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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅻ話 後編【別れとその先へ】其の一


 朝早くガッチョとアルテミアの二人が訪ねてきた。

 久しぶりにゆっくりと寝ていた俺は、アリーチェに起こされるまで起きることはなかった。慌てて支度を済ませ二人の待つ離れへと向かう。


 何度も試作に明け暮れた厨房が懐かしく感じる。

 

「悪い、待たせた」

 扉を開けいつものように声をかけると、二人は顔を見合わせ笑い出した。

「なんだよ?どうしたんだ」


「いや、ミーナがどうなったのか気になって来たんだけどよ——お前の顔見たら安心した」

「そうね。エル、あなた良い顔してるわよ」

「そうか?」


 二人の表情が優しく見える。

 ——俺も心配かけてたんだな。

 胸の中が熱くなった。

 

「——それでミーナは大丈夫なのよね?」

「あぁ。二週間ぐらい眠り続けてたみたいだけど、目を覚まし——」

「「二週間!」」

「あいつ、そんなに寝てて本当に大丈夫なのかよ」

 

「どうだろうな……笑顔にする事は出来たが、大樹の涙が治った訳じゃない」

 ひとまず起こす事は出来たが、それでもあの震え……まだ食べる事が出来るようになった訳じゃない。

 何かもっと食べられたら良いんだけど。


「エル……エルってば!」

「悪いアルテミア、考え事してた。——でも、きっと大丈夫だ」

 二人に言い聞かせたい訳じゃない。でも、俺はミーナを信じている。あいつはもう眠り続ける事はない。


 明日の朝、港でと約束を交わし、二人を見送った。

 

「こうして三人で集まるのも、最後かもな——」

 二人の背中を見つめ、ポツリと呟いた。

 すると、「なにがですー?」と耳元から声がかかった。

 びくりと体を震わせ振り向くと、アリーチェの姿。


「聞いてたのか……」

「はいー、それで何が最後なんですー」

「なんでもないよ。それでどうしたんだ?」

「朝食の準備が出来ましたー。サルヴァさんが呼んできてくれって」

「わかった、すぐに行くよ」

 もう一度二人の背を探して振り向いたが、もう二人の姿は見えなかった。

「——行こう。アリーチェ」

「はい、エル様ー!」


     ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 軽く朝食を終えると、一人街へと繰り出した。

 今日で祝願祭も終わりを迎える。それもあっていつもよりも人は多い。

 ——こんなにも色々あった祝願祭は初めてだ。

 しみじみと思い出しながら、ゆるりと歩いていると押し寄せる人波に飲まれもみくちゃにされた。


 やっとの思いでミーナの家の側まで来ると、二階の窓に視線を向けた。昨日と同じ事く薄手の窓帷の向こうで、ミーナが手を振っている。

 

 ——良かった。ちゃんと起きている。

 薄らと見えたミーナの姿に、昨日の温もりを思い出し、少し頬が熱くなった。

 

 自然と足が駆けていく。だが、それもすぐに駆けるのを辞めた。家の前、扉の前にミーナの父親が静かに待っていた。


「——おはようございます」

「エルネスト様、お待ちしておりました。昨日はその……申し訳ありませんでした……」

 そういうと静かに頭を下げた。


 父親とはそういう物だろうと気にしていなかったので、どう返したら良いのかわからない。

「——そんな、頭をあげてください。気にしていません」

 精一杯の言葉を捻り出したが、何も思い浮かばなかった。


「そうですか……。それで、本日はどのようなご用事で来られたのですかな?」

「——ミーナに会いに」

「まだ、娘は寝ております」

 

「……先ほど窓の向こうに、手を振るミーナが見えたんですが」


「……」

 何も言わず、ただ黙って視線を向けて来た。


 商会長の鋭い視線を受け止め、そのまま見返していると、扉が開いた。出て来たのはミーナの母親。それでも商会長は鋭い視線を止めず俺の方を見てくる。

 婦人はそれを見ると、少しだけ短く息を吐き出し、商会長の頭をペシンと叩いた。

 

「——何をする」

「あなた、昨日話したではありませんか」

「だが……」

 婦人が一睨みすると、商会長は黙り込み言い淀んで見えた。


「エルネスト様、おはようございます。昨日はミーナを起こしていただき、感謝の念に絶えません——。お陰で家族が揃う幸せを噛み締める事が出来ましたわ。本当にありがとうございます」

「おはようございます。いえ、僕だけの力ではありませんから……」

 婦人は小さく微笑むと、ゆっくりと口を開いた

「それでもですわ。——ミーナは自室でゆっくりとしています。どうぞ行ってあげてください」

「待て!まだ、許した訳じゃ……」

 

「——あなた」


「……わかった。入ればよかろう……」


 二人の会話を聞いていた俺は、婦人に助けられる形で家の中へと進んだ。

 昨日は気付かなかったが、家の中には物がほとんど残っておらず、がらんとしている。

 本当に行ってしまうのだと思うと、少し悲しさが湧いた……。

 それでも昨日まで感じていた張り詰めた空気。二人からはそれは感じられず、家の中には春の日差しのようなふわりとした温かみに満ちている。

 悲しみと温もりを胸に抱えながら階段を登り、ミーナの部屋へと向かう。

 すると、階段を登り切った所で微かに歌のような物が耳に届いた。

 

 少しずつ大きくなっていく歌声に、一歩また一歩。少しだけ早くなった足取りで廊下を進んだ。

 部屋の前へと着くと、扉の向こうから聴こえてくるミーナの歌声。

 

 ——どこかで聴いた気がする……。

 

 二回扉を軽く叩くが、返事はない。そのまま部屋へと入ると、外から流れてくる風が歌を乗せ、スッと横を通りすぎた。

 

 

お読みいただきありがとうございます。


長い夜が明け、ようやく訪れた穏やかな朝。

けれど、人は嬉しい出来事のあとにも、新しい別れと向き合わなければならない時があります。

『別れとその先へ』というタイトルに込めた想いを、これから少しずつ描いていきます。


最後までお付き合いいただけましたら幸いです。


次回更新は7月16日(木)19時30分です。

次回もお読みいただけると嬉しいです。

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