ドレスショップとカフェ
来ていただいてありがとうございます!
「リサ様、こちらのドレスはいかがかしら?」
「はい。とても素敵だと思います」
セシルのお母さん、セリーナ・クロックフォード様はたくさん並んだトルソーが着たドレスの中からシックな深い青い色のドレスを指差した。
「セリーナ様にとてもお似合いだと……」
「んもーう!違いますわ!お母様でしょ?それにこのドレスはリサ様に似合うと思いますのよ?」
「え?」
私用だったの?ちょっと大人っぽくて私にはまだ早そうなデザインなんだけど。いつかこんなの似合うようになれたらいいなって感じの。
「いい加減にしてください母上!リサのドレスは僕が見立てますから。大体なんで母上までここに来ていらっしゃるんですか」
セシルは私の両肩を掴むとセリーナ様からから私を引き離した。
ここは王都でも一番大きくて人気だというドレスショップ。大通りに面したお店で窓から見える並木道の木々はもうすでに葉を落としていて冬も本番という頃だった。セシルは約束通りに私をドレスショップに連れてきてくれたんだけど、何故か先に出かけたはずのセシルのお母さん、セリーナ様が待っていた。
「だって!わたくしだって舞踏会用のドレスを注文しようと思っていたのですよ」
「だからって僕達についてこなくてもいいでしょう?せっかく……」
「まあ!セシルったらリサ様を独り占めなんてずるいですよ?いつも一緒にいるのですから、少しくらいいいではないですか!」
「前にも申し上げたでしょう?リサの舞踏会用のドレスは僕が見立てます!」
「じゃあ、わたくしは普段着を見立ててあげますわ!そうね、アクセサリーもいくつか買いましょうね」
「ま、待ってください!今用意いただいているもので十分です!」
そのままにしておくと、物凄く高額なお買い物をすることになりそうで私は慌てて二人の会話を止めた。ただでさえ衣食住お世話になってるのに、こんな高そうなお店でそんなにドレスやアクセサリーを買ったら……。気が遠くなりそう。
「まあ!遠慮なんてなさらないで!リサ様!」
「リサはあまり欲がないんだな。でも今日は冬から春のドレスを何着か選んでもらうよ」
「えぇ?!でも……そこまでお金をかけてもらえないです」
「まあ!リサ様はセシルの恩人で婚約者、わたくしの娘も同然なのですから!せめてこのくらいはさせていただきたいわ!本当ならもっと色々して差し上げたいのに!」
「あ、ありがとうございます」
セシルもうんうんって頷いてるし、なんだかこれ以上断れない雰囲気。結局私はセシルとセリーナ様にドレスを買ってもらうことになってしまった。
しかも舞踏会用のドレスは既製品じゃなくてオートクチュール。なるべく装飾の少なそうなデザインのドレスを選んだのに、それを元にセシルがいくつかデザインを変えてアクセサリーと一緒に注文してしまった。ああ、いくらかかるんだろう……?セリーナ様はセリーナ様で、普段着とはいえ高そうなドレスやコートをいくつか私の体に当てて、気に入ったものを五着も購入してた。貴族って本当にお金持ちなんだね……。ドレスショップを出る頃には私はぐったりしてしまった。
ドレスショップでセリーナ様と別れた後(セリーナ様はこの後も他のお店を回る予定らしい)、二人で近くのカフェに寄った。ここも人気のお店らしく、店内はたくさんのお客さん達でごった返していた。。セシルは予約を取っておいてくれていて、私達はすぐに奥の個室へ通された。アンティークっぽいテーブルや椅子が置かれた店内は落ち着いた雰囲気ですごく素敵だった。銀のトレーに乗せて運ばれてきたケーキはどれも宝石みたいに綺麗で美味しそう。人気になるのも良くわかるなぁ。どれを食べようか迷っていたら、セシルが頬杖をついて笑った。
「食べきれないのは持って帰るから、好きなだけ食べるといいよ」
「え?これ全部は持って帰っても無理だよ」
十個以上あるんだもの。なんとかチョコレートとフルーツのクリームケーキの二つに絞ってお皿に乗せてもらった。後はチェンバーズさんやアンさん、ダイアナさん、ジェフさんへのお土産にしよう。
「ねえセシル、もう一週間も学園を休んでるけど大丈夫かな?」
ケーキを食べながらセシルに切り出した。
私が階段から落ちた日はそれまでの色々も重なってちょっと怖がりすぎてた気がする。後から聞いたら生徒のいたずらだったらしくて、厳重注意を受けたそう。いたずらで死にかけるなんて腹は立つけど、よく考えたら学校を休むほどじゃなかったのかもしれないって思い始めたんだ。だってお屋敷でも今も平和そのものだから。
「前にも言ったけど、ステラ学園に毎日通い続ける必要はないよ。定期試験さえ受ければ卒業は出来る。現に全く授業を受けない生徒もいるんだ。無理に登校しなくてもいい。勉強なら僕が教えるよ」
学園に行くのは王命だったし、当初の目的はセシルの交友を広げることだったんだよね。私のせいで休ませちゃうのはどうなんだろうって思ってたけど、セシルは友達とかあんまり必要ないのかな?セシルは誰かに話しかけられればそつなく受け答えしてるし、そもそも学園には行きたがってはいない気がする。今は特に緑の魔女が学園にいるし……。
「……そういえばリサはクラスメイトと話をしてる時楽しそうだったね。せっかく友達ができたんだから、そうだね、リサが大丈夫ならもう少ししたらまた登校しようか」
セシルは私のことを考えてくれてるんだ。すっごく嬉しい。でもやっぱりセシルの気持ちの方が大事だよね。
「ありがとう、セシル。でもいいの。自分でも頑張るしセシルが勉強を教えてくれれば試験は乗り越えられると思うし、もうしばらくお休みしよう」
学園内が落ち着いたら緑の魔女も学園からいなくなるかもしれないし。
「そうなの?リサがそれでいいなら僕は構わないよ。ずっとリサを独り視めできる方がいいしね」
「それを言うなら独り占めじゃない?」
「ううん。僕はリサを他の奴らに見せたくないからね。だから独り視め」
見つめられて恥ずかしくてお茶を飲むふりをしてセシルから視線を外した。私はセシルに喜んでもらえそうなほど美人でもないのに……。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




