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西暦2312年。
春。
旧ロシア北西教育特区――聖イリヤ未来総合学院。
十年前。
ここは、ただの地方私立校だった。
少し敷地が広く。
少し歴史があり。
少し古い。
それだけの学校。
だが今。
空から見ると、もはや完全に別世界だった。
巨大宇宙船型男子寮。
雪原にそびえるピラミッド寮。
お菓子の城女子寮。
人工湖。
騎馬場。
秘密基地地下網。
巨大スキー要塞。
ガラス温室。
空中回廊。
そして。
学園内列車。
本当に必要だから存在していた。
広すぎるのである。
本当に。
歩くと普通に疲れる。
だから列車が必要だった。
朝。
学園専用小型列車が雪解けの森をゆっくり走っていた。
車体には、
『聖イリヤ学園特急』
と書かれている。
しかも無駄に高級。
座席ふかふか。
窓大きい。
お菓子食べ放題。
完全に富豪仕様。
車内。
成金の子供たちが大騒ぎしていた。
「今日は秘密基地戦争だぞ!」
「違う!先にポニー牧場!」
「騎馬弓術もある!」
「お菓子寮行きたい!」
「昨日ピラミッド地下で迷った!」
「俺まだ宇宙船寮の隠し部屋全部見つけてない!」
うるさい。
非常にうるさい。
だが。
皆、楽しそうだった。
窓の外。
広大なポニー牧場。
小さな子供たちが笑いながら走っている。
昔。
この辺りは放棄寸前の土地だった。
今では。
超高級教育都市の中心である。
駅に到着。
ホームには各国の子供たち。
中東王族。
新興財閥。
宇宙企業創業家。
アジア系富豪。
旧ロシア資源層。
混ざっている。
皆、制服を着ている。
だが。
その制服姿で。
「秘密通路から行こうぜ!」
とか叫んでいる。
世界最高額級の学費を払ってる子供たちとは思えない。
しかし。
保護者たちは満足していた。
なぜなら。
子供たちが本当に楽しそうだからである。
それが全てだった。
校庭。
いや。
“校庭”というには広すぎる。
ほぼ公園。
そこでは。
レイの子供たちも遊んでいた。
髪色や顔立ちは違う。
母親も違う。
だが。
妙に全員レイっぽい。
変なテンション。
変な笑い方。
無駄に行動力がある。
そして。
妙に遊びに全力。
「のだぁあああ!!」
小さい男児が叫んでいた。
教師が頭を抱える。
「あっ……完全に社長の遺伝……」
子供たちは秘密基地エリアへ走っていく。
別の子供たちはポニー牧場。
また別の子供たちは巨大滑り台。
一部は騎馬弓術。
女子寮側では。
お菓子の城ラウンジでティーパーティ。
そこへ。
バレエ棟から音楽が流れる。
オペラ訓練ホール。
芸術棟。
文化施設。
全部揃っていた。
しかも。
教育レベルも高い。
昔、西欧名門校たちが恐れていたこと。
それが現実になっていた。
聖イリヤ未来総合学院は。
“楽しいだけの成金学校”では終わらなかった。
世界最高峰の富豪教育都市へ進化してしまったのである。
もちろん。
西欧名門校も残っている。
ブランドもある。
伝統もある。
だが。
聖イリヤは別方向で勝った。
“子供時代そのもの”。
それを巨大産業化した。
昼。
列車が再び走る。
子供たちが窓から手を振る。
遠くには巨大マンモス像。
その向こうにスキー要塞。
さらに遠くには宇宙船寮。
全部本当に存在している。
もはや夢のテーマパークである。
そして。
中央広場。
そこには。
巨大な銅像が立っていた。
付け髭姿の男。
片手を上げ。
妙に偉そう。
台座にはこう書かれている。
『レイ・アルカージエヴィチ
悪戯っ子宇宙チャンピオン
子供はいっぱい遊ぶべきなのだぁ♡』
教師たちは未だに若干納得していない。
だが。
放課後。
夕焼け。
子供たちが笑いながら走っていく。
秘密基地。
ポニー牧場。
お菓子寮。
列車。
宇宙船。
全部を行き来しながら。
その景色を見て。
古参教師がボソッと呟いた。
「……まあ」
静かな春風。
遠くで列車の汽笛。
子供たちの笑い声。
「悪くない学校になったな」
かつて。
地方の普通の私立校だった場所は。
いつの間にか。
世界で一番、“子供が学校へ行きたがる場所”になっていた。




