三章2〜“エルフとの再会”
突然だった。
子供の頃から剣術だけではなく素手での…所謂徒手空拳の修行もそれなりにしてきた。
いつでも何処でも武器が必ずあるわけではなく、剣があってもそれを使えるスペースがあるとは限らない、故に必要に迫られれば素手でも戦えるように。
クリスはそう言って俺とエイルーナを鍛えてくれた。
人の形をした猛獣のようなエイルーナは、前世でも少し格闘技をかじっていた俺を嘲笑うようなセンスというか本能というか……、とりあえず強かった。
事件以降もミシェイルやレイスだけではなく、アルフリードにも徒手空拳の相手をしてもらった。
自分で言うのもなんだが、この男のパンチに反応出来ていた…というか、かつてのエイルーナの方がよほどキレのあるパンチを繰り出していたのではないだろうか?酔っ払いのパンチなんてそもそも比べるべきではないのだろうが…。
まぁそんな事はともかく、パンチがくると理解した時に意思より先に体が…手がローブの中の剣を抜こうとしていた…それに意思が追いついた時にそれを止めたと同時に、自分の反射的な動きに驚いた。
何故こんな事で剣に手をかけてしまったのだろうか?
そんな事に驚いている間に殴られていた。
酔っ払いとはいえ、冒険者としてガッチリとした体格の若者であり、酔いもあって上手く拳に体重が乗っていた。
俺は軽く吹っ飛ばされてしまった。
「新人虐めはやめてあげなよぉ」
「クリーンヒットー!!」
「……」
全員酒が入っているのだろうか?
何か統一性の感じられない言葉が飛んでくる。
そのグループの中で、ナイスバディの獣族の女性と目が合った気がした。
それにしてもこんなに普通に殴られるとは思わなかった。
当然だが殴られれば痛い、殴り飛ばされるくらいの威力はあるしあまりに無防備に受けたから、腫れるかもしれない。
とはいえ訓練だので殴られたりなんなりと、少なくとも多少の痛みに関しては小さい頃から慣れたものだ。
だからなんだと言われればそれまだだが、カチンときていてもまだ理性を保てるくらいだということだ。
「何やってんのさぁ…」
そう言って聞き慣れたような、少しだけ懐かしい声が聞こえてくる。
前を止めずに着崩したローブに何故か露出している肩や腹、ダンスやってる女の子が好んで着てそうな服をインナーにしている…個人的には気持ち悪いと思わなくもないが、それを許されるような容姿をしている。
真っ白な肌にさらっと細い手足、エルフ特有のとんがった耳の一際美少年…レイスである。
「…見ればわかるだろ?」
「ちょっと会わない間にそんな趣味に目覚めたの?」
そんな軽口を叩き合う。
少し苛ついていた俺の心境は、レイスの登場で少し落ち着いた気がする。
「なんだぁ?仲間か?」
そんな事は酔っ払いには無関係である。
そのままレイスに歩み寄って行こうとするので、流石に俺もすぐに立ち上がる。
「やめなさいローレン!!」
ナイスバディな獣族の女が、レイスに歩み寄る男に制止をかける。
ウェーブのかかった長い茶髪に、頭の上に恐らく犬耳であろう耳がある、俺の個人的なイメージだと犬耳のついた夜のお姉様って感じの雰囲気だ!
レイス同様着崩したローブに、全体的に布の面積が狭く露出した肌、ボンキュボンって感じなので自然と胸や足に視線を奪われそうになる。
そんな彼女の制止の一声で、ローレンと呼ばれる男は足を止めて威嚇するように俺とレイスを見る。
その様子から見るに、恐らくあの女がグループのリーダーなのだろう…多分。
「行くわよ!」
そんな彼女の言葉に全員ゾロゾロと後を追うように歩き始めた。
「ねぇ!君どっかで会った事ない?」
レイスは去ろうとする彼女に声をかける。
「……ナンパ?悪いけどタイプじゃないのよ」
一瞬足を止めてこちらを鋭い目を向けてから、そう答えるとそのまま立ち去って行った。
「確かに美人だったけど…このタイミング?」
なんか昔見たナンパ術なんかで、そんな言い回しがあった気がする。
まぁもっともそれが活かされることはなかったし、この世界においては全く関係ないことでもある……逆なこの世界でのナンパの定番なのかもしれないけど…。
「いや、なーんか見た事あるんだよねぇ…思い出せないんだけど……まぁいっか」
茶化したつもりだったが、実は真面目な方だったらしい。空気が読めてないな俺。
「まぁ、とりあえず久しぶり、背伸びたね」
「久しぶり!レイスはあんまりか?」
レイスとはアレクシスに来て以来なので、1年ぶりと言えるだろう。
レイスは王子なのですぐに王宮へ、俺たちは入学の準備なりなんなりとしていた。
つい1年前までは俺とそんなに変わらないくらいだったが、今はレイスの方が低い!つまり俺の身長が伸びたのだ、成長期ってすごい!
