三章3〜“女の子はめんどくさい”
翌日からは本格的に学生生活が始まった。
朝起きてまずは顔を洗う。
背中まである長い髪を整えて一つにくくる、所謂ポニーテールだ。
この髪型の理由は一つ、クリスと同じ髪型なのだ。
これが一番落ち着く…、男だか女だかわかりにくいってのは自分でも思うが、そもそも長い髪の男も珍しくないのだ…特にエルフとか!それに俺も日本人的な顔ではなくやはり西洋風でこんな髪色が似合う顔立ち、ついでに言えば美人なクリスの血が半分あるからそこそこイケメンな気がしなくもない!レイスに比べればそんな事ないが…。
そんな理由でこの髪型だが、毎朝それなり用意しないといけないのでこれはこれで大変である。
今までは走ったりなんなりとトレーニングをしていたから早起きは自然と出来るので苦はない。
ただトレーニングスペースの問題でとりあえず本日はお休みである。
制服のローブを羽織る。
胸元が空いたインナーで着崩したりと、やはりインナーでオシャレ感を出すのだろうか?
まぁ肩が出てるとかいう変なやつもいるが…そもそもあんなのが売ってる店があるんだな。
ローブの中身はシャツにネクタイなんてのが俺のイメージだったりするが、そこは自由だったりするらしい。
テキトーな黒のインナーの俺は変じゃないだろうか?
そんなことを気にしながら待ち合わせ場所に行くとミシェイルがいた。
「おはよう!」
「おはようございます、早いですね」
「早く目が覚めてしまってな!」
ミシェイルの様子を見ると前世の妹を思い出す。
遠足だったり休みの日に出掛けるとなると、いつも中々起きない癖にこんな時だけ早く起きてくる。
まぁミシェイルは普段も寝起きは悪くないがね、俺はどっちかって言うと楽しみで前日眠れなくて当日に損するタイプだったが…。
こういうところはやはり童心というのだろうか?俺やレイスにはあまり感じられない純粋さは見てて微笑ましい。
服装的にもミシェイルも特に変わったところはない、インナーに何かポイントがあるわけでもなく、ただ真面目に着ているといったところだろう。
「今日からお互いに同じ立場の学生としての生活が始まるな!」
「そうですね、魔法も教われることですから有意義な…どうかしました?」
ミシェイルの言葉に真面目に返していると、不満そうな目で俺をじっと睨んでくる。
「…私の名は?」
「……?、ミシェイル・バルメ……!!イオルエスでしたね、すいません!」
ミシェイルの父から渡された手紙には、滅亡後はバルメリアの名を名乗らず生きるようにと書かれていた。
バルメリアというのは王族の名、滅亡したとはいえどんな面倒があるかわからないので、渋るミシェイルを俺とアルフリードで説得したのだ。
ミシェイルの視線が俺に向けられている、それは名前を間違えたことに対してには見えない。
「あの…何か悪い事…しましたかね?」
「…今日から私とお前は同じ立場だ」
人は無意識に他人の怒りの地雷を踏み抜く事がある、それは知らず知らずに触れて欲しくない部分に触れてしまったり…予測出来ないタイミングだったりする。
そんな不安を抱えながら聞いてみたが、望むような明確な答えは返ってこない。
確かに俺とミシェイルは今日から同じ学生、年齢こそ1歳違うが、この世界は前世の…特に日本より遥かに年齢が上だからあーだこーだという事は無さそうなので、本当に同じ立場の学生になるのではないだろうか?
とはいえミシェイルは今もこれからも大切な仲間である事に変わりはないのだが…。
「…ミシェイル様?」
「ちがーう!!!」
沈黙に耐えられなかった俺がつい呼びかけると、大声で否定するミシェイル。
違う?何が?
混乱する俺の思考を他所に、ミシェイルは俺を睨みつけてくる。
「同じ立場だ、そんな相手に“様”なんてつけるのか?レイス様と呼ぶのか?」
「………」
ミシェイルが怒っている理由が理解できた。
確かに対等な…同じ立場の仲間だというならば“ミシェイル様”なんて呼び方はおかしいのかもしれない。
大切な仲間だとか思いながら、対等な立場には見ていなかったと…、そういう事なのだろうか?
もし王族という肩書きに…ってことならレイス様と、考えただけでなんか違う、違和感があるし気持ち悪い気もする。
ミシェイルからすれば同じ王族の立場であるレイスとは親しげに接しているのに比べて、壁があるように感じたのかもしれない。
いつからそんな風に思っていたのかはわからないがずっとそんな疎外感を感じていたのだろう。
これは悪い事をした。
「…すいません」
「…お前の気持ちはわかっているつもりだ、だが私はミシェイル・バルメリアではない…ミシェイル・イオルエスだ!お前の祖国の王女ではなく1人の女生徒なのだ」
自覚はなかった、俺はミシェイルの言葉通り祖国の王女として扱っていた。
それはアストラルの名を背負う者として、そうすべきなのだと思っていた。
それは決して間違いではなかった、だから今まで何も言わなかったのだろう、でもミシェイルは今はそれを望んでいないのだ。
俺はどうすればいいのだろうか……。
「真面目なお前のことだ、アストラル家としての立場などもあるのかもしれないが、私がイオルエスと名乗っている間は対等に接して欲しい…、そしていつかまた、バルメリアと名乗った時はアストラル家として私に仕えろ!」
この子はエスパーなのだろうか?それとも俺の思考が単純なのだろうか?
どちらにしろミシェイルの言葉は、俺を説き伏せて従わせるには十分だと言える。
「フッ……ハハ…」
「むっ!何がおかしいのだ!」
「いや…、わかりまし…わかったよミシェイル!」
何故か少し笑ってしまった。
そんな俺に不満そうな目を向けるが、続けた言葉に満足そうに頷いた。
どちらにしろミシェイルの身分を隠すためには、今までのような接し方よりはこの方がいいのも間違いないだろう。
それでも俺は忘れてはならないことがある。
ドレイクに言われたのだ、いつか俺が仕える相手を。
そしてあの日の炎に誓った事を忘れるな。
そう言い聞かせた。
まぁもっと早くわかりやすく言ってくれよと思うけどね!
女の子ってのはめんどくさい!




