またやってしまった……
来ていただいてありがとうございます!
ステラ学園での最初の授業は、先生が自分の専門分野のことを語りまくり、生徒がそれを静かに聞いているっていうスタイルだった。ほとんどがそんな感じの授業らしくて、中々面白いお話をしてくれる先生もいて私は楽しかったけど、後ろから見てると他の本を読んだり、寝てたりしてる生徒もいるみたい。
「って、あれ?桃佳は?」
「あの渡り人ならもう教室を出て行ったぞ」
放課後、教科書をしまいながらセシル君が立ち上がった。
「え?そうなのですか?桃佳に聞きたいことがあったのに……」
小学生の頃はよく一緒に本を読んだりゲームをしたりして遊んでたから、桃佳ならこの世界のことを何か知ってるかもしれないって思ったんだ。ひょっとしてひょっとすると、小説やゲームの世界に転移しちゃった、とか?もしそうなら、桃佳ならこの先に何かが起こるのか知ってるかもしれない。
「今日はルーク殿下が不在だから早々に城へ戻ったんだろうな」
そう言ってセシル君は私に手を伸ばしてきた。え?帰りも手を繋ぐの?
「ちょっと聞きたいことがあったのに」
「あまり仲良くないと聞いていたが、やはり話がしたいんだな。今から城へ行って面会を申し込もう」
「いいえ。急ぎじゃないからまた明日で大丈夫です」
桃佳には明日も学園で会えるし、お城では忙しいかもしれないから。
「それより私達って教職員棟に呼ばれてましたよね?授業が終わったら来るようにって。早く行きましょう」
教職員棟っていうのは職員室の大きいバージョンで、丸ごと学園の先生達の個室や会議室になってる建物の事だ。学園の先生はみんな個室を持ってるんだって。待遇いいよね。
「ああ。大体用向きはわかってるがリサを連れて行きたくはないな……」
セシル君が顔を曇らせた。
「何かあるのですか?」
「ああ、ちょっと癖の強い教師が多いし、王国とつながってる連中だから。それに教師の中には魔法使いもいる」
「そうなんですか」
王国と繋がってる。ステラ学園は王立の学園だから当然と言えば当然だよね。しかも魔法使いまでいるなんて……。セシル君の言葉に私もちょっと身構えた。授業が終わって帰ろうとする生徒達の流れに逆らうように、セシル君と私は校舎の奥の渡り廊下の方へ向かった。
セシル君と私は大きな円卓のある薄暗い部屋に通された。部屋の四隅にはぼうっと光る大きな水晶のような石が置いてあって、色違いのローブを着た五人のおじいちゃん先生達がずらっと立って待っていて、なんだかおかしな儀式でもやってそうな雰囲気だった。ちなみにそれぞれのおじいちゃん先生達は個性的な真っ白な髭をたくわえてて、いかにもって感じ。うん、どう見ても魔法使いです。
「ようこそ。ステラ学園へ。クロックフォード様、渡り人様」
先生達はまず最初にセシル君の魔力を鑑定した。灰色ローブのおじいちゃん先生が鑑定魔法が使える人なんだって。それからセシル君に綺麗な青い宝石のついたお守りを渡してた。このお守りはどんな魔法でも一度だけ防ぐことができるんだって。良かった。これがあればまた呪いをかけられてしまう確率が減るはずだよね。
「さて、それでは」
一斉におじいちゃん先生達が私の方を向いた。セシル君がその視線を遮るように私を背中に隠してくれた。
「彼女は僕の婚約者です。おかしなことをするつもりなら容赦はしませんよ」
「そんなことはすまいよ」
「そちらの渡り人様はかなり強い力を持っておるようだ」
「この杖に魔力を込めて欲しいだけじゃよ」
そう言われて差し出されたのは某魔法使いが使ってそうな長さの銀色に輝く杖。でも私は魔法なんて使ったことなんてないし、どうすればいいのかわからないからとりあえずその杖を振ってみたんだ。そしたら一瞬花火みたいに眩しく光ってパキンって折れちゃった……。
沈黙…………
「なんでじゃあ!これでもダメなのかぁ!」
黒いローブのおじいちゃんが頭を抱えた。
「てへっ」
笑ってごまかせたり、はしないよね……。目の前の円卓の上には無残に折れてしまった魔法の杖。またやってしまった……。でも、言い訳をさせて欲しい!今回は何かを殴ったりしたわけじゃない。本当に振っただけなんだよ。
「むむむ……わかっておったが、でもまさかこれ程とは……」
深緑のローブのおじいちゃんが腕を組んだまま唸ってる。
「貴重な杖が……」
群青色のローブのおじいちゃんは泣き出しそうな顔をしてる。わわっ、どうしよう……弁償?やっぱり弁償なの?ロッドに続いて杖まで……。どうしよう。赤いローブのおじいちゃんは楽しそうに笑ってて、灰色のローブのおじいちゃんは何だか無表情。
「リサに責任はありません。リサは先生方の仰る通りにしただけなのですから」
セシル君が呆れたようにため息をついた。
「セシル様……」
私は縋るように庇ってくれたセシル君を見てたと思う。
「責めてはおらんよ。その逆じゃ。大変喜ばしいことじゃ」
「うむ。我が鑑定でも測定しきれない魔力量を秘めておる」
赤と灰のローブのおじいちゃん先生が前に進み出た。
「じゃあ、弁償しなくてもいいんですか?」
「必要ない。我らが依頼したことだ」
「よ、良かった……」
ほっとして思わずセシル君の腕にしがみついちゃったよ。こんな異世界で借金持ちにまでなったらもうどうしていいかわからないもん。あれ?一瞬セシル君の体がビクッてふるえた?あ、重かったかもしれない!ボディーガードなのに、支えてもらってちゃダメだよね。私は慌ててセシル君の腕を離した。セシル君はしばらく私のことを見つめていたから、小さく「ごめんね」って謝っておいた。
その後は特になにをさせられるわけでもなく、普通に帰らせてもらえた。ただ、これからも私の力の事を調べたいって言われて、私も自分の事を知りたいって思ったから先生達に協力することにしたんだ。セシル君は最後まで苦い顔をしてたけどね。
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