舞踏会の夜
来ていただいてありがとうございます!
「今年一年ご苦労であった。今宵は心ゆくまで楽しんでほしい」
国王陛下がお酒の入った杯を掲げると、集まった貴族達がそれぞれ一斉に手に持ったお酒を飲み干した。
楽団の生演奏が始まるとまず最初に王太子様が王太子妃様と一緒に踊り始め、ハーヴェイ殿下とダンスのお相手のご令嬢(後から聞いたら従妹の公爵令嬢だだった)、それからルーク殿下と桃佳
が続いた。その後に大広間に貴婦人達のドレスの花が咲いた。
私は国王様の従者の方に呼ばれてセシルと一緒に国王ご夫妻の所へ案内された。緊張したけど王様も王妃様も気さくでお優しそうな方々で、なんとか問題なく会話を終わらせることができた。
「また今度お茶会にもいらしてね。ゆっくりお話ししたいわ」
王妃様からはそんなお言葉もいただいた。
「わっ!ものすごい行列!」
王様とのお話が終わると、王様の前には貴族達の長蛇の列が出来てた。
「今日みたいな特別な舞踏会では誰でも国王陛下と話ができるから、特に下級貴族にとっては陛下のお目に留まる絶好のチャンスなんだよ」
王様とお話できるなんて確かにレアな機会だもんね。
「それにハーヴェイ殿下にはまだ婚約者がいないから、自分の娘を売り込みたい貴族がたくさんいるんだよ」
「あ、そうか!」
舞踏会も交流の場だもんね。
「あ、ほんとだ。ハーヴェイ王子の周りには女の子達の人だかりができてる!」
「少し殿下に同情するよ。…………さあ、僕達も踊ろうか」
「うん」
ダンスは久しぶりだったけどチェンバーズさんから再特訓してもらったし、ちょっと今日は自信があるんだ。
「体調は?」
「全然大丈夫」
今日は特に疲れてないし、眠くもない。セシルのとダンスはとても楽しかった。でも何曲か踊ると息が上がってきた。
「そろそろ休憩しようか」
セシルは私を壁際のバルコニーの近くに連れて行ってくれた。
「とりあえず何か飲み物を取って来るから、ここで待ってて」
「うん、ありがとう」
走っていくセシルを何人もの女の子達がちらちら見てる。セシルもハーヴェイ王子に負けないくらい人気がありそうだなぁ。綺麗に着飾った女の子達を見て急に不安になった。
「同じように着飾ったら、私の方が見劣りしちゃうよね……」
ガラスに映った自分を見てため息が出た。
「はっ!なに落ち込んでるの?!せっかく自分の気持ちがはっきりしたんだから、ちゃんとセシルに伝えなきゃ!」
…………でもどうしよう……。どうやって言えばいい?ストレートに「好きです」って言う?改めて正式な婚約者にしてくださいとか?……そもそもセシルってまだ私のこと好きでいてくれてるかな?でもさっきは……。ああああ!さっきの思い出しちゃった……。前の時より、その、ちょっと情熱的だったような……。しかもドレスのスカートの腰の辺りをずっと触ってた。思い出すと顔が熱くなってくる。と、とにかく!セシルに好きって伝えなきゃ!
「あら、百面相ですの?面白いお顔」
この声って、緑の魔女グロリアさん?あれ?ガラスに映ってるのは違う人?に見える。私は慌てて振り返った。やっぱりグロリアさんだった。見間違い?
「素敵なドレスをお召しですのね、リサ様。クロックフォード様のセンスは流石ですわ!」
これって完全な嫌味だよね?ドレスは素敵だって言いたいんだよね。腹立つ!でもグロリアさんもかなりの美女なんだよね……。悔しいけど。
「あなた、相応しくないですわ」
グロリアさんが顔を近づけてきた。強い匂いがする。これはリンゴの匂い?むせ返るようなとても濃い匂い……。
「何を……」
「貴女、どうしてここへ来たの?」
グロリアさんは不思議そうに私と目を合わせた。いやだ……何だか怖い。グロリアさんの問いかけは私の頭の中に響き続ける。そんなの知らない。舞踏会には招待されたから。ステラ学園だって王様の命令だったから。この世界に来たのは電車に乗ってたらいつの間にか…………。
「何をしてるっ!!」
厳しい声が私を引き戻した。
「セシル」
「リサ!大丈夫か?」
「……うん、平気」
「平気って顔色じゃないな。休憩室を借りて休もう。回復したら屋敷へ戻ろう」
「でも、舞踏会は?」
「国王陛下との約束は果たしたんだからもう十分だ。さあ」
「う、うん」
「クロックフォード様は白雪の聖女様にだけはお優しくていらっしゃるのですね。他のご令嬢方が悲しんでおられますわよ?」
その場を後にしようとした私達にグロリアさんは余裕の微笑みで話しかけてきた。
「……一度だけ言う。僕は魔女という存在を信用していない。善性の魔女と呼ばれる貴女方でもだ。これ以後リサや僕に話しかけることも、近づくことも許さない。覚えておいてもらおう」
「…………心得ましたわ」
セシルの本気の怒りの表情を見たせいか、グロリアさんは一礼して踵を返して歩き去っていった。
「リサ、何を言われた?」
「…………」
「リサ!」
「相応しくないって」
「はぁ?!」
「何で来たのかって」
「何だそれは!一体どこの立場でものを言ってるんだ!」
「セシル!落ち着いて」
「無理だ。怒りでどうにかなりそうだ!」
休憩室は大広間より少しひんやりとした空気だった。おかげで私は気分が少し良くなってきた。さっきグロリアさんに近づかれた時は頭がクラクラしたんだよね。圧がかなり強かったから。
「グロリアさんはセシルのことが本当に好きなんだと思う」
「僕はそうは思わない。魔女の執着だよ!僕のこの目が物珍しいだけだ!」
「私もセシルの目、綺麗で好きだよ」
「え?」
「私、私もセシルのことが好き。グロリアさんや他の女の子達に負けないくらいに」
い、言った!ちゃんと言えた!ああ、つい目を瞑っちゃった。そーっと目を開けてセシルを見上げた。
「リサ」
空色と紫水晶の瞳が潤んでる。
「セシル?っ」
今までにないくらいに強く抱きしめられて、またクラクラしちゃう。
「愛してる、リサ」
優しく何度も口付けられて、足に力が入らなくなる。抱き上げられて長椅子に座らせてもらった後も何度もキスが続いた。
あれ?セシルの顔がぼやけてく。どうしたんだろう?私……
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