入学だのなんだのを見ているとレイスは小柄で、俺は平均といったところだろうか?
「にしても何があったのさ?」
「…何もしてねぇよ」
俺は自分の頬に触れる。
唇は切れてて少し熱を感じる…腫れてくるなこりゃ……。
「まぁミシェイルちゃんに治してもらえばいいんじゃない?」
「んー…まぁそうするよ」
俺はレイスの言葉でこの後のことを思い出し、レイスを連れてそのまま男子寮に向かった。
✴︎✴︎✴︎
レイスもどうやら同じ学生寮の特待生として入寮なんだとか……、王子がそれで良いのかと思うところもあったが、レイス本人の希望と、そもそもずっと行方不明になってたくらいなんだから今更だとかなんとか言いくるめてきたらしい。それで良いのか……。
長命なエルフで、元気なザスティンがいて優秀な長男がいるから、もしかしたらそんなものなのかもしれない…、エルフの…というか異世界の価値観とやらは未だによく分からん。
「レイス!!久しぶりだな!!」
俺達は荷物などを部屋に置いて、待ち合わせをしていたミシェイルと合流した。
「久しぶりだねぇ!俺が恋しかった?特別に抱きついて来てもいいよ?」
「レオ、怪我しているのか?」
両手を広げて受け入れるようなポーズで固まって、完全にスルーされているレイス、なんか非常に可哀想に見えてくる。
スルーしたミシェイルは、即座に魔法…ではなくスキルを使用しつつ俺の頬に手を当てる。
身長はレイスと同じくらい故に仕方ないが、心配そうな顔で上目遣いで見上げてくるミシェイル、そんな美少女に最近なんかドキドキする気がする。
「…ありがとうございます」
「気にするな!だがどうした?レイスに殴られたのか?」
「じゃあ俺も怪我してると思わない?」
レイスの言う通りだ、もし殴って来たのがレイスならちゃんと殴り返してやる!
「少し揉め事に巻き込まれまして…」
「殴られてたねぇ」
「…お前いつから見てたの?」
「何見たんだコラァ?ってとこ?」
性格悪いな…コイツ…。
多分だが、あいつらはレイスを王子だと知って引いたのだ。
実際行方不明の王子が発見!そして帰国ってのは結構噂になってたし、コイツは容姿にしてもこの言動にしても良くも悪くも何かと目立つ。
そしてレイスは昔から片耳に金のピアスをしている、それは精霊の紋章が刻まれており、そして記憶が正しければザスティンもシグナスも同じような物を付けていた…つまりアレは王家の証明品の可能性もあるのではないかと思う。
実際は聞いてないからわからないが……。
「やり返しに行くか?」
「……いえ、大丈夫です」
何故かやる気満々な闘志溢れる瞳を向けるミシェイルの言葉に首を振って否定しておいた。
レイスがいると空気が柔らかくなる気がする。
それが必ずいいとは限らないが、個人的にはこんな空気の方が居心地がいい。
こんな事言うとミシェイルには申し訳ない気もするが……。
「何笑ってるのさ?殴られて可笑しくなった?」
「…なってねぇよ」
更新が遅くて申し訳ない。
こんな自己満足の駄文を読んで評価やブックマークをして下さる方には感謝しております。
お身体にはくれぐれもお気をつけ下さい。
暇潰し程度にでも楽しんで頂けると幸いです。




