青
雲海に赤い血が飛び散って、白を染めることも無く落ちる。
竜が、彼らが飛ぶ空のように青い竜が、赤と白に囲まれてゆっくりと、苦しみながら、落ちていく。
これがオレたちの仕事。穹艇に乗り、狩った青竜から器臓を抜き取って都市に高値で売る。それだけの、生きるための仕事。
◇
青竜、高空に生息する巨大な体躯を有する竜の一種。
手も、弓でさえも届かぬ場所を支配するが故に、人は彼らを畏れ敬うべきものとして扱い、敷衍された信仰により、青竜は神の使いとして扱われるようになった。
オレの民族もその類だったと祖母に聞いたことがある。崇め敬い奉り頭を垂れ、生贄を立て、見つからぬように逃げて暮らしていたらしい。
その青竜との関係が少し変わったのがおよそ千年前。原初の魔女と呼ばれる存在が魔法を世に広め、奴らは世界を余すところなく拓こうとする人類に対する敵となった。
ただ、青竜は強かった。
当然の話だ。たとえ人が理外の力を学び行使できようとも、生物としての規格が違う。まして、相手もまた理外の力を行使できるのならば、結果は火を見るよりも明らかだった。
500年前の第一次、400年前の第二次クラウゼリド対竜戦。二度の大敗により当時の人類は空を不可侵の領域とした。
同族との争いに敗れ堕ちてきた傷だらけの青竜ですら英雄が命を賭す必要があったのだから、彼らは本当に強い生き物だったのだろう。
そう、強い生き物だった。
100年前、穹艇が発明され、人は彼らと同じ土俵、同じかそれ以上の体躯で戦えるようになった。人は、青竜を簡単に殺せるようになった。
その頃には人間は世界を拓き終わっていて、彼らと戦う必要が無くなっていて。相互の不可侵は継続していた。
その関係が崩れたのが10年前のこと。
生物の体内にある大気の中の魔素を体内に取り込む臓器、器臓を利用した魔力機関が発明され、世界は一変した。
人間のものを使うのは倫理に反すると様々な生物のものが試され、最終的に選ばれたのは、青竜の器臓だった。
◇
「……なんつーか、もったいねーよな。これ」
「何がだ? ジャミィ」
艇の上で他の乗組員と昼食の干し肉を齧りながら過去に思いを馳せていると、ふと、思わず声が出た。
「いやさ、器臓だけ抜いて残りは全部地面に落とすやり方のこと。昔は狩った青竜は爪の先まで全部使ったって言うじゃねぇか。装飾品にされてたのをどっかの博物館で見た記憶がある」
確かマントに縫い付けられていたんだったか。子供の頃に見たそれがあまりにも美しい青だったことを今でも覚えている。
「別に持って帰れるなら持って帰りたいさ。だがアイツらの身体はデカすぎる。それを全部艇に積むなら大量に狩って同じ重さの器臓を船に乗せた方がよっぽど金になる」
「そりゃ、そうなんだけどさ。なんつーか……」
言葉に詰まる。モヤモヤする。この感情は何なのだろうか。
「わけわっかんねぇの。……それより新しい空域に入るぞ。前までいた辺りの青竜は狩り尽くしちまったからな。今回の航穹での目標は10匹らしいがもっと狩ってボーナスを貰うとしようぜ」
「あぁ、そうだな。狩って美味い飯を食って故郷の家族を養わなきゃな」
生きるために、狩っているだけなのだ。そこに何の感情も、きっと必要は無い。




