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電車を降りたらそこは異世界でした 悪役令息と七人の魔女  作者: ゆきあさ


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おかしな偶然

来ていただいてありがとうございます!





空は快晴。なのに急に影が差した。


「セシルッ!」

咄嗟にセシルに抱きついて半ば突き飛ばす勢いでその場を飛びのいた。


ザザッー!!!


次の瞬間、いきなり空から水が降ってきた。雨じゃない。バケツの水をひっくり返したみたいな水の塊。滝みたいな水が私の背後の地面に大きな水たまりをつくった。お昼休みにカフェテリアには行かずに食堂でご飯を調達して中庭の温室で食べた後のことだった。


「ごめんなさいっ!」

校舎の上の方の窓から声がする。顔を出したのは何人かの女の子達。

「魔力のコントロールに失敗してしまって」

ステラ学園では今、魔女対策として魔法の練習をするのが流行ってる。空き教室で水魔法を使ったんだと思うけど、今のって直撃してたらちょっと危なかった気がする。下手したら首の骨が折れちゃってたんじゃないかな?それくらいの水量だったと思う。


「大丈夫ですっ!当たらなかったので!」

「良かったわー!本当にごめんなさいー」

返事をすると、女の子達は安心したように手を振った。あれ?あの子達って同じクラスの子達だ。

「リサ、大丈夫か?」

「うん、平気。靴とスカートにちょっと水がかかっただけ。セシルは?」

「なら良かった。僕は何ともない」

セシルは私の頬に触れて息をついた。

「しかし危ないな。ノワール先生達に注意してもらわないと」

セシルは眉をひそめて校舎の窓を見上げた。まだ練習を続けているのかきゃっきゃっとはしゃぐ声が聞こえる。確かに遊び感覚で魔法の練習をするのは問題かも。でも今はそれよりも……。


「あの、セシル……そろそろ教室に戻らない?」

さっきからセシルが私を離してくれないままなんだよね。

「せっかくリサから抱きついてくれたのにもう離れるの?」

「そ、それは……」

お昼ご飯の後でまだ眼帯を外したままのセシルは、ちょっと意地悪そうに笑った。確かに抱きついたのは私だけど、それは嫌な感じがしたからで他意は無いのに!

「リサ、真っ赤だ。かわいいね」

「セシル!からかわないでよ!」

「からかってなんか無いよ」

セシルは私のおでこに口付けてから、やっと腕の力を緩めてくれた。

「もう!誰が見てるかわからないのに、こんな場所で!」

「あれ?じゃあ、二人きりで密室でなら何してもいいの?」

「それもダメ!」

「なーんだ、残念」

セシルはそう言いながらサンドイッチの入っていた紙袋を拾い上げた。さっき水が落ちてきた時に放り投げてしまったんだった。ポイ捨ては駄目だよね、うん。


ダメって言っちゃったけど、セシルに触れられるのはやっぱり嫌じゃない。これってそういう事なんだろうか……。セシルの手の温かさをずっと背中に感じながら教室へ戻った。



その日以来時々、変なことが起こった。例えば食堂に行った時、おしゃべりしながらお茶を運んでた生徒にぶつかられそうになって熱いお茶をかけられそうになったり、風魔法を使ってた生徒が割ったガラスの破片が飛んできたり、課題に必要な本を借りに図書室に行った時には吹き抜けになってる二階から分厚い本が落ちて来たり。


「最近おかしなことが起こりすぎる」

今日の図書室のは司書さんが本の整理をしていて、ワゴンに乗せた本が不安定な位置にあったからだった。どれも偶然そうなってしまったっぽいし、特に悪意は感じなかった。だけどちょっと間違えば大怪我をしそうな出来事ばかりでちょっと怖い。

