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聖イリヤ未来総合学院物語  作者: 雪だるま


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6 格と金

西暦2304年。


聖イリヤ未来総合学院。


もはや「学園」と呼ぶには規模も雰囲気もおかしかった。


超高級寄宿教育都市。


富豪専用文化複合体。


未来型テーマパーク。


教育特区。


世界中のメディアが好き勝手な呼び名を付けていた。


そして今。


学園長室では静かな戦争が行われていた。


原因は単純。


入学希望者が増えすぎたのである。


しかも。


ただの富裕層ではない。


王族。


旧貴族。


巨大財閥。


宇宙資源王。


エネルギー王家。


中東王族。


欧州旧名門。


とにかく「金と家柄の塊」みたいな連中ばかりだった。


そして当然。


問題も発生した。


「我々はヴァルデンベルク家だ」


西欧貴族代表らしき白髪の老人が静かに言った。


服装は完璧。


態度も堂々。


背後には護衛。


いかにも“古い名門”という雰囲気である。


「七百年続く家系だ」


「はぁ……」


学園長は営業用笑顔を浮かべた。


「我々の子息を入学させたい」


「ありがとうございます」


「当然、特別待遇はあるのだろうな?」


「……と言いますと?」


老人は当然のように言った。


「寄付金の免除だ」


沈黙。


学園長の笑顔が一ミリも崩れない。


だが目だけ死んでいた。


老人は続ける。


「我々ほどの名家が入学することで、学園の格も上がる」


「なるほど」


「授業料も象徴的な額でよい」


「ほう」


「我々の存在自体が価値だからな」


学園長は微笑んだ。


完璧な笑顔だった。


だが内心では。


(お前ら最近ずっと土地売って生活してるだろ)


と思っていた。


なぜなら。


今の時代。


“家柄だけ”の旧貴族は普通に弱い。


もちろん文化的価値はある。


コネもある。


だが。


現金流動性では中東資源王家や新興宇宙財閥に勝てない。


そして。


現在の聖イリヤ未来総合学院は。


完全に“金がかかる学校”だった。


宇宙船寮。


秘密基地。


騎馬弓術。


恐竜棟。


巨大滑り台。


空中アスレチック。


維持費が狂っている。


一方その頃。


別室。


学園長は満面の笑みだった。


「ようこそお越しくださいました」


中東連合王族一行である。


護衛。


使用人。


文化顧問。


教育顧問。


料理人。


規模が小国レベル。


そして。


王族側代表は非常に穏やかだった。


「噂以上に素晴らしい学園ですな」


「ありがとうございます」


「特に騎馬弓術エリアが良い」


「お褒めいただき光栄です」


「我々の文化とも相性が良い」


学園長はニコニコしていた。


なぜなら。


彼らは話が早い。


非常に早い。


「ところで」


王族側が静かに言った。


「寄付の件ですが」


学園長の笑顔がさらに深くなった。


「はい」


「まず第一段階として三百億クレジットほど」


「ありがとうございます」


即答だった。


一切遠慮しない。


王族側も慣れていた。


「また、砂漠文化研究棟の建設も支援したい」


「素晴らしいですね」


「鷹匠訓練施設も」


「ぜひ」


「あとラクダ競技場も」


「……ラクダ」


学園長は少し止まった。


だが。


脳内で維持費計算を始める。


そして。


(いける)


と判断した。


「非常に教育的ですね」


「ですよね」


「ええ」


もう誰も教育の意味を説明しなくなっていた。


だが。


金は流れ込む。


それが重要だった。


しかも。


中東王族たちは現実的だった。


「当然、最高待遇を希望する」


「もちろんです」


「寄付額に応じた設備拡張も希望したい」


「対応可能です」


「我々専用の居住棟も」


「承知しました」


早い。


とにかく話が早い。


一方。


廊下では。


西洋旧貴族たちが不満げだった。


「金ばかりではない」


「品位が重要だ」


「伝統ある血統こそ価値だ」


しかし。


その横を。


中東王族の随員たちが淡々と歩いていく。


そして。


さらっと。


「追加で二百億」


とか言っていく。


学園経理部は軽く混乱していた。


「……え?」


「今の追加?」


「はい」


「二百億?」


「はい」


「“ついで”みたいに?」


「はい」


恐ろしい。


しかも。


この流れを作った元凶。


レイ本人は。


学園地下秘密基地エリアで。


「のだぁあああ!!」


子供用トロッコに乗っていた。


愛人たちは呆れていた。


「社長ぉ……」


「また遊んでますのぉ……」


「うむっ♡」


レイはゴーグルを付けていた。


完全に探検家ごっこである。


「秘密基地は最高なのだぁ♡」


「学園長は胃痛で倒れそうですわ♡」


「うむ!立派なのだぁ♡」


何も分かっていない。


だが。


この男。


結果だけ見ると異常に成功していた。


富裕層は。


結局。


“子供に特別な思い出を与えたい”。


そこを突いた。


しかも。


普通の名門校ではなく。


“世界でここしかない”。


これが強すぎた。


そして。


夕方。


学園長は超高級接待ディナーを終えた。


中東王族側は満足げ。


追加投資も決定。


巨大寄付も決定。


新施設も増える。


学園長は静かにワインを飲んだ。


そこへ秘書が来る。


「学園長」


「……なんですか」


「レイ社長が」


学園長は嫌な予感しかしなかった。


「今度は何を」


「“校庭に巨大人工洞窟を作りたい”と」


沈黙。


「理由は」


「“秘密基地っぽいから”だそうです」


学園長は天井を見上げた。


遠くで。


「のだぁあああ!!冒険なのだぁあああ!!」


というレイの声が響いていた。


学園は今日も順調に狂っていた。

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