初めての討伐
来ていただいてありがとうございます!
「こちらには聖女モカ様はいらっしゃらないのか」
「なんで何の実績もないのにしゃしゃり出てくるんだ」
「こっちは命がかかってるっていうのに」
「せめて陽光の魔女様だけでもいらしてくれたらなぁ」
「俺、まだ死にたくないよ」
魔物の出現地域への道中、兵士さん達がそんな会話をしてるのを聞いてしまった。
「リサ?どうした?元気が無いね」
もうすぐ現地に到着という頃にセシルに声をかけられてハッとする。ダメだ!しゃっきりしなくちゃ!昨夜あんな会話を聞いてしまったからちょっと落ち込んでた。でも兵士さん達の不安は当然かもしれない。実際私だって不安だもん。魔物なんて実際に見るのも初めてだし。でも。
「大丈夫!何でもないよ!」
空元気も元気の内。私は心配そうなセシルに笑って見せた。
王都から魔物の出現地帯までは馬車で約十日。その間にハーヴェイ王子から移動の馬車の中で今の状況について聞かされた。コスモス王国の南西と北東にはそれぞれ隣国との緩衝地帯となる荒野がある。そこには時々魔物が出現して旅人を襲ったり時には国内に入って来て人々に危害を加えることがあるそう。今回の二か所同時の魔物の出現地域二つともがコスモス王国にほど近く、どちらを先に討伐するか揉めたらしく、それならもう一人渡り人がいるじゃないかってことになったらしい。私達が向かってる南東に出現した魔物は一体だけだから、初心者の私を派遣することに決まったそうだ。
やがて馬車の窓から開けた平原が広がるのが見えてきた。ぽつぽつと大きな影があちらこちらに点在しているのがわかった。
「あ、あれ?魔物って一体じゃなかったんですか?」
草木のほとんど生えてない荒野にカバとサイを足して二で割ったような四つ足の動物がいる。たぶんあれが魔物なんだろうけど、どう見ても一体じゃない。大きな影は全部その魔物のようだった。
「本当だ。十体以上いる?!どういうことですか?殿下!」
「あ、あれ?おかしいな……。報告と違うみたいだ」
ハーヴェイ王子も当惑してる。もしかして私達がここまで移動してくる十日間の間に増えたの?
「まあ、あの魔物は動きも遅いし、一体一体倒していけば大丈夫だよ」
「…………」
ハーヴェイ王子はポジティブ?それとも楽観的なの?セシルは厳しい顔をして黙り込んでしまったし、本当に大丈夫かなぁ。私は馬車の窓から今にも雨か雪が降りそうな灰色の空を見上げた。
「まあ!クロックフォード様!お疲れ様です!」
天幕が設営してある場所に馬車が止まり、私達が降りると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうして緑の魔女がここに……」
「あれ?言ってなかったっけ?彼女も魔法が使えるし、怪我の治療もできるから応援に呼んだんだよ。一足先についてたようだね」
言葉に詰まるセシルにハーヴェイ王子は全く悪びれずに言ってのけた。ハーヴェイ王子はグロリアさんがセシルを気に入ってることを知らないんだっけ。
「全然学園にお見えにならないから、わたくしとても寂しかったですわ!」
「…………」
にこやかに話しかけるグロリアさんをセシルは完全無視だった。
「行こうリサ。殿下、作戦の変更が必要でしょう。さっさと決めてさっさと討伐して帰りましょう」
「あ、ああ、わかった」
セシルは殿下と一緒に一番近くの一番大きな天幕へ入っていった。
「わたくしの専門は治癒魔法ですの。治療はわたくしにお任せくださいね、皆様!」
グロリアさんは気にした様子もなく兵士さん達にも気さくに話しかけてる。
「緑の魔女殿がいらしてくださるとは!」
「これは心強いですな」
「ありがたい!」
私にはよそよそしかった兵士さん達はグロリアさんを囲んで嬉しそうに笑い合ってる。グロリアさんは薬草を併用した治癒魔法の権威だから、みんなからの信頼も厚いんだろうね。……私も頑張らなくちゃ。
