自覚
来ていただいてありがとうございます!
年末は大忙しだった。
午前中は支度。午後には中央聖堂で任命式。そして聖女としてのお披露目。そして夜は舞踏会。誰よ、こんな無茶なスケジュール組んだのは!前々日までは元の世界とは違って冬休みの課題も大掃除もなくて(手伝おうとしたら断られちゃった)、セシルのリクエストでお菓子を焼いたりしてのんびり過ごしてたのに。
前日からお城に呼び出された私は当日朝からお風呂に入れられたりドレスに着替えたりお化粧したりと滅茶苦茶忙しかった。聖堂での任命式の後(なんか宣誓みたいなのをしたんだけど、もうすでに覚えてない)、桃佳と一緒に国民に開放されたお城の庭園に面したバルコニーに出て、集まった大勢の人達の声に答えた。なるべく笑顔でって怖い顔の女官さんに言われたから、ずっとニコニコしながら手を振ってて最後には顔が引きつっちゃった。主に桃佳への歓声だったと思うんだけどなって思いつつ頑張ったよ。それでもセシルがずっとエスコートしてくれていたからほとんど緊張しなくて済んだんだ。最後の方の私はぐったりしてたけど、桃佳はずっと楽しそうにこなしててちょっと尊敬しちゃった。
一通りのイベントが終わって、やっと遅めのお昼ごはんを食べられたのはもうお茶の時間になってからだった。
「あれ?セシルそれって」
「うん。リサが焼いてくれたクッキーだよ」
「持ってきたんだ。お城にはもっと美味しいお菓子があるのに」
「僕にはこっちの方がいいから」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、テーブルに並んだ綺麗なお菓子と私が作った不揃いのクッキーを見比べてちょっといたたまれなくなってしまった。
セシルと一緒に食後にリンゴの香りのお茶を飲みながら、さすがに疲れたなぁってついため息をついてしまった。そしたら物凄く心配されてしまった。しまった……。
「大丈夫?」
「うん。やっと終わってホッとしただけ」
「体には異常は無いって言われたけど、くれぐれも無理しないで。こんな式典なんて体調不良をおして出ることないんだから。……ただ、寝ぼけて他の男の所には夜這いに行かないでよね」
耳元で囁かれて、顔が熱くなった。
「あ、あの時は、その……夢を見てて、妹が寂しがってる夢だったから……」
そうなんだ。あの夜、大雪が降った夜は昔お母さんが仕事先から帰ってこれなかった夜を思い出してしまって、寝ぼけてセシルの部屋に行ってしまったんだ。朝起きたら見知らぬ部屋で本当に驚いたちゃった。セシルはいなかったけど、しばらくパニック状態だった。
「ごめんなさい……」
私はセシルにもう何度目かになる謝罪をした。
「何度も言うけど、謝らないでいいよ。ただ、僕はリサの妹じゃない。次は我慢できる自信がないからね」
「っ」
そう言って私の頬に口付けたセシルの表情がとってもなんていうか、色っぽくて何も言えなくなってしまった。
「ちょっと、こんな所でイチャイチャしないでよね」
「桃佳?!いつからいたの?イチャイチャなんて……」
「何動揺してるの?婚約者同士なんだからいちゃつくのは別に良くない?」
桃佳ってば言ってることが滅茶苦茶だよ。
「モカ様、お言葉遣いが……」
「わかってますわよ、フィロメーラ様。でもルーク殿下がお忙しくて私の所にはなかなか来てくださらないから、リサ様ばかりクロックフォード様に甘えられてるとムカつくんですの」
「丁寧に言えばいいってもんじゃないと思うんだけど……」
突然私の控室に入ってきたかと思えば、愚痴を言いに来ただけなの?式典の時、私にはセシルが付いてくれていたけど、桃佳には陽光の魔女フィロメーラさんがずっと付き添ってた。なんでもフィロメーラさんは普段から桃佳の教育係を任されていて、凄く仲が良いらしい。
「ふうん……」
突然桃佳が顔を近づけてきた。金髪が眩しい……。
「な、何?」
「最近、変わったことない?」
「え?」
「うーん、気のせいかしら……。ちょっと薄くない?」
「へ?薄いって何が?」
「上手く説明できないわ」
訳がわからないよ。それにしても言葉遣いが戻っちゃってるけどそれでいいの?
