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何が天才を殺したか?

連続投稿ですが、後になるほど古いものです。

上から順に掲載していってます

 本気を出せない人間というのは一定数いる。


まだ本気を出していない、だから成果が出ないのも当然である。成果が出た? それなら自分に才能があるのだろう。少し頑張ってみるか。少しだけ、少しだけだ。だって自分には才能があるんだから。


そんな調子のいいことを言って生きている人種だ。

人は人であるが故に人にできることならば大抵できる。運も絡む。決して低くない確率の中で偶然上手くいけばそして俺たちはそれを才能だと錯覚する。

故に、それ以上の事を成そうと思わない。思えない。それが運から来たものなのだと本心ではわかっているから。

だから俺たちはいつまで経っても前に進めない。


「僕にとっての執筆はさ、サイコロを振るようなものなんだ。それでたぶんそれは4.5.6だけ出るようになってる。だから適当にサイコロを振り続けてればそのうちすごろくでゴールに辿り着くみたいに作品は完成するんだ」


俗に天才と呼ばれる作家の彼は、そんなことを言った。


「多分だけどさ、僕と君とでは生まれ持ったサイコロの出目が違うだけなんだよ。でもさ、きっと最後に辿り着く場所は一緒なんじゃないかな」


俺とお前とでは見えてる景色がまず違う。少し洒落た言い回しにはなるけどさ……、俺はものを書く時は暗い世界に火を灯してく感じで作ってる。少なくとも俺の執筆は一方通行じゃないしゴールは見えてない。


そんなことを多分あの時は言った。その考えは今でも変わっていない。


「そっか。でも似たようなものではあるんじゃないかな」


……これだから天才は。


目の前にいる天才、仮に名前をAとしよう。彼は本物の天才だ。スポーツはからっしきではあるものの成績は優秀で有名私大の文学部なんて洒落た所に進学した上で、初めて書いた小説で賞まで取りやがった気の狂ったやつ。なのにAは自分のことを凡人だと言い続ける。


「運が良かっただけだよ。全てにおいてさ」


そしてこれがAの口癖。家族や友人、そして天運に恵まれたから自分はこうなれたとのこと。正直、聞いてて鳥肌どころか鮫肌が出そうになる言葉だ。


正直、それが運だとしても明確な才能だと思う。むしろ運なんていう正しく天から与えられたものの才能があるから天才なんじゃないかって。


 大概の人間は皆、いつか『何者かになりたい』なんて常日頃から考えている。


だってそうだろう。自分達には本当は才能があるのだと年甲斐もなく信じているのだから。何者かになれると本心では思っているから。何かがあるのだと、本気になれるものがあるのだと思っていたいのだから。冷笑した態度を取りながらも才能とは本気を出せることに出会ってそれと向き合えることだとどこか心の中では信じているのだから。スタートラインの差は少し違うかもしれないけど、結局は誰でも十分捲れる圏内にあってどうとにでもなるのだと思っていたいから。そして、そこで最上位に及ばずとも少しは優位に立っているのだと信じていたいのだから。自分もテレビや雑誌に映るような、何かを成して一つのイメージで固定化されたようなキャラクターになりたいんだから。


だから、本物の才能を直視できない。したくない。人は空を歩けない。


同じタンパク質の塊なのに俺には何が足りてないんだよ。


「君も努力はしてるらしいし、じゃああとは運なんじゃないかな。そうとしか言えないよ」


 努力というのは甘い言葉だ。どうやら人は同じ物事を続ければ結果が出せるらしい。


だって結局は限りなく一致した遺伝情報を持った連中だ。他の奴らにできてることは多分大抵できてしまう。それ以外をなおざりにすれば、という枕詞はつくけども。でも俺たちは弱いからなぁなぁで済ませようとする。他の沢山のことを捨てたくないから才能なんて便利な言葉でズルをしようとする。結局何も捨てることができないから何も成せない。


 人に底を見せたくない。自分がそれを見たくない。本当の自分なんて知りたくない。


だから自分というグラスの上に泥水をぶちまける。中はワインだったかもしれないけど今はただの泥水なんだと周囲に語る、そしてグラスを割ないようにとテープでぐるぐる巻きにして形まで見えなくして、自分を納得させる。そのくせそれを混ぜようともしないので未だに奥底に何かがあるのだと心の中では期待をしている。横から中身も、底の深さも、形も、何もかも見られたくないから。ぐるぐる巻きにして自分が割れないように隠し続ける。


だから俺たちは嘘つきになる。頼むから死んでくれよ。


俺は努力なんて本当にできているのか?


「してるんじゃないかな。少なくとも僕よりはしているさ」


きっとそれはAの本心からの言葉だった。


数ヶ月の後、Aは人気絶頂の中で首を吊って死んだ。


最後に彼が開いていたPCに残されていた文字列には、『わts』と書いてあったようだ。


ある人間は、Aが死んだ理由を「人生が順風満帆すぎたから」だと彼の最新作から引用して推察した。ある人間は「期待から来る重圧に耐えきれなくなったのでは」と語った。


俺が思うに、それは多分違う。Aはサイコロで1を出したんだろう。


きっと本物の天才にも苦悩はあると思う。だって才能がいつ尽きるのか分からないだろうから。


できるってことはできるってことだ。できてしまうのだ。そこにきっと感動はなくて、故に苦しい。どうすればできるのかはわかるのだろうけど、いつできなくなるのかはきっとわからない。


よく努力する天才なんて言葉があるけどアレは嘘だ。本物に努力なんて必要ない。努力が要るならただの秀才だ。天才よりもずっと素晴らしいものだ。


本物は何故それができるのかが分からない。俺らが意識せずに呼吸ができるように奴らは意識せずに物事を成せる。だから意識する方法が分からない。だから意識しなければいけない時が来ることを恐れる。その時に天才は死んでしまうから。


1の目なんてサイコロを振る限り出る可能性は0じゃないんだ。でも、きっとAはそれが恐ろしくなってしまったんだろう。


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