氷の魔女 襲来 ③
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「大体ねぇぇ、アレを祓うならそんなに物理で叩く必要ないでしょうぉぉ?」
「ご、ごめんね?でも私、魔力を注ぎ込むやり方なんてよくわからなくて……」
目に涙を溜めたまま抗議をする氷の魔女シビルに何故か謝る私。魔力を使うなんてありもしない第三の手を動かすみたいな気がして、ちんぷんかんぷんなんだよね。
「リサが謝る必要なんてないさ。ステラ学園では魔法の使い方は必修科目ではないから」
セシルが私の手を繋いでシビルから離れていく。明らかに変わったシビルの様子に警戒を緩めてるみたいだけど、もう片方の手にはまだ剣を握ったままだ。
「…………遠くないぃ?」
「遠いわね」
私とセシルは教職員棟の入り口近く、アビーは私達から一メートルくらいのところ、そしてシビルは渡り廊下のほぼ真ん中に立ったまま会話をしてる。
「様子が変わったとはいえ、僕はまだ君達を信用することは出来ない」
セシルは二人に剣先を向けた。私はまだ桃佳との話をセシルに伝えてない。この世界やアビー、シビルについてを推測できる私と違って魔女に狙われたセシルが慎重になるのも当然だよね。
「セシル、二人からはもう悪意みたいなのは感じないよ?」
「うん。リサがそう感じてるのはわかるよ」
セシルが私に笑いかけた。さっきの言葉を思い出してちょっと恥ずかしくなってきちゃった。
「でも僕はリサを危険な目に合わせる訳にはいかない」
「はぁ……前にリサに言ったけど、私に少年趣味は無いわ。アンタに興味なんかない!」
アビーはフンと腕を組んだ。
「私もぉ、氷の大地の動物にしか興味はないわぁ。主に氷ウサギ……うふふ」
この世界にもウサギがいるんだ。どんなのだろう。ちょっと見てみたいな。ん?シビルって『氷の魔女』だったよね?
「もしかして氷魔法を極めたのってその氷ウサギを飼うためなの?」
「飼わない!氷ウサギの里を作るの!そのための土地も用意してあるわ!氷ウサギが好む雪苺の苗も植えてあるの!」
シビルはウキウキと夢を語ってる。村おこしかな?いや、ムツゴ〇ウさん?あとなんだか雪苺って美味しそうじゃない?
「……魔女なんて呼ばれてる割には随分と平和な計画だな。あと、こんな話をしてる場合じゃないと思うんだが」
セシルが構えた剣の先が少しだけ下がった。
「そ、そうだった!ねえシビル、外の吹雪を止めて!」
「えぇ?吹雪……?あぁ!本当だわぁ!どおりでさっきから魔力が抜けて力が入らないと思った」
シビルがパチンと指を鳴らすとごうごういってた風の音と雪がピタッと止まった。
「私なんでこんなに無駄な魔力使ってるのぉ?私の魔力はもふもふ氷ウサギちゃん達の為にあるのにぃ……」
あ、もふもふなんだ。シビルは、はぁぁぁぁぁって長く長くため息をついた。
「もう帰るわぁ。くたびれちゃった」
「え?このまま帰るの?!この降り積もった雪はどうするの?」
「すぐにとけてなくなるわよぉ」
その時突然ガコンッって音がして、校舎側の扉を覆っていた氷が全て割れた。
「逃がさないわよ!氷の魔女!」
あ、桃佳だ。なんか可愛いドレス着てる!それにあのロッド可愛い!
桃佳はルーク王子にハーヴェイ王子にそれにオーガスト王太子まで、それから知らない綺麗な女の人と一緒に渡り廊下に現れた。
「あら、お歴々がご登場ね。面倒になりそうだから私も帰るわ」
「え?ちょっとアビー?」
「またね。リサ」
時の魔女アビーはどんな魔法を使ったのか、次の瞬間にはここから消え去ってしまってた。炎の球体も消えて寒さが戻ってきた。
「私も氷うさぎちゃん達のお世話があるからぁ」
「え?シビルまで?」
「リサだっけ?助けてくれてありがとぉ。ちょっと……かなり痛かったけど」
雪まじりの突風が吹いたと思ったら、シビルまでこの場から消え失せてしまった。思いっきりバットを振ったの、かなり根に持たれてるのかも。
「ちょっと!何してんの?!」
桃佳が何故か私を怒鳴りつけてきてびっくりした。
「何ってバットで魔女を殴って正気に戻しただけだよ?」
私は手に持っていた白バットを軽く振ってみた。改めて言うと結構酷いなぁ私って……。それにバットを握ってる私と剣を持ってるセシルが並んで立ってるって結構バイオレンスな絵面だよね。
「たぶんもうあの二人は襲ってきたりはしないと思う」
「は?」
プルプルと震える桃佳。あれ?なんかすっごく怒ってるみたい。私何か悪い事した?
「聖女桃佳様、生徒達の様子も気になりますし、今は……」
桃佳の腕にそっと触れてこちらを向いたのは私の知らない女の人。なんとなく魔女の一人なんじゃないかなって思った。さっきの二人とは印象が随分違うけど。
「お初にお目にかかります。もう一人の渡り人、リサ・ミズキ様。わたくしは魔女フィロメーラ・フィンと申します。現国王陛下の招へいをお受けしてコスモス王国を守護させていただいております」
「あ、リサ・ミズキです。よろしくお願いします」
この人がこの国にいる七人の魔女の一人なんだ。この人が聖女でもおかしくなさそうなくらい穏やかそうで綺麗な人だなぁ。どっちかっていうと聖母様みたいな感じ。
「セシル、リサ嬢一体何があったんだ?」
ハーヴェイ王子が駆け寄って来た。セシルは剣を一振りして消した。私もバット消したい。振ってみたけど消えなくてちょっと困ったけど、ペンダントに戻るイメージをしたらフッてバットが消えて手の中に白い魔法石が現れた。
「あ、できた!」
「もう使いこなしているようじゃの」
「ノワール先生!」
「ノワール先生、他の生徒の様子はどうですか?」
「問題ない。皆無事じゃよ。聖女殿が来てくれたからのう」
「良かった」
セシルと私は顔を見合わせて笑い合った。
「とにかく、二人とも城へ来てくれ。話はその時に」
ハーヴェイ王子が私達を促した。他の人達は一足先に校舎の方へ戻って行ったみたい。
「仕方ないな……」
犯人(?)が消えてしまってその場にいたのはセシルと私だけ。それに魔女に遭遇したのも私達だけっぽいから事情説明しに行くのは仕方ないかも。セシルと私は降り積もった雪の中、直通道路を使ってお城へ向かった。
「雪は止んだけどこれだけ積もってると寒いままだね」
改めて氷の魔女シビルの力ってすごい。魔女って本当に抜きんでてるんだ。
「リサ」
セシルが一度返した上着をまた着せかけてくれた。
「いいよ!もうすぐお城だし、セシルだって寒いでしょ?」
「平気だよ」
「ひゃっ!」
セシルの腕が私の腰に回って、耳元に熱い息がかかった。
「さっき、嬉しかった」
「え?」
「氷の魔女に、渡さないって言ってくれて」
「そ、それは……っ!セシルっ!」
頬に口付けられて物凄くビックリした。こんな人前でそんな……。
「君達ねぇ、こんな状況でいちゃつかないで欲しいなぁ」
セシルは平然としてるけど、私はハーヴェイ王子に呆れられて顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
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