依頼
来ていただいてありがとうございます!
「え?ハーヴェイ第二王子殿下が?」
「ああ、明日こちらへ急遽訪問されるそうだ」
「非公式なものだけど、リサ嬢に会いたいということなんだ。いいかな?」
急にセシルのお父さん、クロックフォード侯爵に書斎に呼び出されて恐る恐る行ってみると、そこにはクロックフォード侯爵だけでなく不機嫌な顔をしたセシルもいた。これって断ってもいいものなのかな?王族の訪問を断るってできるの?そもそも用があるならお城へ呼び出すものなんじゃないの?何の用だろう?疑問が渦巻いたけど私が断ってこのお家に迷惑がかかったら嫌だから、ひとまず了承することにした。
「はい。わかりました」
私が答えるとクロックフォード侯爵はホッとしたような表情を浮かべた。正解だったみたいで良かった。
「でも、お願いがあります。正直まだこちらの世界のマナーに不安がありますので、できればセシル様とご一緒に殿下のお話をお伺いしたいです」
どんな話なのかがわからないから、判断できる人が一緒の方が心強いと思ったんだ。学園の生徒同士の会話って訳じゃなさそうだし。
「わかった。殿下にはそのようにお伝えしよう」
ちらっとセシルを見るとお父さんに見えないようにサムズアップしてる。うん、これも正解だったみたい。
その後すぐに解放されて私は同じ敷地内の別宅でホットケーキづくりを再開した。何だか無性に食べちゃくなっちゃったんだよね。私は熱々のホットケーキが大好きだから、一枚一枚焼きながら食べようと思ってあらかじめお茶を淹れておいた。ホットケーキは蜂蜜派。一時期メープルシロップにハマった時期もあったけど蜂蜜に戻って来たんだ。もちろん両方大好きだけど。セシルやみんなにも声をかけてあったから、書斎に残ったセシルも後からやって来た。
「パンケーキか。温かいケーキは今の時期にちょうどいいね。美味しいよ」
「良かった。もう一枚食べる?」
「うん」
セシルはバター多めで蜂蜜は少なめ。前にチェンバーズさんがセシルは甘いものはそんなに食べないとか言ってたけど、結構よく食べてる印象なんだけどな?ものによるのかな?そういえばカフェではケーキは食べてなかったっけ。
それから仕事の合間を縫ってアンさんやダイアナさん、ジェフさんもやってきて美味しいと言ってホットケーキを食べてくれた。明日ハーヴェイ殿下がいらっしゃるから、いつもよりちょっと忙しくなっちゃったみたいで、食べ終わると仕事に戻って行った。セシルとは食べ終わった後しばらくおしゃべりをしていたけど、三杯目のお茶を飲み干すと自室へ戻って行った。セシルは普段自室にこもることがとても多い。たぶん貴族の勉強があるんだろうな。チェンバーズさんだけはずっといてくれて後片付けも手伝ってくれた。
「とても美味しかったです。私どもにまでご馳走様でした。リサ様は元の世界でも料理をなさっていらしたのですか?」
「はい。お母さん……母が仕事で忙しかったので時々食事の支度をしてました。弟や妹もいたので」
「ああ、そういえばそうおっしゃってましたね。それでこんなにお上手なんですね」
「いえ、そんなに上手なんてことは……!」
料理はレシピサイトとか見ながら簡単そうなものを作ってただけだから、褒められると恐縮しちゃう。
「そういえばセシルって勉強が大変なんですか?」
私は慌てて話題を変えた。
「何故そのように思われたのでしょう?」
「いつもお部屋にこもってるから、貴族の勉強とかがあるのかなって」
「ああ、なるほど!いえいえ、坊ちゃんはそういった学問は森の屋敷で暮らしていらした時にほぼ修めていらっしゃいますよ。今はもっぱら魔法の訓練と剣の鍛錬に時間をお使いです」
「え?そうなんですか?」
てっきりずっと勉強をしてるのかと思ってた。
「リサ様が以前に学園で危険な目に遭われた時、咄嗟にお救いできたのは、その賜物だと思いますよ」
私はあの時魔法を使おうなんて全然思わなかった。本番では普段の練習がものを言うっていうけどその通りなんだ……。
「セシルはどんどん強くなってるんですね。すごい」
私も教科書を読んだり魔法石を色々変化させたりしてみたりしてるけど、セシルはそんなのよりももっとずっとものすごく努力してるんだ。今日だって私はお料理なんてしちゃってるし……。
もしかしてもうセシルに私のボディーガードなんて要らなくない?
