異変
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※セシル視点→モカ視点→セシル視点です。
「リサ?リサ!リサ!!」
何度呼びかけても、体を揺さぶっても起きない。ついさっきまで僕の腕の中で僕を見てくれていたのに、いきなり落ちるように意識を失った。今は長椅子に横たわり深く眠っている。はたから見ればただ眠っているだけだろう。けれど僕には確信があった。これは違うと。戸惑い混乱していると上から影が降ってきた。
「ちょっと!どいて!」
「時の魔女?!どうしてここに!待て、リサに触れるな!」
「そんな場合じゃないわ!急にリサが見えなくなったのよ。ここにいるのにどうして?リサ、どうしちゃったの?…………あれ?リサって誰?」
突然現れて何を言ってるんだ、この魔女は!不思議そうに考えこんでる魔女を押しのけた。
「何を騒いでいるんだ?部屋の外まで声が聞こえたぞ?なっ!時の魔女?!どうしてここに!また我が国の秘宝を狙いに来たのか?!」
僕の声は存外に大きかったらしく、今度はドアが開かれハーヴェイ殿下が休憩室に入って来た。
「ハーヴェイ殿下!それどころじゃありません!すぐに宮廷医を呼んでください!リサが目を覚まさないんです!」
「リサ……?そのご令嬢のことか?見たことのない顔だな。どこの貴族令嬢だ?」
「殿下!ふざけている場合ではありません!」
「セシルの恋人か?だかクロックフォードは侯爵家だ。あまり身分の低い家の娘だと釣り合いがとれないぞ?」
こんな時に何を言ってるんだ?ハーヴェイ殿下のからかうような態度は僕を苛つかせた。
「何を仰ってるのですか?リサは渡り人で、先程王家や神殿から聖女に任命された女性でしょう?!」
「…………?確かに聖女の任命式は行われたが、我が国の聖女はモカ様お一人じゃないか。セシルこそ何を言ってるんだ?」
「っ!!」
「とにかく、宮廷医を手配しよう。その美しいご令嬢が心配だ。後で僕にも紹介してくれよ」
ハーヴェイ殿下はウィンクすると休憩室を出て行ってしまった。
「殿下は一体何を仰ってるんだ……」
「私、どうしてこんな所へ来たのかしら。ここってコスモス王国の城の中よね?そこの坊や、このかわいこちゃんと私って何か関係があったの?」
「お前まで何を言ってるんだ?!お前はリサをストーカーしてたんだろう?それでリサの異変に気付いてここへ来たんじゃなかったのか?」
「そう、私はこの子を知ってるのね……」
そう言うと時の魔女アビーはスッと表情を無くした。そして魔法石をいくつか取り出し、床に魔法陣を描き始めた。
「一体何を……」
「我、時…………………………軛…………解き放て!」
魔法陣の中心に立ったアビーは何事かの呪文を唱え始めた。ほとんどが聞き取れない言葉だったがどうやら自身に魔法をかけたようだった。長い間アビーを包んだ光が消えた後、アビーは疲れたように呟いた。
「なんて厄介な魔法なの……。それに強大すぎ。この私でもギリだったわ……。リサってばとんでもない奴に目を付けられたわね」
「今の魔法はなんだ?……お前はリサのことを」
「ちゃんと覚えてるわよ」
時の魔女アビーは不敵に笑った。
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折角の舞踏会なのに、急にルークと一緒に別室に呼び出された私は、話を聞いてその部屋を飛び出した。急がないと!
「ちょっと待って、モカ!一体誰を呼びに行くって?」
ドレスのまま大広間へ戻ろうとしたら、ルークに止められた。
「だから、リサよ!もう一人の聖女!あの子にも手伝ってもらわないとまずいわ。どうなさったの?ルーク殿下ったら!」
「ですから、リサって誰の事ですか?どこかのご令嬢?それとも陽光の魔女殿のお弟子さんですか?」
「はぁ?!」
困り顔で私に尋ねてくるルークの顔には私をからかってる様子は無かった。
「やれやれ、君達もか。廊下で大騒ぎをしないでくれないかな?」
「兄上!今呼びに行かせようと思ってたところです!ちょうど良かった!魔物が出現したとの一報がはいりました」
「ああ、聞いたよ。だから今セシルの所へ行って……。どうして僕はセシルの所へ行ったんだ?……ああ、セシルも強いし戦力になるな。うん。後でもう一度使いをやろう。それにしてもここしばらく大人しかったのに。よりにもよって今日だなんて」
「また南北二か所同時出現です。二手に分かれて討伐にあたりましょう」
「そうだな」
「だから、早くリサを呼んでこないと!」
「ですからモカ、リサとは誰ですか?」
「は?リサはリサよ!さっきも言ったけどもう一人の聖女でしょ?」
「えっと、異世界からいらした聖女はモカ様だけでは?」
「ルーク殿下もハーヴェイ殿下も何をおっしゃってるの?」
「モカ殿、今は冗談を言ってる場合じゃないよ。早く魔物討伐へ向かおう。今回も僕とルークでそれぞれの指揮をとろう」
「そうですね、兄上。せっかくの舞踏会だけどモカもすぐに支度をしてね」
取り残された私は呆然と立ち尽くした。
「……一体何が起こってるの?」
「どうやらリサ様に関する記憶が消されているようですね」
「フィロメーラ!あなたは覚えているのね?」
「ええ、辛うじてですが。とても大きな魔法が行使されたようです。この世界に対して」
いつもとは違いその美しい顔には微笑みが無かった。
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リサの存在が忘れられている?僕の目の前にいるのに。
宮廷医の診察ではリサは眠っているだけ。但し、いつ目覚めるのかはわからないとのことだった。城の中でリサについて尋ねたが、彼女の事を覚えてる人間には会えなかった。
「こんな馬鹿なことが……」
クロックフォードの屋敷へ連れ帰ったけれど、父も母も兄もリサの事を覚えていない。身元不明の女性を滞在させることに良い顔をされなかった。
「リサは僕の恩人なのに」
仕方なく僕はリサを連れて森の屋敷へ向かった。なんとなく、チェンバーズならという思いがあったけれど、チェンバーズは王都の屋敷にも森の屋敷にもいなかった。
「こんな時にどこへ行ったんだ、あいつは!」
アンやダイアナ、ジェフは違和感を感じているようだったが、リサのことはやはり思い出せないようだ。
「お嬢様のお世話をするために本邸に来たはずですのに……」
「セシル様のご婚約者の黒髪の……」
「一緒にお菓子を焼いたご令嬢が……」
彼らは戸惑いつつもぼんやりとリサの輪郭を思い出しつつあったので、リサの世話をしてもらうために一緒に来てもらった。
「全然起きないわね」
「リサに触るな。リサは僕のだ。何故お前がここにいる?」
僕はリサの頬をつついているアビーを睨みつけた。アビーがここにいることに不満はあったが、リサの事を覚えてる人間は貴重な存在に思えた。アビーを押しのけて眠るリサのそばに膝をついた。穏やかにというよりは時が止まったように静かに眠っている。
「薄くなっている……」
リサの友人、聖女モカの言葉。薄くなっているとはなんだ?忘れられたリサ。リサの存在が?
「随分と強力な魔法ね。一人の人間の存在を世界から消してしまうなんて」
アビーは険しい顔で宙を見上げている。
「存在を消す……。リサの存在を消すなんて。そんなことをしそうなのは……」
「リサがいなくなって喜ぶのは……」
「緑の魔女か……?」
「たぶん緑の魔女ね」
かなり不本意だけど意見が一致した。
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