緑の魔女
来ていただいてありがとうございます!
「何だかクラスに人が増えたね」
「ああ。氷の魔女の襲撃があってから出席者は激減していたのにおかしいな」
朝、登校する時にも思ったけど生徒の数が元に戻って来てる。学校に生徒がいるのは当たり前なんだけど、ことこのステラ学園では学業は二の次で生徒同士つまりは貴族の子女同士の交流が主な目的の場所。だから魔女の襲撃がまたあるかもしれない危険な場所に無理に来なくてもいいはずなんだ。交流なら自分の家でお茶会とかをやればいいんだから。
「ちょっと聞いてみるね」
「リサ?」
正直クラスの生徒とはあまり交流が無いけど、みんな表向きはお行儀が良くて挨拶をすれば無視はされないし、話しかければよっぽど敵視されてなければ会話はしてくれると思う。渡り人の私には身分はあまり関係ないから誰に話しかけても大丈夫のはず。私はちょうど教室に入ってきた女子生徒に話しかけた。ジェシー・ファーロウ伯爵令嬢、たぶんこの人のおうちは第一王子派では無かった、と思う。
「おはようございます。ファーロウ様」
「あ、おはようございます。ミズキ様」
ジェシーさんは栗色のストレートヘアを揺らして丁寧にお辞儀をしてくれた。ちょっと戸惑ってるみたいだけど、会話をしてくれそうな気配がしたので思い切って尋ねてみた。
「ファーロウ様は登校なさるのが怖くないのですか?」
「え?ああ、この前の魔女の襲撃のことですわね。ええ、もちろん恐ろしいですわ。でもこの国のどこにいても同じかと思いまして」
確かに。魔女という存在がいる限り同じようなことが起こらないとも限らない。魔女は自分の欲望に正直だって言われてるし、目的の為なら手段を選ばないらしいし。
「そうですね」
「ええ、屋敷に閉じこもっていて襲われるよりも警護の厳しい王城の近くにいる方がまだましです。それにここには魔法使いの先生方がいらっしゃるから、魔法の防御などを教えていただくのは有益かと思いますの」
「なるほど」
つまりは自己防衛の為に真面目に授業を受けようと考えた人が増えたのね。
「さらには善き魔女である緑の魔女様がステラ学園に常駐してくださるとのことですし心強いですわ!」
「はい?」
緑の魔女が学園に常駐?!
「最悪だ……」
「セシル……」
いつの間にか私の後ろで会話を聞いていたらしいセシルが額を押さえてる。
「では、失礼いたしますわね」
ジェシーさんはセシルを見るとそそくさと友人達の元へ行ってしまった。オッドアイの迷信を気にする人だったみたい。
「あらぁ!クロックフォード様!こちらにいらしたのね。わたくし探してしまいましたわ!」
昼食をとっていたセシルと私に突然かけられた声。セシルは飲んでいたお茶を喉に詰まらせてむせてしまった。
「セシル!大丈夫?」
咳き込むセシルの背中をトントンと軽くたたいた。
「ありがとうリサ、もう平気だ」
涙目になったセシルが私を見上げて微笑んだ。
ステラ学園には大きな食堂とカフェテリアが二つあって、セシルと私はちょっと校舎から遠い南側のカフェテリアで昼食をとることが多かった。大体の生徒達は校舎に一番近い食堂で昼食をとることが多い。食堂には二階に個室もいくつかあって、より高い身分の生徒達がそこを利用する。特に決まりは無いけど、もう冬になろうというこの時期にはどの個室を誰が使うのかはほぼ決まってて、それが暗黙のルールになっていた。
セシルは騒がしいのが苦手なので、私達は人の少ないこちらのカフェテリアに来ることにしていたんだよね。そこにグロリアさんが現れた。本当に学園にいたんだ……。しかも前にセシルに冷たくあしらわれたのに全然懲りてないみたい。
「良かったですわ!お会いできて。わたくしステラ学園の救護室に常駐することになりましたの。ぜひ遊びにいらしてくださいませね」
救護室って遊びに行くところだったっけ?セシルが無視してるのに何を思ったかグロリアさんは私達のテーブルに座った。うわあ、これってかなりのマナー違反じゃない?自分よりも上の身分の人に話しかけてはいけないとか、許可なしで同じテーブルに座っちゃダメとか、色々教わった気がする。
「行こう、リサ」
セシルは立ち上がり二人分の昼食のトレーを持った。私達はもう食事はほぼ終えてお茶を飲んでいた所だった。
「うん」
私も慌てて立ち上がる。それでもグロリアさんは気にせずに話し続けた。
「わたくし薬学に通じてますのよ。主に薬草と魔法で魔法薬を作るのが得意なんですの。今回の魔女の襲撃で怪我をした生徒達や兵士の皆さんを治療させていただきましたの。あとは心が不安になった方々にもお薬を処方させていただいてます。あ、そうですわ!魔力を増幅させるお薬なんかもございますのよ?よろしければいかがですか?」
それ、大丈夫なやつなの?ドーピングとかっていうのじゃないかな?思わずグロリアさんを見たけどグロリアさんは夢見るような瞳でセシルしか見ていなかった。うわ、これはかなり気に入られちゃってる。ストーカーにならないといいけど……。
セシルは完全無視でトレーを返却口に戻し、私の手を繋ぐとカフェテリアを出た。あーあ、結構お気に入りのカフェテリアだったのに、もう来れなくなっちゃうかも。その時の私は深刻に受け止めてなくて、そんな呑気なことを考えていた。
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