渡り人二人
来ていただいてありがとうございます!
全然 桃佳と話すチャンスが無い。いつも取り巻きの女の子達がいるし、男子も交じってるし、ルーク王子も一緒にいるしで、全然二人で話せる機会が無い……。なんだか取り巻きの人達に睨まれてるような気もするし、私、何かした?!授業が終わるとすぐにお城へ帰って行っちゃうし。困ったわ。
「やっぱり、面会を申し入れよう」
「うう、お願いできる?」
セシル君が再度そう言ってくれたから、今度はありがたくお願いすることにした。
「わかった」
セシル君はすぐに手配してくれて、その日の放課後には 桃佳との面会が叶った。
「やあ!王宮へようこそ!これからお茶でもどう?」
何故か私達を出迎えてくれたのはハーヴェイ王子だった。セシル君がスッと前へ出て、
「今日はリサがもう一人の渡り人との面会の予定なんですが……」
「わかってるよ!最近学園に行けてないからさ、ちょっとくらいはいいじゃないか」
ぶうたれる王子様っていうのも珍しいかもしれない。
「じゃあ、僕は控えの間で待っているから」
「ありがとうございます、セシル様」
「よし、じゃあセシルは久しぶりに僕と剣の稽古をしよう!」
「ちょ、ちょっと待て!僕はリサと離れるわけには……!」
「だ―いじょうぶだって!!王宮の防御は完璧さ!」
「この前簡単に魔女に侵入を許してただろう?!」
「あれから強化したからさ、行くぞー!」
セシル君、ハーヴェイ王子様に連れてかれちゃった。二人ってほんとに仲良しなんだなぁ。
「参りましょう、リサ様」
「あ、はい!お願いします」
お城の 桃佳の侍女だという女の人についていき、お城の奥まった部屋に案内された。
豪華な部屋の中、豪華な調度品に囲まれて、 桃佳はルーク王子と並んでソファに座ってた。白を基調としたドレスと白い花の髪飾りのついた白いベールを身につけた 桃佳はいかにも聖女といった姿だった。隣に座ってたルーク王子が立ち上がりこちらへ歩いて来た。
「ようこそ。もう一人の渡り人様。お二人でお話がしたいんだってね。僕は席を外すからゆっくりしていくといいよ」
ルーク王子は優しくて温厚な方だって聞いていたけど、その通りみたいでホッとした。
「はい。ありがとうございます」
お礼を言うとルーク様は隣の部屋にいるからねって 桃佳に笑いかけて退出された。
「で?今更何の用?」
ルーク王子の姿が無くなると、 桃佳は途端に不機嫌そうな顔になった。
今更ってどういう意味だろう?良くわからないけど、ひとまず 桃佳にこの世界のことについて聞いてみた。
「 桃佳はこの世界のこと何か知ってる?」
「……やっぱりあんた何も覚えてないのね」
「何も覚えてないわけじゃなくて……。覚えがあるような無いような感じなの。それでよくある小説やゲームの世界に迷い込んじゃったってやつなのかなって……。 桃佳はなんか覚えがない?」
「……はぁぁぁ。あんたってそういうやつだよね」
「なに?突然」
「『光の聖女物語~悪役令息と七人の魔女~』」
あ、なんか思い出したかも……。
「たしか六年生くらいの頃に 桃佳がはまって薦めてくれたくれた小説だよね、それって」
「そうよ!結局あんたは全然読まなかったけどね!」
「ごめん。あの時はちょっとバタバタしてて……」
あの頃、家の中がごたついてたんだよね。実はお父さんが借金作って行方不明になっちゃって。結局借金の方は何とかなったんだけど、とうとうお父さんは帰ってこなかった。お母さんは働かなくちゃならなくて私が弟と妹の面倒をみることになって……。あれ以来あんまり 桃佳と遊べなくなったんだった。
「まあ、あんたんちの事情は大体知ってたからいいけどね」
桃佳は腕を組んでふんぞり返った。
「 桃佳って聖女って言われてるんだよね?いいの?そんなんで」
「今は誰もいないからいいのー」
改めて桃佳が小説のあらすじを説明してくれた。
異世界に行った主人公が聖女として、王子様達や高位貴族の令息達や良い魔女達と協力して悪い魔女をやっつける物語だった。悪い魔女の手下が悪役令息で実は悪い魔女に洗脳されていて主人公と関わりあううちに洗脳が解けていき主人公を想うようになり、味方となって一緒に悪い魔女と戦い、王国の秘宝を守るというストーリーだった。
「私はすぐにピンときたわ。ルークにハーヴェイにオーガスト。コスモス王国にステラ学園!!最初に主人公が森で王子様に助けられる展開も全く同じだった!!」
「王子様達を呼び捨てって……」
聖女だから許されてるのかな?
「そうだったんだ。じゃ、じゃあ、 桃佳はこの先のストーリーも知ってるんだよね?教えてくれない?」
「…………」
「なに?何で睨んでるの?」
「睨んでない。呆れて見てるだけ」
「どうしてよ!」
「はぁぁぁぁ……。ストーリーも何も、あんたが魔女を撃退しちゃったから、そもそも悪役令息が生まれてないんですけど?」
「え?え?……あ、セシル君?悪役ってセシル君のことなの?」
「他に誰がいるのよ。ほんとに人の話全然聞いてなかったのね」
「う、ごめん。でもあの状態のセシル君を放っておくわけにはいかなかったから」
「別にもういいわよ。私の推しは元々ルークだし。あの後主人公がセシルとくっついたのは納得がいってなかったから。私は絶対ルークが良かったから、展開を変えてやろうって思ってたしね」
「そっか。なら良かった」
「……もういい?私、これでも結構忙しいの」
「あ、王子妃教育とか?大変だね」
「それもあるけど、私のストーリーはまだ終わってないの」
「え?どういうこと?!」
「魔女が時々お城を襲撃に来てるのよ」
「……えええええ?!」
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コスモス王国王城
聖女 桃佳の部屋に面した庭
「兄上、何をなさっておいでですか?」
ルークが 桃佳の隣の部屋の窓からひょいっと顔をのぞかせた。窓の外には木剣を持った兄ハーヴェイと、セシル=ヴァン・クロックフォードが立っていた。
「見てわからないかルーク。あの渡り人二人の様子をのぞき見してるんだ」
「セシル様もですか?」
「いえ、僕は……」
「嘘つけ!セシルだって気にして見てたじゃないか」
「そんなに見ていません。そもそも剣の稽古をするって仰ったからついて来たんです!それなのに……」
「ああ、二人の話は終わったようだ。そろそろ戻ろうか」
「ああ、じゃあ僕もモカの所へ戻ろうかな。お二人の様子はどうでしたか?兄上」
「うん。内容は分からなかったが、何だか楽しそうに話していたようだ」
「モカはあまり仲良くなかったと言っていましたが、やはり元の世界の知り合い同士、積もる話もあるんでしょうね」
「そのようだ。時々は二人を会わせてやった方がいいのかもしれないな」
「ええ。そのようにしましょう、兄上」
「…………」
王子兄弟が会話する中、セシルは一人複雑そうな表情を浮かべていた。
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