氷の魔女 襲来 ②
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「王宮がこの事態を看過するはずはない。救援はすぐにくるだろう。ひとまずはノワール先生の仰ったとおり教職員棟へ避難しよう」
「他の先生方はどうしてるのかな」
ステラ学園には魔法使いじゃない普通の先生もたくさんいるはずだ。
「この雪と氷には魔力がこもってるから魔力の少ない人間には毒になるわ」
時の魔女アビーが私の隣を歩こうとするけど、その度にセシルが間に入ってくる。
「え?毒?それって大丈夫なの?」
「命に関わるようなことは無いとは思うけど、体調を崩して動けなくなる人が出てくるでしょうね」
アビーの言う通りなら、校舎の方もかなり心配だ。どのくらいの生徒達が残ってるんだろう。
「とにかく早く避難しよう。教職員棟が安全ということは先生方が何らかの対処をしているはずだ」
「そっか。みんなは大丈夫かな?」
私がちらりと後ろの校舎の方を振り返った時、何故かいいようのない嫌な気を感じた。それと同時にアビーが勢いよく振り返る。
「来るわ!」
「あ」
「どうした?リサ……っ!」
同じく振り返ったセシルが息を呑んだ。
そこに黒い影がわだかまっていた。
氷の上を滑るように近づいてくる黒い影のようなもの。それはあの舞踏会の夜と見た目は同じようなものだった。しいて言いうならあの夜の時より大きい。というより背が高い。そして私には前と違う気配みたいなものが感じられた。感覚的なもので何が違うって上手く説明できないけど。
「せしるみつけたぁ」
ゾクッとした。あの時とは違う声だけどセシルを狙ってる。セシルだけを見てるような気がする。
「これが氷の魔女……」
冷たい気配。全身を刺すようなプレッシャー。そして禍々しい気配。
「な……」
セシルが絶句してる。私は氷の魔女の視線から守るようにセシルの前に立った。
「あの時の私と同じね。自我を無くしかけてるわ」
アビーが少し顔を引きつらせながら笑ってる。
「あれが氷の魔女シビル・シアラーよ」
「あれが……。でも何故僕を」
そうだよね。セシルにしてみれば謎だよね。でも私には理由が説明できそう。だってこの世界は小説の世界だから。たぶん世界がストーリー通りになるように修正しようとしてるんだと思う。つまり、セシルを手に入れて、セシルを使って秘宝を手に入れるっていう筋書き通りに。桃佳は何度かお城を魔女が襲ったって言ってた。だけど魔女単独でお城を襲っても上手くいかなかったから、今回またセシルを狙ってきたとか……。ただの推測だけど、これは桃佳にもう一度話を聞いてきちんとエンディングを迎えないと同じことが繰り返されるかもしれない。
「せしるぅ……」
うわっ気持ち悪っ!私が前に立ってるのに魔女がセシルに覆いかぶさろうとしてきた。
「呪いっていう制約が無ければいくらだって反撃できるっ!」
セシルはいつの間にか消えていた剣をまた出現させて、魔女を切り払った。あれ?刀身がオレンジ色だ。さっきは普通の銀色っぽい色だったのに。
「くっ!」
セシルが魔女を切っても、また黒い影が再生してく。
「これじゃあキリが無いよ!どうしよう」
いくらセシルが強くてもこのままだと体力が続かない。それにこの寒さにも体力を奪われていくような気がする。アビーが出してくれた炎で暖は取れてるけど、どんどん体が重くなっていってる感じだ。セシルも肩で息をし始めた。これはまずいかも。
「前にやったみたいに殴りつけてみようかな」
今の私には舞踏会の夜みたいにロッドが無い。だから素手で魔力を叩き込んでみようかと思い立った。最初にセシルの部屋で魔女を撃退した時も出来たし。私は拳を握りしめた。
「やめときなさい」
「アビー?」
「いくらなんでもそんなことをしたら無事じゃすまないわよ」
「でも、前にやったことがあって」
「危険だからもう二度としちゃダメ!」
「わかった。でもどうして?」
「媒体を使わずに魔力を使うと体に大きな負担がかかるの。詳しい説明は省くけど、とにかく危険だから絶対にやめなさい。それに今のリサにはそれがあるでしょ?それを使ってリサの魔力を叩き込んでやれば楽勝よ」
アビーは私の首にかけたペンダントを指さした。さっきノワール先生から渡されたもので、大きな白い魔法石は元々はアビーがくれたものだ。
「これ?でも私、魔法なんて使ったことないし、どうしたらいいのかわからないよ。せめてロッドとか剣みたいだったらイメージしやすいんだけど」
セシルに魔力を注ぎ込んだ方法はあるけど、そんなのは今は絶対にできないし。
「ならその魔法石の形を変えればいいわ。リサが使いやすい形にね」
「形を変えるの?」
「そう。イメージすればいいわ。その石は気まぐれだけどきっと応えてくれるから」
「イメージする……」
私はペンダントを外して握りしめた。目の前ではセシルが氷の魔女シビル・シアラーと戦ってる。急がないと!早くしないとセシルが連れて行かれちゃうかもしれない。
「魔女に魔力を叩き込む……」
それにふさわしい武器は…………私の手の中で魔法石がその形を変え始めた。
「なにそれ?こん棒?」
アビーが不思議そうに尋ねてくる。
「これはバット……?」
何でこの形??でもバットは握り慣れてるからちょうどいいかもしれない。ずっと弟の野球の練習に付き合ってあげてたから。
「ほんとは私、ノックするよりホームラン打つ方が好きなんだよね」
「一体何の話をしているの?」
「ううん、何でもない」
「セシル!ちょっと離れて!」
「リサ?わかった!」
私はタイミングを見計らって真っ白に輝くバットをフルスイングした。
「セシルは世界なんかに渡さないっ!どっか行っちゃえ!」
カキィィィィンッって我ながら小気味いい音を立てて、氷の魔女が吹っ飛んで……行かなかった。
「あれ?飛んでかない?ジャストミートしたのに」
我ながら会心の振りだったと思う。なのに氷の魔女はその場に突っ立ったまま身じろぎもしない。魔力がこもってなかったとか?よし!もう一度だ!そう思って白バットを構えたら、突然氷の魔女の周囲の黒い闇にひびが入ってばらばらと剝がれるように落ちては霧散していった。中から現れたのは背が高くて痩せていて北極の氷みたいな青白い髪の女の人。
「あら、お久しぶりねシビル」
「これが氷の魔女?」
「リサっ!大丈夫か?怪我は?」
セシルが走り寄って来て私の体を見回した。
「私は何ともないよ。セシルは?大丈夫だった?」
私もセシルに怪我がないか調べた。うん。大丈夫みたい。良かった。
「ああ、だけど一体何がどうなったんだ?」
「あれが氷の魔女の本当の姿なんだって」
「魔法石のバットがいい仕事したわね。リサは上手いことあの黒い魔力だけを消したのよ」
「そうなのか……やっぱりリサはすごいな」
セシルは眩しそうに私を見つめた。
「痛ぁぁぁいっ!!」
氷の魔女シビル・シアラーは自分の体を抱き締めるようにして渡り廊下にうずくまっていた。
「酷ぉぉい!思い切り叩くなんて!」
半泣きでこっちを恨めしそうに見てる。うう、なんかごめん。
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