12 激怒の大統領
西暦2307年。
ベラルーシ企業連合中央行政区。
超高層行政タワー最上階。
そこでは現在。
国家級の重要会談が行われていた。
空気は重い。
護衛多数。
高級絨毯。
巨大ホログラム。
歴代指導者肖像。
そして。
その中央で。
ベラルーシ連合大統領セルゲイ・ミハイロヴィチは、静かに額を押さえていた。
目の前には。
付け髭が半分剥がれた超巨大成金社長。
レイ・アルカージエヴィチ。
原因は当然。
聖イリヤ未来総合学院である。
大統領は低い声で言った。
「……レイ」
「の、のだぁ♡」
既に声が震えていた。
「お前」
「のだぁ?」
「なぜ」
大統領は机を指で叩いた。
「ロシアでやった?」
沈黙。
レイは目を逸らした。
「……のだぁ」
「答えろ」
「土地が安かったのだぁ♡」
「この野郎」
即答だった。
大統領はついに立ち上がった。
「ベラルーシにも土地はあるだろうがぁ!!」
「のだぁあああ!?」
「何でロシアにあんな世界最高クラスの教育都市を作ってる!?」
「だ、だってぇ!」
レイは涙目になった。
「雪いっぱいあったのだぁ!」
「ベラルーシにも降るわ!!」
「森も広かったのだぁ!」
「あるわ!!」
「秘密基地作りやすかったのだぁ!」
「知らん!!」
周囲の閣僚たちは完全に無言だった。
止められない。
なぜなら。
大統領の怒りはかなり本気だった。
理由も分かる。
聖イリヤ未来総合学院。
あれはもはや“学校”ではない。
経済圏だ。
富裕層。
観光。
不動産。
文化。
雇用。
投資。
全部を吸い込む怪物。
しかも今では。
「教育の聖地」
扱いまでされ始めている。
当然。
ベラルーシ側としては。
「何でそれをロシアでやった?」
になる。
大統領は本気で頭を抱えていた。
「お前なぁ……」
「のだぁ……」
「分かってるか?」
大統領は窓の外を指した。
ベラルーシ中央都市群。
巨大ネオン。
企業群。
交通網。
「お前の会社、実質国家予算級なんだぞ」
「のだぁ♡」
「褒めてない」
レイはしょんぼりした。
大統領は続ける。
「お前が“ここに作る”と言えば」
「のだぁ?」
「周囲数百キロが発展する」
「むむっ♡」
「実際ロシア側でそうなっただろうが」
「うむっ♡」
レイはちょっと得意げになった。
「秘密基地は偉大なのだぁ♡」
「そこじゃない」
即否定。
大統領は深くため息をついた。
「今、向こうの土地価格どうなってると思う」
「いっぱいなのだぁ♡」
「雑過ぎる」
だが。
実際とんでもないことになっていた。
聖イリヤ特区。
世界中の富豪が押し寄せる。
高級住宅地。
投資。
文化施設。
観光。
関連企業。
全部膨張。
完全に“新都市圏”である。
しかも。
あの馬鹿みたいな施設群。
宇宙船寮。
ピラミッド。
お菓子の城。
秘密基地。
全部が観光資源になっていた。
大統領は真顔で言った。
「本来ならあれ、うちのGDPになってたんだぞ」
レイは固まった。
「……のだぁ?」
「分かってないな?」
「のだぁ」
本当に分かってなかった。
レイの頭の中は。
「秘密基地いっぱい作りたい♡」
で止まっている。
国家戦略とか考えていない。
大統領は椅子に座り直した。
「しかもだ」
「のだぁ?」
「最近、うちの富豪層まで子供をロシアに送ってる」
「うむっ♡」
「“うむっ♡”じゃない」
閣僚の一人が静かに資料を出す。
『超富裕層国外教育支出増加』
大統領はこめかみを押さえた。
「何で自国の金持ちの金がロシアに流れてるんだ」
「のだぁ?」
「原因お前」
「のだぁあああ!?」
レイは本気でショックを受けた。
「吾輩、悪いことしたのだぁ!?」
「だいぶ」
「うぇえええええん!!」
泣いた。
付け髭が取れた。
閣僚たちはもう見慣れている。
大統領だけがまだ少し苛立っていた。
「お前なぁ……」
「のだぁ……」
「次やる時はベラルーシでやれ」
レイは涙目で鼻をすすった。
「……のだぁ?」
「今度はこっちで巨大学園都市作れ」
沈黙。
レイの目が少しずつ輝き始めた。
嫌な予感しかしない。
「……つまり」
「うん?」
「もっと秘密基地作っていいのだぁ?」
大統領は一瞬黙った。
「……経済効果ある範囲でな」
「のだぁあああああ!!」
レイ復活。
立ち上がった。
「今度は湖全部秘密基地にするのだぁ!!」
「やめろ」
「地下都市も!」
「やめろ」
「巨大潜水艦寮!」
「やめろ!!」
しかし。
閣僚たちは気付いていた。
もう遅い。
この男。
完全に次の計画を始めている。
そして。
数日後。
ベラルーシ政府内部に極秘資料が回った。
『レイ・グループ
ベラルーシ北部超大型教育娯楽都市計画』
担当官たちは静かに天を仰いだ。
表紙には。
巨大潜水艦型寮のイメージ図。
そして。
手書きでこう書いてあった。
『秘密基地いっぱい♡』




