学園編入の朝
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オッドアイは本当に不吉だと思われてるの?
それはやっかみと他の王子様を推す派閥の風評被害なんじゃないかなぁ。セシル君と第二王子様は仲が良いから。そのとばっちりとか?だってよく考えてみたら森のお屋敷に一番近い町では全然そんな感じじゃなかったから。私は目の前に広がる光景を眺めながらそんな風に思ってた。
今日はステラ学園の登校初日なんだけど、門をくぐった途端にセシル君、女の子達に囲まれちゃってるし。一緒に歩いてたら急に押しのけられてはじき出されてびっくりしちゃった。セシル君、あれから一ヶ月経ったけどまた背が伸びてカッコよくなったから仕方ないよね。うんうん。お姉ちゃんは誇らしいよ。私はどっちかというとお母さんな気持ちでしみじみしてた。
イライラしてる様子のセシル君が一度眼帯を外したんだけど、一瞬の間を置いてキャーッってすごい歓声が上がってた。綺麗だもんね。セシル君の薄紫色の左目。その後引いたような表情でセシル君は眼帯を着けなおしてた。オッドアイなのを見せれば女の子達が離れていくと思ったんだね。多少たじろいだ女の子も何人かいたけど、ほとんどの子達は気にしてないみたい。
「あまり近づかないでくれ。僕には婚約者がいる」
とうとうセシル君は女の子達を睨みつけてしまった。一瞬静まり返る女の子達、でも私をチラリと見てすぐにセシル君に向き直ってた。「呪いが解けて良かったですわ」とか「お友達になりたいです」とか「放課後お茶会にいらっしゃいませんか?」とか気にせずに話しかけてる。ちょっとそれどういう意味?!私の方が上よってことかな?ムカつくけど実際セシル君の周りにいる女の子達は私よりずっと美人で華奢で、セシル君にお似合いな感じがする。
「行こう、リサ」
焦れたように人垣をかき分けてセシル君が私の所へやって来た。
「セシル君、私のことはいいよ?一人で教室へ行けるし。せっかくみんな仲良くしてくれそうなのに勿体なくない?」
「頼むから離れないでくれ。ああいうのは嫌いなんだ。それに……おかしなことが起こらないとは限らないから」
セシル君は不安そうに周囲を見回してる。
「あ!うん。そうだね。わかった」
セシル君はまだ怖いんだ……。そうだよね。呪いは解けても魔女がいなくなった訳じゃないから。
学園内には一応最上級の防御魔法が施されてるとはいえ、『相手は魔法を極めんとする魔女。油断はできません』だったわ。これチェンバーズさんの受け売り。
「ごめんね。これからは離れないようにするから」
「ありがとう」
セシル君は安心したようにわずかに笑った。そして私の右手を救い上げ指先に軽く唇で触れ、そのまま手を繋いだ。
「っ…………」
うわぁぁぁぁっ。これ、セシル君最近時々するんだけど、私は未だに慣れなくて顔が熱くなる。顔が上げられないんですけど???やめて欲しいってお願いしたんだけど、婚約者なら当たり前って言われて聞いてもらえない。あれ?たくさんいた女の子達が散り散りに??あ、もう他の人の所に行っちゃってる。変わり身早っ。
「いやあ、朝から見せつけてくれるねぇ」
きゃいきゃいとはしゃいだような女の子達の声。歓声の塊が近づいてきてた。
「やあ!おはよう、セシル、リサ嬢!制服、とても似合ってるよ。その髪型もいいね!かわいらしい」
こちらもやはりたくさんの女の子達に囲まれたハーヴェイ殿下の登場だった。
「おはようございます、殿下」
「お、おはようございます!おほめ頂き光栄です」
セシル君にならって私も慌ててご挨拶した。それにしてもお城からの直通路で裏からそのまま校舎に入れるのに、この王子様、わざわざ表門までまわってきたの?