作戦変更といっても討伐の数がすごく増えてしまっただけで、どこから手を付けるかの相談だけだった。幸いにも今出現してる魔物は群れで動くようなことは無くて、集団で襲い掛かってくる心配はないそう。一体ずつみんなで囲んで動きを止めてその間に魔法を使える私やセシルがとどめを刺す作戦だ。それを繰り返していくだけ。ただ、この世界の魔物の特性として何かのスイッチが入って目が赤く光り出すと凶暴さが増すらしい。そうなったら普通の兵士や魔法使いでは止められないからすぐに避難をしないと危ない。なんだかゲームの設定みたい。
緊張する……。一番近くの魔物に兵士さん達が近づいて、周囲の地面に魔法石を置いて行く。この魔法石は魔物の動きを一定時間止めることができるもので、時の魔女が発明したものを王国が買い取ったんだって。これだけ聞くとアビーすごいじゃん!って思うけど、かなりの高額で売りつけたらしく、そのせいでアビーはかなり恨まれてるみたい。
「リサ、大丈夫?行ける?」
セシルはすでに剣を構えて臨戦態勢だった。
「う、うん」
緊張する……。だって周りの兵士さん達の視線が冷たくて怖い。私も何かしなくちゃって思って来たんだし頑張らなきゃって思うけど、魔法石を上手く変化させられない。大きな野生動物っていうか恐竜みたい。悪霊とか魔女とか使い魔とかとは違う肉感が恐怖を誘った。
変化は突然だった。
異変に気が付いたのか、動けないはずの魔物がこちらを向いた。その目が真っ赤に燃えてる。地響きを立てて向かってくる。真っ直ぐに私の方へ……!体が竦んで魔法石を握りしめたまま動けなかった。
「リサッ!!」
セシルが剣を振るい魔物を切り伏せる。動けなかった私の代わりにセシルが魔物を倒してくれたのだった。魔物は大きな音を立てて倒れるかと思ったけど、一度咆哮を上げると黒い霧のようになって消えてしまった。やっぱり普通の動物じゃないんだ……。
「リサ、大丈夫か?」
「うん。ごめんなさい。全然動けなくて」
「気にしなくていい」
「全然駄目じゃないか……」
周りにいた兵士さんの誰かがぽそりと呟いた。
「なんだと?!今の発言、誰だ?!」
セシルが睨みつけると兵士さん達は一様に押し黙ってしまった。
「セシル!いいの!私、全然動けなかったから!」
セシルの腕を掴んで止めたけど、兵士さん達の視線は冷たいままだった。
再び異変が起こる。
荒野のあちこちで次々と咆哮が上がりさっきとは比べものにならないくらいの地響きが聞こえ始めた。地面も揺れててまるで地震が来たみたいだった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
誰かの悲鳴が響いた。
「あれを見ろっ!!」
指差す方向に恐ろしい光景が広がっていた。魔物達が一斉にこちらへ向かって走ってきてる?!しかもすっごいスピードで!誰?この魔物は動きが遅くて、集団では動かないって言ったのは?!いくつもの赤く光る悪意のある目がこちらに向かってくる。
「リサ!逃げろ!チェンバーズと僕が食い止めるから、急いで馬車に乗れ!」
いつの間にか剣を持ってチェンバーズさんがセシルに並んでた。
「到着が遅れまして申し訳ございません。想定外の非常事態のようですね。坊ちゃんは私がお守りいたしますので、リサ様はお逃げください」
二人はそう言って駆け出していく。兵士さん達はもうすでに散り散りに逃げ出していった。
私の後ろには街がある。あそこには人がたくさん住んでる。なによりもセシルとチェンバーズさんを置いて逃げるなんてできない!!
「ダメ!!」
怖かった。誰かが、セシルが死んじゃうかもしれないって思ったら。無我夢中だった。魔法石のペンダントを握り締めてとっさに大きな壁を思い浮かべた。その瞬間魔法石が光を放ちその辺り一帯に光が溢れた。白と金色の光の壁に魔物達がぶつかって突進が止まる。そのまま壁はドームみたいに魔物達を取り囲み、その中に銀色の光が満ちる。
十数体いた魔物達は一瞬で黒い霧になって消えていった。
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