小さな僕の大冒険
お父さんは何かを隠している。僕にはわかる。
きっと、何か悪いことをしようとしているに違いない。
今日は12月18日、さむいさむい水曜日、プレゼントを貰えるクリスマスまであと少し。サンタさんへのおねがいもバッチリしてある。今年のお願いは自転車だ。サンタさん早く来ないかなぁ。って、そうじゃない。お父さんが悪いことをしようとしているんだ!
いつもならお父さんはお休みの水曜日はお家でゴロゴロしている。お母さんはだらしないからああはならないようにね、なんて言っているけど、学校から帰ったら一緒に遊べるから、水曜日は一週間の中でも一番好きな日だ。
だけど、今日は家にお父さんが居ない。だって、さっき出ていってしまったから。
仕事の時よりもずっと綺麗なスーツを着て、背筋もしゃんして、大きな手で僕の頭を撫でてから、駅の方まで歩いていった。
あやしい。もしかすると何か悪いことを企んでいるのかもしれない。だって、この前観た映画で悪者がああいう服を着ていたし。
お気に入りの貯金箱の底を開けて、出てくるのは500円玉。金メダルみたいにキラキラしているお気に入り。それをポケットに入れて、マスクとニットを被って準備完了、よーいどんで家を飛び出す。
バレないように慎重に、こそこそと隠れながらとことこと足跡を追う。気分はアニメで見た警察官、わくわくが止まらない。
かじかむ指をポケットに入れて、親指と人差し指で500円玉があることを確認し続けながら、後ろをついていく。お父さんはずっと携帯を弄っているから振り向いたりもしてこない。前を向いて歩きなさいって言うのに自分はそうしないんだから本当にずるいと思う。
カツカツと響くお父さんの革靴の音、駅に近づくにつれ、それがどんどん他の足音で塗りつぶされていく。大人はみんな早歩きだから、置いていかれないように、流されないように必死に早歩きをしなくちゃいけない。
お父さんは駅に吸い込まれるように入っていく。どこへ行くのかわからないけど、とりあえず500円で買える一番高い切符を買ってみる。
さよなら、金メダル。お前のゆーしは忘れない。
満員電車は人がいっぱい。ガタンゴトンと音が響いて、ユラユラと周りの人も揺れている。携帯を見ている大人達がこちらを見ているようで少し怖い。
お父さんが降りたのは四つ隣の駅で乗り換えて二つ先の駅、隣の区の行ったことのない場所。お父さんは慣れた様子で歩きながら、耳にイヤホンを付けて誰かと電話している。
歩いて歩いて、商店街について、そこでお父さんはケーキ屋さんに入る。丸太みたいなケーキやサンタさんの飾りがついたケーキが並んでいる。色とりどりで、美味しそう。広いお店だったから、こっそりと忍び込む。
「いらっしゃいませ〜 クリスマスケーキのご相談でしょうか?」
店員さんがお父さんに話しかける。にっこり笑顔。でも少し顔色が悪いし目が怖い。
「いや、誕生日ケーキを買いたくて。バースデープレート付きのやつ。ろうそくも4本頂けますか?」
「なるほど……、用意に少々お時間いただきます。プレートには何と書かれますか?」
「『シュウヤ、1歳の誕生日おめでとう』でお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
お父さんはなんで誕生日ケーキなんて買ってるんだろう。変なの。
僕の誕生日は11月の4日だし、僕の名前はアキラなのに。
お父さんがスマホをおっことす。跳ねてこちらに飛んでくる。
画面に写った写真、お父さんと知らない女の人と赤ちゃん。
この人たちはだぁれ? 見上げると、お父さんが変な顔でこっちを見ていた。




