない。しかも危ないって……。そういえば昔おばあちゃんが言ってたっけ。体から魂が離れた状態が長く続くと帰れなくなるって。
「幽体離脱、魂抜けみたいな状況なのね……」
それなら尚更早くここから出なくちゃ、急がないと死んじゃうかもしれない。何よりセシルがまた酷い目に合わされるかもしれない。そんなの駄目!!
セシル……!!
私はもう一度魔法石を握りしめた。
声が聞こえた気がした。
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