そういえば思い当たること一つだけある。
「変わったこと……。よく元の世界の夢を見るようになったかな」
セシルが私の手を強く握った。心配させちゃってるかなって思って大丈夫だよの意味を込めて笑いかけた。
「やだ、ホームシック?」
桃佳は揶揄するように笑った。
「桃佳はそういうことない?」
「うーん、まあたまには?あっちがどうなってるかは気になることもあるけど、どうせ帰れないんだから気にしてもしょうがないわ」
「それもそうだね」
私もそう思ってるんだけど、無意識では気にしちゃってるのかも。お母さんや弟や妹のこと、心配じゃないと言えば噓になるから。
「しっかりしてよね。またいつ魔物の動きが激しくなるかわからないんだから!私達でこの国を守らないと、居場所がなくなっちゃうんだからね!」
もしかして心配して来てくれたのかな?セシルも心配してくれてるし体調が悪そうに見えるのかもしれない。あんまり自覚は無いんだけど、もうちょっとしっかりしなくちゃね。
「私は大丈夫だよ」
「ならいいけど」
「夢……ですか……」
桃佳の隣に座ったフィロメーラさんが顔を曇らせた。
「どうしたの?フィロメーラ」
「いえ、以前にコスモス王国には力の強い魔女が七人いるというお話をしましたわね。その中に夢見の魔女と呼ばれている者がいるらしいのです」
「なにそれ?夢占いでもしてくれるの?」
「桃佳、それは違うんじゃないかな?」
「わかってるわよ!言ってみただけよ!どうせ夢を操るとか悪夢を見せるとかそんなでしょ!」
「それが……その魔女がどんな魔女なのかどんな能力を持っているのかは全くの不明なのです。とにかく昔から存在している魔女で、わたしくしも先代の陽光の魔女からその名前を聞いただけなのです」
え?魔女って世襲制なの?!知らなかった。ちょっとびっくり。もしかして先代の時の魔女とかいたりするのかな?
「また魔女か……。しかも夢見の魔女……不気味だな」
それまで黙っていたセシルが口を開いた。
「誰も会ったことが無いという伝説の魔女ですし、本当にいるのかどうかもわかりません。ただ、リサ様のお話を伺っていて思い出したものですから。恐らくリサ様とは関係ないかと思いますわ。不安にさせてしまい申し訳ございません」
「いえ、教えていただいてありがとうございます」
それから桃佳は舞踏会のドレスに着替えると言ってフィロメーラさんと一緒に部屋を出て行ってしまった。
「夢見の魔女とリサの夢か。嫌な符号だな」
魔女のことはあまり詳しいことがわからないから、少しでも情報があれば助かる。次にセシルを狙ってくるのはその魔女かもしれないんだから。できればどんな能力なのか知りたいところだけど、推察することはできそう。
「その魔女の対策は……うーん、夢に干渉してくる可能性があるってことはお守りを枕に入れておくとかかな?」
魔法石の中に魔法を跳ね返す力があるものがある。そういうのは守護石って呼ばれてて、セシルも魔女の呪いを跳ね返すために一つ持ってる。
「いや、直接身に付けておいた方がいい。すぐに手配するよ。それまではこれを持ってて」
セシルは持っていた守護石を私に渡そうとしてきたけど断った。
「私はいいよ。セシルが狙われてるんだから、セシルが持ってて!そうだ、そろそろ私達も着替えに行こう」
「……ああ。今夜は僕がリサのために作らせたドレスを着てくれるんだね」
「舞踏会の時に王様にお会いするのは気が重いけど、ドレスとセシルとのダンスは楽しみ」
あとお城のご飯もちょっと楽しみ。
「僕もとても楽しみだよ」
着替えが終わって舞踏会が始まる時間が近づいて来た。セシルが贈ってくれたドレスは極薄いラベンダー色と白のふんわりしたデザインの可愛らしいドレスだった。ところどころに小さなダイヤのような石と花のモチーフがあしらわれてる。
「ああ、良く似合ってる!とても綺麗だ」
迎えに来てくれたセシルは黒の正装でいつもよりずっと大人っぽかった。セシルが入って来ると着替えを手伝ってくれたメイドさん達は部屋を出て行った。
「ありがとう。セシルもカッコいいね!」
「こちらこそありがとう。……これは他の男達が放っておかないな。目を離すと危険だ」
「そ、そんなことはないと思うよ?」
「でもリサは僕だけの花だから、他の男の手を取らないでね」
「そんなことしな……っ」
セシルは私を抱き寄せてそっと唇を重ねた。お城の中で誰かが呼びに来るかもしれないのに、セシルは中々離してくれなかった。セシルの腕が背中に腰に回される。でも嫌な気持ちになれない。私も離れたくないって思ってしまった。もしかしたら少し不安だったのかもしれない。でもきっと違う。きっと私はセシルのことが……好きなんだと思う。
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