表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖イリヤ未来総合学院物語  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

7

聖イリヤ未来総合学院。


西暦2304年冬。


かつて“地方のちょっと広い私立校”だったその学園は、今や世界中の超富裕層が群がる怪物教育都市へと変貌していた。


だが。


学園長アレクセイ・グロモフには、ひとつだけ明確な信念があった。


――格など知らん。


である。


そんなものより。


現金。


維持費。


設備費。


暖房費。


警備費。


人件費。


そちらの方が遥かに重要だった。


そして今日。


学園長室には、西欧旧貴族たちが勢揃いしていた。


空気だけは立派である。


古い家紋。


勲章。


杖。


格式張った服装。


まるで歴史博物館だった。


「学園長」


老貴族が静かに言った。


「我々は非常に不快だ」


「はぁ」


学園長は笑顔だった。


営業スマイル。


完璧。


だが心は完全に無である。


「近頃、この学園は成金趣味に走りすぎている」


「なるほど」


「宇宙船寮?」


「はい」


「巨大滑り台?」


「はい」


「恐竜部屋?」


「はい」


「秘密基地?」


「はい」


「巨大鍋?」


「はい」


「品位がない」


学園長はニコニコしていた。


(でも子供めちゃくちゃ喜んでるんだよなぁ)


と思っていた。


老貴族は続ける。


「我々のような真の名家が入学することで、この学園の格は完成する」


「なるほど」


「よって、授業料免除」


「……」


「寄付金も不要」


「……」


「むしろこちらが協力してやる立場だ」


沈黙。


学園長はゆっくり頷いた。


そして。


満面の笑みを浮かべた。


「お帰りください」


空気が止まった。


老貴族が固まる。


「……は?」


「お帰りくださいませ」


笑顔。


完璧な笑顔。


だが目が完全に冷えていた。


「我々はヴァルデンベルク家だぞ?」


「存じております」


「七百年続く――」


「ええ」


「ならば」


「ですが」


学園長は書類をめくった。


「維持費は払ってくれませんよね?」


「……」


「暖房費も」


「……」


「警備費も」


「……」


「恐竜維持費も」


「恐竜維持費とは何だ!?」


「恐竜部屋の管理費です」


真顔だった。


老貴族は絶句した。


学園長は淡々と続ける。


「宇宙船寮は電気代が非常に高いのです」


「……」


「秘密基地地下設備も維持費がかかります」


「……」


「あと巨大滑り台の補修費」


「そんなもの撤去しろ!」


「人気施設です」


即答だった。


しかも。


この学園。


実は運営効率が異常に良かった。


理由は単純。


ロシア地方圏なので土地代が安い。


さらに。


周辺一帯をレイ・グループが爆買い済み。


インフラもほぼ自前。


人件費も旧西欧圏より遥かに安い。


なのに。


学費は超富豪仕様。


つまり。


めちゃくちゃ儲かる。


学園長は今、人生で一番機嫌が良かった。


なにせ。


「教育者として理想の学校を作りたい」


とかではない。


普通に黒字が凄い。


それが嬉しかった。


しかも。


寄付金まで飛んでくる。


中東王族。


宇宙資源財閥。


アジア系巨大企業。


皆、札束で殴ってくる。


「うち専用ラウンジ作りたい」


「どうぞ」


「鷹匠施設拡張したい」


「ぜひ」


「専用馬場も」


「もちろん」


早い。


話が非常に早い。


だが。


西欧旧貴族層は違った。


金は出さない。


だが待遇は求める。


学園長はニコニコしていた。


「“格”で設備維持はできませんので」


老貴族が怒った。


「我々を追い返すつもりか!?」


「はい」


即答だった。


「この学園は貴族教育の伝統を――」


「うちは秘密基地ありますので」


「……」


「あと巨大鍋」


「鍋を誇るな」


「人気なんですよ」


本当に人気だった。


老貴族たちは顔を真っ赤にした。


「こんな成金趣味の学校など!」


「では」


学園長は微笑んだ。


「中東連合王族の方々をご案内しますので」


背後のドアが開く。


そこには。


超高級民族衣装に身を包んだ王族一行。


護衛。


秘書。


教育顧問。


そして。


桁違いの資金力。


老貴族たちは黙った。


王族側は穏やかだった。


「新しい寄付の件ですが」


学園長の笑顔がさらに輝く。


「ありがとうございます」


「追加で五百億ほど」


「ありがとうございます」


早い。


恐ろしく早い。


老貴族たちは敗北を悟った。


時代が違う。


もはや。


“名前だけ”では勝てない。


そして何より。


この学園。


別に“伝統校ごっこ”をする気が一切なかった。


宇宙船。


恐竜。


海賊船。


騎馬弓術。


秘密基地。


巨大鍋。


どう考えても狂っている。


だが。


子供たちは熱狂する。


親たちも満足する。


利益も出る。


なら十分だった。


老貴族たちは去っていった。


学園長は窓の外を見た。


巨大宇宙船寮。


雪景色。


遠くでは。


「のだぁあああ!!」


レイがソリ遊びしていた。


愛人たち。


赤ん坊たち。


護衛。


乳母。


全員巻き込まれていた。


しかも。


「校庭に巨大氷迷路作るのだぁ♡」


とか叫んでいる。


学園長は静かに紅茶を飲んだ。


「……まあ」


秘書が言う。


「格は下がりましたか?」


学園長は少し考えた。


そして。


遠くで雪に突っ込んで転がるレイを見ながら言った。


「いや」


少し笑った。


「むしろ上がってますね」


なぜなら。


世界中の金持ちが今、一番入りたがっている学校だからである。


それが現実だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