翌日の午後、ハーヴェイ王子はお茶の時間にやって来た。クロックフォード侯爵に先導されてセシルと一緒に応接室に入るとくつろいだ様子のハーヴェイ王子がお茶を飲んでいた。なんだ、急用かと思ったけどそんなに大した話じゃなさそう?……でもその考えはすぐに打ち消された。
「魔物討伐ですか?」
「そうなんだよ!実は最近コスモス王国周辺に魔物の出現が相次いでいてね。モカ様や陽光の魔女が対応に当たってるんだけど手が足りないんだ」
「それでリサに手を貸して欲しいということですか?無理です!そんなのは危険すぎる!」
セシルがものすごい勢いで抗議したけど、ハーヴェイ王子はどこ吹く風といった感じだった。
「大丈夫だよ。リサ嬢の警護は兵士達がしっかりするし、同じ渡り人のモカ様だってやってくださってることなんだから。今回は国の南北両方から討伐の依頼が来ていてね。二手に分かれると戦力不足になってしまうんだ。このまま国境を越えられると国民に被害が出る恐れがある」
「そんな……」
魔物ってどんなものなんだろう?できるなら何かしたいけど、私にできる?正直怖い。でも 桃佳だって頑張ってるんだし。葛藤はあったけど……決めた!
「私でお役に立てるなら行きます」
「リサ!!」
セシルが私の肩を掴んで止めたけど、私は首を振った。セシルなら強くなってるしチェンバーズさんもいるし、少しの間私がいなくても大丈夫だよね。
「無理はしないから行かせて」
「しかし!」
「大丈夫だよ。僕も行くし危険と判断したらすぐに撤退するから」
え?ハーヴェイ王子も行くの?王族なのに?
「…………なら僕も行きます」
「セシル?!」
「へえ、セシルも来てくれるの?でも大丈夫?さすがにセシルの警護にまで兵士を回せないよ?」
「僕に警護は必要ありません。第一僕はリサを守る為に一緒に行くのですから」
「ちょっと待って!」
「無駄だよ、リサ嬢。こんな顔したセシルはもう止められないから」
ハーヴェイ王子は楽しそうに笑ってた。こんなの笑い事じゃないのに!もしかして最初からそのつもりだったとか?
ハーヴェイ王子の訪問の後、なんとかセシルに思い留まってもらおうと説得した。だけどセシルは一緒に行くと言って聞いてくれなかった。
「ご心配は要りませんよリサ様。坊ちゃんには私もついておりますから」
「え?チェンバーズさんも来てくれるんですか?」
「勿論です。坊ちゃんのお世話は私の役目ですから」
「でも……」
「それに坊ちゃんは申し上げた通り魔法の力も剣も相当な強さでございます。きっとお役に立てるかと」
「それは……」
「リサ様の為に毎日毎日それは厳しい鍛錬を積まれておられますから」
「え?」
何で私の為?
「余計なことを言うな、チェンバーズ」
「これは申し訳ございません」
「自分の身は自分で守れるようになりたかったんだ。二度と魔女や他の誰かに翻弄されたくないから。それであれから色々試してみたんだ。どうも僕は風魔法と相性がいいらしい。他の魔法も使えるけれどその次は火魔法だな。氷の魔女と戦った時に刀身が熱くなったけど無意識に火魔法を使っていたみたいだ」
そういえばあの時アビーと戦ってた時には普通の剣の色だったけど途中から刀身がオレンジ色になってたみたいだった。あれはそういう事だったんだ。ああ、ますます私の存在価値がなくなってきちゃったかも。結局セシルに押し切られて一緒に魔物討伐に南の森へ行くことになってしまった。
「……すごく今さらだけどこの世界でも月は満ち欠けするのね……」
その夜は満月だった。ベッドに横になりながらぐるぐると考え込んでしまう。
セシルにはもう私のボディーガードは要らないかも。そう思うと私は急に不安になった。私、ここにいてもいいのかな?私はもう役立たずじゃない?こんな立派なお屋敷でドレスを着せてもらって何不自由なく生活させてもらっちゃってて……。
何かできることを探さないとって思ったから、とりあえずあの話の後お屋敷で何かさせてもらいたいってチェンバーズさんに相談したら、笑われちゃった。
『リサ様に仕事なんてさせられませんよ』
『でももうセシルは強くなってきたし、ボディーガードは必要ないですよね?だったら』
『だとしてもリサ様は渡り人であり、その力は貴重なもの。魔女の標的になりやすい坊ちゃんにとってはいてくださるだけで十分心強いと思われますよ』
お守りかお札みたいな感じ?
『それに、何より坊ちゃん自身がリサ様にそばにいていただきたいと願っているように思いますよ。どうぞ坊ちゃんを見捨てないであげてくださいね』
『そんな!見捨てるなんて』
セシルを見捨てるどころか守ってもらっちゃってて、私このままだとただの居候だよね?魔物討伐は頑張らないと……!
この時の私はかなり焦っちゃってたと思う。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




