おとりと違和感
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「白雪の聖女様、お一人でどうなさったんですか?」
放課後の教室には誰もいない。それもそのはずでもう夕方になりかかった時間帯だから。
「ジェシー様こそ……え?」
振り返った私は驚いた。そこにいたのはジェシー・ファーロウ伯爵令嬢様だけじゃなかった。虚ろな目(に私には見えた)をした女子生徒や男子生徒が他に三人教室のドアの所に立っていたから。
何で?ジェシーさんだけじゃなかったの?セシルから聞いていた話と違う。
定期試験が終わった翌日は校外学習の説明会があった。季節はもう冬なのに遠足に行くらしい。ただし行き先は比較的温暖な南の湖水地方。元々行く気は無かったし、こういうイベントは主にまだ婚約者のいない貴族令嬢や子息達の交流の場だから私やセシルは行く必要もない。さらに桃佳や私は王都に待機しててほしいって言われてるから王都からは出られない。魔女の襲撃は今の所おさまってるけど、魔物の出現は続いているらしく、いつお城から呼び出されるかわからないんだって。だから本来説明会には来る必要無いんだけど、今日来たのには理由がある。説明会を終えた後、セシルは先生に呼ばれて教職員棟に行ってしまって私は本を読みながら教室で待っているところだった。
「セシル様は先生に呼び出されていらっしゃるんですよね?」
「ええ。すぐに戻っていらっしゃると思いますので、そうしたら帰ろうと思ってます」
「今日はまだ婚約者のいない私達を馬鹿にするためにいらしたの?」
「え?」
「だってそうでしょう?あんな素敵な婚約者がいらっしゃるのに校外学習にいらっしゃるなんておかしいわ。それともセシル様では足りなくてもっとチヤホヤされたいのですか?」
敵意……やっぱり私の方だったんだ。私はため息をついた。でもジェシー様達からは私に対する害意は感じない。これは何度か危ない目に合ってきた私がずっと感じてきた違和感だった。今もそう。たとえジェシー様の手に短剣が握られていたとしても。
セシルからジェシーさんが一連の現場で目撃されていると聞いて驚いた。まだ疑いの段階だけど状況的には、私に危害を加えようとした犯人の可能性があるらしいって。でもこんな風に目の当たりにしてもまだ信じられない。
「ジェシー様、どうして……。それに他の皆さんも」
ジェシーさんの後ろにいる人達は開けられないようにドアを押さえたり、手に木の棒を持っていたり、魔法石を見せつけるように両手に持ち替え続けてたりする。うわぁ、やる気満々ですね……。やっぱり一緒にいたセシルは関係なくて私を狙ってたんだね。水とか本とかは明らかに私の上に落ちてきてたもんね。
「私のセシル様は元々私が婚約するはずだったの。魔女のせいでダメになってしまったけど」
そう言いながら一歩近づいてくる。わあ、とうとう所有格が発生しちゃったよ。でもそういうことか。ジェシー様はセシルのことが好きだったんだね。
「何が白雪の聖女だ。聖女はモカ様だけで十分なんだよ。ブスのくせに引っ込んでろ」
「クロックフォード様だけじゃなくてハーヴェイ王子殿下にも色目を使って……本当に目障りなのよ」
「侯爵家に取り入って、高位貴族になったつもりか?いい気になるな。渡り人なんて気持ちが悪いんだよ」
それぞれに私を気に要らない理由がおありのようで……。でもなんだかおかしい。この人達、こちらを向いているけど私を見てないみたい。
「身分だって何だって私よりもずっと劣っているくせに」
ジェシーさんが急に襲い掛かって来た。ちょ、ちょっと待って!本当に刺すつもりなの?え?嘘、体が動かない?男子生徒が持ってる魔法石が光ってる。何かの魔法を使ってるんだ。私は胸元の魔法石のペンダントに魔力を込めた。
「うわっ!」
男子生徒の持ってる魔法石がその手から落ちて光を失う。よしっ!動けるようになったわ!ただ、さすがにクラスメイトに魔物を倒すための魔法を使うのはどうなの?って一瞬躊躇っちゃって刃を避けるだけになってしまった。ん?ジェシーさんからどこかで嗅いだような香りがする……?これって何だっけ?
パシンッ!!
空気が弾けるような音。
「あ……」
ジェシーさんの小さな悲鳴が聞こえてジェシーさんの手から短剣が弾かれた。
「何やってるのよ、リサったら」
「リサッ!」
「セシル!ってえ?アビー?どうして?!」
アビーとセシルが窓から教室に飛び込んできた。セシルとは打ち合わせ済みだけど、なんでアビーまで?!
実は私を狙う犯人をおびき寄せるために、私はわざと一人で教室にいたんだ。セシルとアビーは三人を突き飛ばして私を引き離してくれた。アビーは何かの魔法を使ったみたいに見えた。それと同時に数人の兵士達とハーヴェイ王子が教室になだれこんできて、四人を取り押さえた。これも打ち合わせ済みのことだった。
取り押さえられた四人は混乱しているようだった。
「え?私何を……?痛い……!なんでこのような……」
「夢なのに痛い。離せ!僕はスミス子爵令息だぞ!無礼じゃないか!!」
「離してくださいませ!わたくしは何も……っハーヴェイ殿下?」
「なんなんだ……どうなってる?」
「セシル様……」
うつろな目のジェシーさんがセシルの方へ手を伸ばそうとしたけど、兵士さんに跪かされて取り押さえられる。私を抱き締めたセシルはジェシーさんを冷たく見下ろして氷点下の声で告げた。
「僕はいつ貴女に僕の名前を呼ぶ許可を与えましたか?僕の名を呼んでいいのはリサだけです」
ジェシーさんの体から力が抜けて、更に表情が抜け落ちた。
「聖女殿に対する殺害未遂の容疑だ。連行しろ!」
ハーヴェイ王子の声が教室内に響いた。
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