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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅺ話 後編【エルとミーナ】其の五



 フォークを手渡すと、ミーナはフォークをブスリとケーキに差し入れた。フォークの縁を器用に使い、一口ほどの大きさに切ると、甘い香りがふわりと上がった。


「うわーバニラがいっぱいだー♪こんな贅沢なケーキよく思いついたね?」

「ルセットは夢人のソウに貰ったんだ」


 ——しまった……夢人のソウの事ミーナは知らないんだった。

 言った後で気がついたが、もう遅い。ミーナは不思議な表情を浮かべた。

「ルセット?」

「あっ……あぁ、レシピの事だよ。料理用語って聞いた」

 ——夢人よりもそっちの方が疑問に思ったみたいだ。


「ねぇ……ねぇってば!エルくん!」

「——ごめん、考え事してた」

「あのね、あのー……もう食べていいかな?そろそろ我慢の限界なんだ……ジュルリ」

 ミーナを見ると、片口元が微かに光っているのが見えた。

 ——そうだ、今はあいつの事よりもミーナだ。

 疑問は残っているが、考えるのを止めミーナの方へと向き直した。


「もちろん。このケーキはミーナのだからな」

「えっ?エルくんも一緒に食べるんでしょ?早く切ってよーお腹空いたー」

「……わかったよ」


 ミーナに倣い、フォークの縁を使い一口ほどの大きさに切ると、そのまま突き刺した。

 ゴクリ。


 まだ食べてない。もしも美味しくなかったら……ミーナの笑顔が戻らなかったら……。

 複雑な気持ちが渦巻き、そこから腕が動かなくなった。


「——大丈夫だよ。エルくんの気持ちが籠ってるんだもん。きっと大丈夫」

 心配そうに見つめるミーナに頷き、二人でケーキを口へと運んだ。


 口に入れた瞬間にふわふわとした食感がシュワリと溶けてなくなった。

「「あれ?」」

 二人の言葉が重なり、思わず顔を見合わせた。もう一度フォークを突き刺し二人で同時に口へと運ぶ。

 

 今度はゆっくりと——舌の上で転がすとスフレチーズはトロリと口の中で溶けた。

 鼻に抜ける甘い香り。芳醇に含まれたバニラが溶け出し、口いっぱいに甘い香りが満ちた。

 自然と上がる頬に、二人して抗うことが出来ない。

 チラリと見たミーナは幸せそうに頬張っている。


 その姿を見ると、無性に喜びが湧き上がった。その顔を見ているだけで、自分でも不思議なぐらい笑っていた。

 

 みるみるうちに小さくなっていくケーキに手を伸ばし、口へと運んでいく。

 ケーキの中いっぱいに溢れていたバニラの香りが鼻を抜けると、濃厚なミルクの風味が花開く。


 カスタードクリームの卵の旨み——。

 鼻から抜けるバニラが後を追い、三位一体となったスフレチーズは物の数分であと一口になり、思わず手を伸ばした。

 

 すると、ミーナも狙っていたのか、前に見た鋭い眼光を向けられ思わず手を止めた。

 

「あっ……」

手を止めている間に、ミーナがプスリとフォークを刺した。最後の一口に思わず声が漏れ、へへへと声が聞こえた。

 嬉しそうに最後の一口を運ぶと、ミーナは満面の笑みを浮かべ一言。

 

「美味しいね♪」


 雲の切れ間から太陽が顔を出したみたいにキラキラと輝く瞳。

 ——あぁ、これだ……。

 ずっと会いたいと願っていた笑顔がそこにはあった。


 ——やっと、ミーナを取り戻せた。

 美味しい物を食べた時に見れるミーナの幸福に満ちた笑み、この笑顔を俺は取り戻したかった。

 パッと世界が明るくなったみたいに、自分の中で澱んでいた気持ちが晴れていく。不安も焦りも……全部。

 別れるのは辛い。でも、ミーナのこの顔に会えたなら俺はもう大丈夫だ——。


 頑張ってきた思いに浸り、ミーナに温かい眼差しを向けていると、ミーナの口がポツリと動いた。


「ケーキなくなっちゃった……」

「——悪い、俺が食べすぎたから……」

 

「んーん、違うの。もっとエルくんと一緒に食べたかったなって思っただけ」

 

「ミーナ……」

 思わず、また抱きしめたくて手を伸ばした。だが、「あれ……そういえば苦しくならないや」ミーナの言葉に、我に返り伸ばした手を止めた。

 

「えっ……本当か!」

「うん。いつもならゾワゾワーってして、ふわふわ〜ってきて、ドドドドーのポテリだったんだけど——」

 

 ——何を言ってるんだ……。

 真面目な顔で語るミーナの言葉に意味がわからず、眉を寄せた。

「だからねー。ゾワゾワーってして——」


「待てミーナ。それはわかった。それで——苦しくないんだな?」

「えっ、うん。……大丈夫みたい」

 胸に手を当て、もう一度「うん——大丈夫」と短く告げた。


「そうか……良かった」

ミーナが何を拒んでいたのかはわからない。でも、食べれる物が見つかったんだ。ミーナを笑顔に出来る飛び切りの物が——。

「あいつを信じて……良かった」

 ボソリと呟いた言葉をミーナが拾い、その返事に驚いた。


「そっかーソウさんパティシエだもんねー」

「えっ?」


 ミーナがソウを知っている。今度は俺が不思議な顔を浮かべた。

「あぁー前にⅤの国に行った時に会ったんだ」

「色々教わったんだよ。マーケティングの話とか面白かったなー。次にⅣの国——この国に来るって言うからさー。祝願祭の事伝えたら、本当に来てくれたんだね」


 ——ミーナが呼んだ?ソウを——。

 あいつやっぱりミーナの事知ってたんじゃないか。それなのにどうして……。

誰かと一緒に食べるということ。

同じ料理を囲み、「美味しいね」と笑い合える時間は、それだけで何よりのごちそうなのかもしれません。

今回のひとときが、少しでも温かな余韻として皆さまの心に残っていましたら嬉しく思います。

物語はまだ少し続きますので、次回もゆっくりとお付き合いいただければ幸いです。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


次回更新は7月8日(水)19時30分です。

次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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