「今日はもう帰ろう。それからしばらく学園に来るのはやめよう」

「え?でも……」

「明らかにリサばかりが危ない目に遭ってる」


そうなんだ。いつもセシルと一緒にいるんだけど、被害に遭いそうになるのは主に私だった。今日なんかは私めがけて本が落ちて来たし。一応司書さんがぼんやりしてたって平謝りしてくれたから、わざとじゃ無いってわかってるけど、こう続くと気になっちゃう。何よりもセシルが庇ってくれることもあって、いつか怪我させちゃうんじゃないかって心配。

「そうだね」

「そうだ。別に勉強なら屋敷でできるし、魔法の訓練も同じだ。何なら先生を呼べばいい。そもそも毎日登校する必要もないんだから」

確かに気味が悪いから、しばらく学園を休むのもありかもしれない。嫌な偶然が続いているのなら連鎖を断ち切るために違う事をするものありだよね。


「うん。わかった。そうさせてもらうね」

「よし!決まりだ。ついでだから舞踏会のドレスやアクセサリーなんかを見に行こう」

「え?セシルも休むの?」

「当然だ。これからはリサを独り視めだ」

「独り占めって……。いつも一緒にいるのに」

「最近はクラスの女子生徒と仲良く話をしてる時もある」

ムッとしたように頬を膨らませるセシル。こんな風にセシルはたまに幼い感じに見える時があってちょっとかわいいって思ってしまう。最近はクラスの女子生徒ともちょこちょこ話せるようになってきたんだ。まだ友達とまではいかないけど、そのうち友達になれると嬉しいなぁ。魔法の練習が流行ってるとか、緑の魔女グロリアさんからも魔法のコツを教わってるとか話してくれたっけ。……そういえばあれからグロリアさんはセシルの前に現れないけど、セシルのことを諦めたんだろうか?



「さっさと屋敷へ帰ろう」

セシルと一緒に一度教室へ戻って荷物を持ってエントランスへ向かった。


メインの校舎には一階に食堂や救護室、二階はフロア全体に図書室、三階にはそれぞれの教室がある。東に渡り廊下でつながった教職員棟、西には同じく渡り廊下でつながったカフェテリアのある建物。北側にはグラウンドを挟んで学生寮(入寮してる生徒は少ない)。南側には中庭を挟んでもう一つのカフェテリアがある。


教室からエントランスのある一階に行くにはまるでお城みたいな大きな階段を下りていくんだけど、そこでまた事件が起こった。

「きゃあっ」

踏み下りた階段で足を滑らせてしまったのだ。勢いよくつるっと滑って前につんのめって落ちていく私。咄嗟だったから何の防御も出来なかった。ああ、そういえば階段から落ちるのは二回目だ……。落ちながらそんなことを考えた。

「リサっ!」

セシルが手を伸ばしてくれるけど届かない。


浮遊感の後に近づいてくる階段。顔面を打ち付ける覚悟をして目を瞑ったけど、衝撃は来なかった。

「あれ?」

気が付くと階段の途中で私の体は宙に浮いていた。後ろを振り返るとセシルが片手を伸ばして荒い息をしてる。たぶんセシルが魔法を使って助けてくれたんだ。もう片方の手には光る魔法石が握られてる。私の体は投げ出された状態のまま、一階までゆっくりと運ばれた。


「怪我はっ?!」

セシルは階段を駆け下りてきて私の前に座り込んだ。

「あ……」

階段から落ちたショックでまだ胸がドキドキしてる。セシルの心配そうな顔を見てようやく声が出た。

「……平気……。セシルが助けてくれたんだよね?ありがとう」

セシルは私の手を引いて立たせてくれてそのまま強く抱き締められた。

「セシル……ごめんね。ありがとう」

「間に合って良かった」

私もセシルの背中に腕を回してしがみついてしまった。怖かった。私達はしばらくの間ずっとそうしていた。


後から調べたら、階段の一部分が凍っていたことがわかった。いたずら?それともまた誰かの魔法の練習の跡?こんな所で?今度は偶然で片付けるのは無理がある。じゃあどうして?













ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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