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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅻ話 前編【別れとその先へ】其の一


 暗く静まり返った部屋。静かに揺れる窓帷、出窓に座り街へと視線を向けた。

 街の煌めきが夜空へと抜け消えていく。街は最終日の前夜とあって賑やかだ、風に乗って届く笑い声が西の端まで続いているようだった。


 ミーナの笑顔を取り戻した俺は、久しぶりにゆっくりとした時間を自室で過ごしていた。


「——本当に良かった。本当に……」


 あの後、ミーナの両親を呼びに行こうと扉を開けると、二人は部屋の前で待ち受けていた。いつから居たのかはわからない。

 でも二人の顔は両極端で、婦人は和かに笑いながら涙を流していた。だが商会長——ミーナの父親は出てきた俺を睨みながら涙を流し頭を下げた。

 

 そこからは親子の時間。俺が部屋から出ると、二人は部屋の中へと入りミーナを抱きしめた。三人で抱き合う姿を見ると微笑ましい家族の姿に、俺は視線を逸らした。

 ——久しぶりの家族の再会だ。俺の出番は終わったんだ……。

 

「——エルくん!」

 そのまま黙って、家を出ようとしたが後ろからミーナに呼び止められた。

 振り向き部屋を少し覗くと、ミーナではなく父親と目が合った。だが、まだ険しい顔をしているのが見え思わず視線を逸らした。

 ミーナの方へと視線を送ると「明日も来てね♪」と笑顔を向けられた。

「あぁ——明日も……明日も来るからな。ちゃんと起きてろよ」

「うん♪」

 そう言い残して、ミーナの家を後にした。


 ミーナの家を出ると、これが現実なのか……それとも夢なのか少し不安を抱えながらゆっくりと歩き、振り向いた。

 先程までいた部屋に視線を向けると、揺れる窓帷の向こうにうっすらとミーナが手を振っているのが見えた。

 ——あぁ、これだ。これが俺が望んでいた物だ——。

 

 手を振り返すと、そのまま振り返らず館へと向けて歩き出した。

 

 裏路地を歩きながら、お世話になった人たちへ挨拶に行くか少しだけ迷った。クンパさんにも材料屋の老婆にも一言礼を言いたかった。

 

 でも、ミーナの家から教会へ抜けた所で、街に視線を上げると行くのを止めた。

 

 不思議と朝よりも街が煌めき立って見える。その雰囲気に少しだけ……浸りたくなった。

 

 屋台から流れてくる肉の焼けた匂い。威勢の良い活気ある呼び声。仲良く手を繋ぎ歩いている親子。

 見る物全てが明るくなったように感じた。


 少しだけ息を吸い込み街の息吹に触れた。賑わう街を、笑い合う家族の中をゆっくりとした足取りで館へと向け帰宅の途についた。


     ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 気付いたら寝ていたようだ。起きた時には部屋は暗く、灯一つ点いていない。空気を入れ替えようと窓を開けると、夜風に乗って聞こえてきた笑い声に、また街の息吹を感じていた。


「……ミーナが助かって本当に良かった」

 何度も何度も噛み締めていた。今までのことを……。そして、これからの事を……。


 だが、気がかりなことが一つだけある。ソウ……あいつは何者なのか。ミーナを知っていた。俺の事も知っていた節が言葉の端々に出ていた。

 

 ミーナに尋ねるか迷ったが、今日は結局聞くことが出来なかった。


「……」


 ——今考えてもわからないか。


 わからない物を考えても仕方がない。明日ミーナに聞くか、ソウのやつを探してみよう。そう思う事にした。


 

 すると、扉から二回叩く音が聞こえたかと思うと、すぐにガチャリと扉が開いた。

「エル様ー。入りましたよー」


 あまりの事に一度呆けたが、すぐに笑いが込み上げてきた。

「……。——ハハッ。アハハッ——」

「ハハッー。あー……アリーチェは本当に変わらないな」

「えーそうですー?」

「今回もちゃんと扉は叩きましたしー、入りましたよーって変えたんですけどねー」


 ——うん。根本的に間違えてるね。

「——それでどうしたんだ?」

「はい、もう起きられたかなーと思ってお迎えに来ましたー。ご夕食が出来ましたよー」

「そうか」

 掛け時計を見ると、七時を遠に過ぎていた。

 ——待っていてくれたんだろうな。


 きっと、何度か来てくれてたんだろう。自分も疲れているはずなのに、何度も……。

「今から行くよ」

「はい、ご一緒いたしますー」

 そう言うと、アリーチェは扉を開け待ってくれている。

 扉を開けていると、部屋に満ちていた街の賑わいが館へと溶けていく。


 出窓から降り、窓へと手を伸ばした。だが、窓に手を掛けたところで腕を止めた。

 ——もう少しだけ。


 窓は開けたまま、振り向きアリーチュの元へと歩き出した。扉を支えてアリーチェの方へと視線を向けると、アリーチェは首を傾げた。

「扉は俺が持つよ。アリーチェ先に出てくれ」

「えぇーそれは申し訳ないですよー」

「いや、いいんだ。もう少しだけ街の風で部屋を満たしておきたいんだ」

 また、首を傾げたアリーチェは素直に部屋から出ていく。

 

「それと……ありがとう」

 聞こえるかわからないほど小さな声で一言。

 

「——何かいいましたかー?」

「なんでもないよ。サルヴァが待ってるんだろ、そろそろ向かおう」

 静かに扉を閉めていくと、風に乗って抜けていた音が少しずつ部屋に戻り、そのまま扉を閉めた。

 

「エル様ー、さっきなんて言ったんですー?」

「なんでもないよ」

「えぇー教えて下さいよー」


 

   ♦︎♢♦︎♡♥♡


 

「ちょっと……ちょっと待って、えっ!本当に?夢じゃないよね……」

いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


賑やかな祝願祭の夜も、少しずつ静けさへと向かっていきます。

嬉しかったことも、安心したことも、きっと心が落ち着いた時に初めて「本当に終わったんだ」と実感するものなのかもしれません。


次回更新は7月10日(金)19時30分です。

あと数話で終わるこの物語に、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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