氷の魔女 襲来 ①
来ていただいてありがとうございます!
好きだって言われた。セシルの言葉が頭の中をぐるぐる回る。
ど、どうしよ……人生で初めて告白されちゃった。
目の前ではセシルとアビーが戦っている。というかセシルが切りかかるのをアビーがひらひらと避けてる。
「あ、セシル……強い」
そこまで広くない渡り廊下の中でチェンバーズさんみたいに出現させた剣をアビーに向かって振るっている。そういえば前にもハーヴェイ王子と剣の稽古をするって言ってたっけ。なんだか舞を舞ってるみたいで綺麗。それにかっこいい…………。
「じゃなくて!止めないと!」
前にアビーは自分が操られただけって言ってたし、ちゃんと話を聞いてみたい。
「それに何だか妙に寒くなってきたし」
え?寒い?窓の外……真っ白……。窓ガラスもカタカタ言ってて風も強くなってきてる。あれ?もしかして吹雪いてる?!
「氷の魔女?」
「氷の魔女がどうしてステラ学園に来るんだ?」
セシルと私は一斉に『時の魔女』アビーに尋ねた。
「そんなの知らないわよ。ただここでリサを観察してたら気配を感じただけ。冷たくて大きな魔力を」
アビーはそう言って両手を広げてくるりと回ってみせた。制服のスカートとツインテ―ルも一緒にまわって可愛い。ちっちゃい子ってかわいいよね。うちの妹も……ってそんな場合じゃなかった。
「なにこれ?」
校舎への入り口は完全に氷で閉ざされていて戻れそうにない。教職員棟への入り口も同じ。
「こんなに短時間で……」
セシルは絶句してる。
「これが魔女の力なの?アビー」
「あら、名前で呼んでくれるのね。嬉しいわ、リサ。ええ、そうよ。氷の魔女はその名前の通り氷に関する魔法が得意なの。魔女は大体の魔法がそれなりに使えるものだけど、自分の専門分野の魔法に関しては他の追随を許さないほどに突出してるのよ」
「そうなんだ……」
「何を普通に僕のリサと会話してるんだ」
セシルが私の前に立ちアビーとの距離を取らせた。
「別にアンタのって訳じゃないでしょ?物じゃあるまいし」
アビーは不満げに口を尖らせた。
「僕のだ。それに僕はまだお前を信じた訳じゃない。リサの言葉があるから一時休戦にしているだけだ」
「ふーん、あっそ。私だってアンタなんかに興味ないっての。私が気になってるのはリサだもん」
「……なんだと?聞き捨てならないな。今度はリサに呪いをかけるつもりか?!」
「やーね。そんなことしないわよ。好きな人を弱らせて楽しむ趣味は無いわ!」
「どの口がそれを言うんだ!」
「だから、アンタを狙ってた時の私は私じゃなかったの!」
「そんなことが信じられるか!だいたい……」
「ストーップ!!!」
今、言い争いしてる場合違う。
「このままだと凍死しそう」
「あ」
「そうね」
文字通りヒートアップしてた二人はやっとそれに気が付いたみたいだった。
「おおっ!君達!!無事じゃったか!!」
突然かけられた声に振り向くと、黒のローブのノワール先生が氷の隙間から顔を覗かせた。
「それにしてもまあカチカチに凍っておるのぉ!」
「邪魔だ!どかんか!」
深い赤のローブのロッソ先生が魔法を使って炎を出した。どうやら魔法で教職員棟の出入り口の氷を溶かしたみたい。やがて人が通れるほどの大きさに氷が解けて先生方が渡り廊下に入ってきた。
「やれやれ、老体にはこの寒さは堪えるわ」
灰色ローブのグラウ先生が炎のかたまり(人魂みたい……)を掌に乗せて後ろからやって来た。
「生徒達は無事かのう」
「ケガ人がいないとよいが……」
群青色のローブのアスール先生と深緑のローブのヴェルデ先生が気にするように校舎への入り口を見てる。
「今、向こうの氷も溶かす!」
「手伝おう」
ロッソ先生とグラウ先生が校舎側の出入り口へ走って行った。
「あれはいいわね」
アビーはそう言うと、両掌にオレンジ色の炎の塊を出した。途端に周囲が温かくなってくる。炎はアビーが手を引っ込めてもそのままふわふわと宙に浮かび続けて、辺りを温かく照らした。
「あったかい……。アビーありがとう」
「私も凍死しなんてたくないしね」
「さすがはアビー・アルバーン。『時の魔女』の異名を持つだけはあるのう」
「ノワール先生、お久しぶりですわ」
アビーはノワール先生にお辞儀をした。
「先生は魔女とお知り合いなんですか?」
セシルは私に上着を着せかけて、そのまま抱きしめるように引き寄せた。
「かつての教え子じゃ」
「じゃあ、アビーはこの学園の卒業生だったんですか?」
驚いた。どう見ても入学前の中学生かそれ以下にしか見えないから。
「その通りじゃ。アビーは魔力量が凄まじく、研究熱心でとても良い生徒じゃったよ」
そう言ってアビーを見たノワール先生は優しい表情をしてた。
「その良い生徒がどうして……」
セシルが吐き捨てるように呟いた。無理もないよね。セシルはずっと大変な思いをしてきたんだから。でも、アビーの言ってることが本当ならアビーも被害者のはず。私は複雑な気持ちだった。
「氷の魔女か……こんな時になんじゃが、リサ・ミズキ嬢にこれを」
ノワール先生が私にくれたのはアビーに貰った白い石を加工してペンダントにしたものだった。先生方もこの異常事態の原因が氷の魔女だって考えてるみたい。
「あら、私があげた魔法石、先生方が持ってらしたのね」
「先生、これは?」
私が受け取ろうとしたら、セシルがそのペンダントを検分するように見始めた。
「危険なものではないよ。クロックフォード君。それは純度の高い魔法石じゃ。これならリサ嬢の魔力にも耐えられる媒体になるじゃろう」
「一緒についている空色の魔法石はその魔法石を補助するためのものじゃ。おまけでつけておいた」
ヴェルデ先生とアスール先生はそう言うと、校舎の方へ向かって行った。校舎への出入り口の氷も何とか人が通れるくらいの大きさに穴が開いたみたい。
「生徒達が心配じゃ。わしらは救助に向かう。君達は安全な場所に避難していたまえ。そうじゃな、ひとまず教職員棟がいいじゃろう。そのうちに城からも救援がくるはずじゃ」
ノワール先生も校舎へ入って行った。
「安全な場所ねぇ……。魔女に狙われて安全な場所なんてあるのかしら?」
アビーの言葉が不吉に響いた。窓の外の吹雪が更に強さを増していった。
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