ちなみに今日の私の髪はアンさんとダイアナさんがサイドに編み込みを作って後ろにまとめてアイボリーのリボンを結んでくれたものだった。森のお屋敷は学園に通うのにはちょっと遠いから、お城に近いクロックフォードのお屋敷にみんなで移ってきたんだ。アンさんとダイアナさんはそのまま私についてくれるメイドさんになってくれたから、私もすごく安心できた。
「また後でねー」
王子様を取り囲む女の子達がどんどん増えていって、一塊のお団子みたいになって校舎の方へ進んで言っちゃった。もうすでに王子様の姿が頭の上の方しか見えない。
「何しにいらしたんだろう?あの王子様……」
「一応挨拶しに来てくれたんだろうな」
セシル君はまだ朝なのに疲れたようにため息をついた。あれ?落ち着いてよく見たらあっちこっちで見目麗しい男女の周りで生徒達の集団ができてる。……なんかわかったような気がする。学業はついで、イベント多し。これは……。
「学園は貴族子女同士の交流の場だけじゃなくて、集団お見合いの場所でもあるとか……?」
「その通りだ、リサ。王命だから仕方がないけど僕は正直ここへは来たくなかった。リサがいてくれて本当に良かった」
心底ホッとしたようなセシル君。そっかぁ。女の子避けの意味もあったんだ。ボディガード。でも友達もちゃんとした恋人や婚約者もいた方がいいよね。よし、じゃあ、セシル君が真実の愛を見つけるまで守ってあげよう!……あれ?ちょっと胸の辺りがちくんとした。
「セシル様、私頑張りますね」
「……何を頑張るんだ?さあ教室へ行こう」
セシル君はちょっと怪訝そうな顔をした後、私の手を引いて校舎へ急いだ。
一年生の教室は四階建ての校舎の一階。セシル君と私の教室は西の端にあった。(ハーヴェイ王子がちゃんと善処してくれて私達は同じ学年、クラスになってた)大学の講義室みたいに長い机が三列、階段状に設置されてて自由に席を選べるようになってる。秋の低い日差しが差し込んできていてとてもいい雰囲気だった。
でも、教室に入ると一瞬変な感じがした。ざわめいていた声が一瞬静まり返ったみたい。見慣れない生徒が入ってきたんだから当然なのかもしれないけど、私はちょっと不安になってしまった。ほら、転入生とか編入生といえば、先生の後について教室に入って行って、朝のホームルームの時に紹介されるのがデフォかなって思ってたから。
あ、窓際の一番後ろの席に 桃佳がいる。 桃佳が学園に編入してることは事前に聞いていたけどまさか同じクラスとは思わなかった。それにしても金髪がちょっと見慣れなくてやっぱり違和感。高校に入って明るい髪色に変わった時も思ったけどやっぱりちょっとびっくりしちゃう。 桃佳の周りには何故か女の子達がたくさん集まってる。
「もうたくさん友達ができたんだね。さすが桃佳だわ」
セシル君と私は廊下側の一番後ろの席に座った。セシル君は静かなのが好きだから私もあまりおしゃべりはしない。教科書を開いて見ていたら、大きな声の会話が耳に入ってきた。
「モカ様ってルーク様から求婚されていらっしゃるのよね?どうなさるの?ゆくゆくはモカ様が王妃様かしら。凄いですわね!」
「渡り人様で、聖女様ですもの王妃様でも当然ですわ」
「お美しいし、光の魔力もお持ちだし、本当に素敵ですわ」
「桃佳って、第三王子様に求婚されてるんですね」
「ああ、いずれは婚約、結婚に持っていくだろう。第三王子派があの渡り人を手放すはずがない」
「そうなんだ……」
セシル君の言葉を聞きながら、私の心に何か引っかかるものを感じてた。
異世界、渡り人、聖女、光の魔力……うーん、どこかで聞いたような……??よくある設定だし、どこかで読んだ小説かな?それともゲーム?と言っても私はゲームとかあまりやらないし。覚えがないなぁ。うーん、思い出せない。その日の授業の間中ずっと考えてたけど、結局思い出すことができなかった。
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