とある当主の心の日記★
12月24日byR
城下町に下りた時に、こまねずみのように働く少女を見かけた。
その少女の隣には、目を疑うばかりの美少女が居た。どうやら彼女が噂の看板娘のようだった。
しばらく観察していれば、偶然なのか必然か、その観察していた対象と視線が交わった。こちらに動揺するような理由はないが、まさか微笑みかけられるとは思っていなかった。僕の予想をはるかにこえて聡く、そして豪胆な気性なのかもしれない。
2月19日byR
何度かにわたる僕自身の観察と、詳細な調査資料に基づいて、レイチェル・ルノワを正式にサーベルト家の養女として迎えることを決定した。
3月29日byR
最近ではレイチェルの能力の高さに驚く日々を送っている。
有用な駒だとは思っていたが、それ以上に彼女の夢と僕の志はひどく似ている。彼女がどのように僕の存在を認識しているかは分からないが、最近では肉親の情に似たものさえ感じているのだ。
だからかもしれないが、レイチェルのワガママを叶えようかという気持ちになった。
下町娘を侍女にまで教育するのは、はっきり言って無駄以外の何ものでもないが、それで彼女の心の平穏が約束されるのならば仕方がない。
4月3日byR
見覚えがあると思ったら、いつぞやのこまねずみのような少女だった。
純朴で愛らしいといえるかもしれないが、如何せん貴族の侍女となるには地味な印象だ。まぁ、馬鹿ではないみたいだから、これからしっかり教育させれば良い。
びくびく脅える姿は、どうも嗜虐心がそそられていけないけどね。
* * *
6月14日byR
最近は、レイチェルも独自の交友関係を築いているようで、すでに貴族の一員としての立ち回りをこなしているといって良いだろう。ずいぶん熱狂的な取り巻きもいるようだ。
コーネリアは、相変わらずびくびくしている。
何をそんなに脅えることがあるのか、まったく。過度な警戒はさらなる危険の呼び水になるということを知らないのだろうか。あまりに落ち着かないようなら、僕が徹底的に矯正してあげようかな。
8月25日byR
今日、コニの実家から娘を返すようにという内容の手紙が来た。
どうやらレイチェルの取り巻きが、コニへ嫌がらせめいたことをしていたらしい。くだらない。
苛めたいのなら誰にも知られないようにじっくり囲い込んで、逃げ出せないようにしてからゆっくりいたぶればいいのだ。まぁ、僕の屋敷でそんなことを他の貴族にさせるつもりはないけれど。
まったく、コニも変なところで頑なだからこうなるのだ。
10月31日byR
屋敷に戻ったら、レイチェルが滅多にないほど取り乱していた。
コニが居なくなったのだ。
11月2日byR
先日のコニ失踪は、レイチェルの取り巻きの嫌がらせによる拉致監禁のせいだった。
一昼夜密室に閉じ込められたわりには、コニの様子はあまり変わらない。むしろレイチェルの憔悴の仕方が酷い。犯人には二度と日の目を見せないこともできたが、コニのたっての希望によりサーベルト家及びコニへの接触を禁止するに留めた。甘いと思う。
しかし、今回の件で分かったことが二つあった。
ひとつはレイチェルの意外な弱みであり、もうひとつはその弱みであるコニの意外な強かさである。
11月4日byR
今日は、コニの拉致監禁が実家に伝わり、さすがに手紙をつき返すだけでは済まなくなった。
しかしながら、今さらコニを手放すつもりはない。少なくとも、レイチェルが王宮で確かな立場を築き上げるまでは、コニは必要な存在なのだ。
破格ともいえる見舞金は受け取られなかったが、しばらく、コニの要求があるまでは屋敷に置いておくという約束は取り付けた。
レイチェルが居る限り、これでコニの身柄はサーベルト家に縛りつけておけるはずだ。
* * *
3月10日byR
コニが王宮に上がってから十日ほどだ。
あまり変わりはない。
ただ、侍女の淹れるお茶の味が落ちたような気がする。
5月2日byR
レイチェルから近況を報告する手紙が届いた。
恙なく生活しているようで何よりだ。まぁ、王宮で会うこともあるしレイチェルについては目新しい内容ではなかった。
だが、どうもコニの周囲がずいぶんと賑やかのようだ。
久しぶりに屋敷にも来るようだし、ここは休みでももぎ取って出迎えてあげようかな。
5月4日byR
シェリア殿下がお忍びで屋敷に来るという知らせは、すでに昨日には受け取っていた。
それにも関わらずコニの訪問日を変えさせなかったのは、殿下がどういうつもりでいるのかの確認とコニの慌てた反応を久しぶりに見たかったからで、それ以上の理由はなかった。
なのに、僕まで驚かされることになるとは。
まったく、コニもなかなかやってくれるよ。
……まさか、レイチェルとコニの恋愛関係を疑うなんてね!!
6月22日byR
どうも不愉快な噂が王宮に蔓延している。
7月17日byR
ようやく例の噂も下火になってきた。
じめじめとした雨の時期も過ぎたし、久しぶりにレイチェルの花園にでも行こうかな。
コニの紅茶も飲みたいしね。
7月28日byR
そういえば、王宮でコニと会うのは初めてだった。
意外としっくり馴染んでいて、コニの適応力を垣間見た気がする。まぁ、お仕着せは侍女のドレスよりもコニにとっては馴染みやすいものなのかもしれないが。
というか、お仕着せで現れるなんて、もうレイチェルに働いてる場所が知られても良いと思っているのか。もしかしたら僕が侍女じゃないってレイチェルに教えたと思ってるのかもしれないけれど。
まぁ、本気で隠すつもりでもないんだろう。
言わない、という体裁を重視しているように僕には見える。
コニのこういう無駄なあがきめいた行動を、僕は無駄だとは思っても止めはしない。なにしろ、コニはまだこっちで生きていく覚悟などないのだ。そんな覚悟をしないですませられるなら、それに越したこともないだろう。
僕は、これでもコニを大切にしたいと思ってる。
コニを幸せにするのが自分でなくても構わないと思えるくらいには、僕は大人だしね。
ただ…殿下やらユネ家やらに差し出すほど、甘くもない。
* * *
続く?
出会い~秘密の花園でのお茶会あたりまで。