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西暦2302年。
ベラルーシ企業連合中央居住区。
旧国家時代の宮殿を何棟も接続・増築して魔改造した結果、もはや「屋敷」というより小型都市になっているレイ邸では、今日も平和に狂っていた。
巨大ホール。
天井高二十メートル。
超高級シャンデリア。
純金装飾。
床は磨き上げられた黒曜石。
その中央で。
宇宙経済圏でも有数の超巨大企業総帥レイは。
積み木をしていた。
「のだぁっ♡」
真顔である。
しかも異様に集中している。
使用人たちは完全に慣れた顔だった。
誰も驚かない。
「社長、本日は十三時から資源企業との会議が」
「静かなのだぁ!!」
レイは叫んだ。
「今、大事な建築中なのだぁ!!」
床には大量の高級積み木が並んでいた。
普通の積み木ではない。
職人製。
一個数万クレジット。
しかも木星産高級木材。
意味不明である。
レイは真剣だった。
「ここが宇宙船寮なのだぁ……」
愛人たちは周囲でゴロゴロしていた。
「社長ぉ♡」
「また学園ごっこですかぁ♡」
「うむっ♡」
レイは積み木を積み上げながら鼻を鳴らした。
「ここが男子寮なのだぁ♡」
「大きいですわねぇ♡」
「当然なのだぁ♡」
レイはドヤ顔した。
付け髭は今日も立派だった。
今日は“教育界の大物風”らしい。
ただし積み木遊びしながらである。
威厳が死んでいた。
「ここに秘密通路を作るのだぁ♡」
「またですの?」
「男児は秘密通路が好きなのだぁ!!」
「社長も好きですわよねぇ♡」
「大好きなのだぁ♡」
即答だった。
レイは積み木を積みながら興奮し始めた。
「そして地下には巨大ゲームホール!」
「うむうむ♡」
「さらにその下に温泉!」
「最高ですぅ♡」
「さらに隠し焼肉部屋!」
「何で隠すんですの♡」
「秘密基地だからなのだぁ!!」
使用人たちは静かに紅茶を配っていた。
慣れている。
この男。
本当にこういう遊びを何時間もやる。
しかも。
重要なのは。
積み木遊びと並行して、異常な規模の投資案件が進行していることだった。
秘書が静かに報告する。
「社長、ロシア学園周辺の第七区画ですが、地主側が価格吊り上げを始めています」
「買うのだぁ♡」
「既に相場の十二倍です」
「安いのだぁ♡」
「……」
「全部買うのだぁ♡」
秘書は無表情で入力した。
周囲の土地。
森。
農地。
旧工場跡。
湖。
廃駅。
全部。
レイ・グループが買い漁っていた。
しかも露骨に。
最初、現地住民は意味が分からなかった。
「あの変な成金が学校に投資してるらしい」
程度だった。
だが。
半年後。
皆、気付き始める。
・超高級寄宿学校建設
・富豪層の移住
・関連企業誘致
・高級住宅地化
・宇宙港接続計画
・観光特区化
つまり。
レイは。
学園そのものではなく。
“学園都市”を作ろうとしていたのである。
しかも。
子供向けテーマパークみたいな街を。
「のだぁっ♡」
レイは積み木を積みながらニヤニヤしていた。
「ここに高級お菓子街を作るのだぁ♡」
「社長、投資計画書では“教育文化商業複合特区”となっています」
「同じなのだぁ♡」
全然違う。
だが。
実際。
市場は熱狂していた。
『超富豪専用学園都市』
『次世代教育都市』
『未来型寄宿エンターテインメント特区』
メディアは好き勝手に持ち上げた。
投資家も群がった。
土地価格は爆上がり。
最初に安値で買い占めていたレイ・グループは笑いが止まらない。
つまり。
この男。
積み木遊びしながら、普通に超巨大都市開発を成功させつつあった。
しかも本人は。
「のだぁ♡ここに恐竜広場作るのだぁ♡」
とか言っている。
恐ろしい。
愛人の一人が笑った。
「社長ってぇ」
「のだぁ?」
「本当に子供みたいですわねぇ♡」
レイはふんすと鼻を鳴らした。
「当然なのだぁ♡」
「褒めてませんわ♡」
「むっ!?」
レイはショックを受けた。
「うぇえええん!!」
「でもそういうところ好きですぅ♡」
「のだっ♡」
即復活した。
単純である。
一方その頃。
ロシア側では。
地方行政が軽く混乱していた。
「……何だこれは」
「土地価格が十七倍です」
「学校一つで?」
「いや、周辺全部買われています」
「何を作る気なんだ」
「計画書によると……」
担当官は震える声で読んだ。
「“子供が人生で一番楽しかったと叫ぶ街”だそうです」
沈黙。
「……意味が分からん」
「しかも利益予測が異常に高いです」
なぜなら。
富豪は。
“子供のため”には金を惜しまない。
しかも。
レイの学園は既に世界中で話題だった。
宇宙船寮。
騎馬弓術。
秘密通路。
プリンセス棟。
超豪華設備。
意味不明なほど楽しそうなのである。
当然。
富裕層の問い合わせは殺到した。
レイはその報告を聞きながら積み木を積んでいた。
「のだぁ♡」
「社長」
「なんなのだぁ?」
「投資回収予測ですが、当初の三倍速度で利益化しそうです」
レイは積み木を置いた。
そして。
ドヤ顔した。
「当然なのだぁ♡」
「理解してやってました?」
「うむっ♡」
「本当ですか?」
「……」
「社長?」
「……秘密基地は儲かると思ったのだぁ♡」
「だと思いました」
使用人たちは静かに紅茶を飲んだ。
今日もレイ邸は平和だった。
世界経済を動かす超巨大企業総帥は。
巨大屋敷の床で。
愛人たちに囲まれながら。
積み木で秘密基地を作っていた。
そしてその横で。
数兆クレジット規模の土地買収が淡々と進んでいた。




