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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅺ話 前編【エルとミーナ】其のニ

 

 二人と同じ絶望を俺は感じていない……。それを突きつけられ、胸が痛んだ。

 会えなかった時間よりも、ずっとそばにいるのに何も出来ない。そんな苦悩を二人はひと月も続けているはずだ。


「……俺には治すことは出来ません。医者でもなければ司祭でもない。ただの子供です」

「それなら……帰ってください。もう、娘に関わるのはやめ忘れて下さった方が——」


「忘れられる訳ないじゃないか!」

「何も出来ないかもしれない。それでも……それでも会わずに別れるなんて……出来るわけないじゃないか……」


 路地裏に俺の声が響き、街の喧騒へとのまれた。

 ——空耳だったのかもしれない。

 ——幻だったのかもしれない。


 それでも、街に出ても、館に籠っていても、夢の中でも。ミーナとの思い出が俺をここまで連れてきてくれた。

 だから、逃げるわけにはいかない。

 

「——ミーナは大切な友達です。会えるまでは絶対に帰らない」

「……」

 二人は黙り、俺に強い視線を向けた


 二人を説得できるかはわからない。それでも、俺はミーナとの思い出を話し始めた。

 

「——初めて会った時から、いやそれからもずっと。ミーナは俺を領主の息子としてではなく、一人の友達として接してくれました」

 「館の中を勝手に歩き回って、厨房のおやつを見つけてはしゃいで、それを貰うと本当に嬉しそうで……」」

ミーナとの思い出を振り返りながら、俺も笑顔が溢れた。

「街を知らないと言ったら、本気で怒って俺を連れ出してくれました。一人だと怖かった外の世界を、手を引いて教えてくれました。行った街や、国の話を嬉しそうに話して、俺は……世界の広さを知りました」

 

「……俺はずっと、ミーナに救われていたんです。だから、俺は取り戻したい」

「……何をですかな?」


「ミーナを治せるわけじゃない、救ってやれるわけでもない。でも、旅立つミーナがせめて笑顔で行って欲しい」


「だから、笑顔を取り戻すために……ここに来ました——」

「俺はあの日、あなたにミーナの話を聞いてから、ミーナの為に何が出来るのか。それを考えて来ました」



「——それで、見つかりましたかな」

 物腰の柔らかさとは裏腹に、その言葉は冷たく先ほどよりも深くて暗い視線を向けられた。

 

「先生——医者をしている方が、その病気は食べられない病じゃない。ミーナが、その身体が拒んでいる可能性がある。そう聞きました」

「そうですな、それで」

「街を周りました。ミーナか好きな店にも行きました……でも、街を周っても、そんな食べ物は見つからなかった」

「そうでしょうな」

 多分この人はそれぐらいのことは、あの時にはもうしていたんだ。商会を使っても、金を積んでも、神に願っても……見つからなかった。だから、あれほど憔悴し諦めにも似た暗い目をしていたんだ。

 

「もう、帰られた方が良いのではありませんか。探したけど見つからなかった、だから会わせられない。それだけの事でしょう。違いますかな?」

「確かにそんな食べ物は見つからなかった……」

「それなら——」

「だから、自分で作った」

「……ハッ?おっしゃっている意味がわかりませんな。貴方のような方が厨房に立ち鍋を振るったと?」


「違う!」

「ミーナが好きだった物を、好きだった味を、俺は全部このケーキに詰め込んだ」

 

「素人が作ったものに……なんの意味がある」

「そんなものであの子を助けられる訳がないだろ!」

 

「……俺が一人で作ったわけじゃない。一人で出来たはずがない!」

「卵も割れなかった俺がここまで来れたのはみんながいたからだ!」

「みんなが助けてくれた!」

「一人じゃ絶対に出来なかった!」

「だからこのケーキは、俺一人の物じゃない!ミーナを想うその気持ちが、作り上げたのがこのケーキだ!」

「笑うかもしれない」

「子供の作った物だって馬鹿にするかもしれない」

 

「でも、俺は本気だったんだ!」

 

 思いの丈を全て吐き出し、二人にぶつけた。言葉が足りない事はわかっている。それでも、それがなんだと言われたら、もう俺には何もしてやらないかもしれない。それでも……。

 

「お願いします。会わせて下さい」

 もう一度、二人に頭を下げた。


「あなた……もう、会わせてあげ——」

「お前は黙っていろ!」

「俺は認めない。認められる訳がない……」

「全てだ!俺は全てを家族の為にしてきた。あの子に注いできた。それを素人が作った物に覆されてなるものか!」


 ——ダメなのか。

 まだ、この人を認めさせる事が出来ないのか……。


 

その時、家の扉が勢いよく開き、老婆が慌てて飛び出して来た。

「奥様!おっおっ……お嬢様が!お嬢様がお言葉を!」

「なに!」「ミーナ!」


 二人は俺には見向きもせず、家の中へと消えた。


 二人が去ってから、俺は大きく息を吐き出し。二人の姿を思い浮かべていた。

「ミーナ……お前こんなにも両親に愛されてるぞ」

「だから、ちゃんと伝えないとな」

「みんながお前を待ってるって」

「それに……」

 

 近くにいるはずなのに、遠い。

 ミーナがいる部屋に手を伸ばした。

 でも、掴めたのは空っぽの空だけだった。


お読みいただきありがとうございます。


会いたいと願うエルと、会わせたくても会わせられない両親。

治せるわけではない。救えるわけでもない。

それでも笑顔でいてほしい。


そんな願いを胸にここまで歩いてきたエル。


次回更新は6月26日(金)19時30分です。

エルの願いはミーナに届くのか…。

見届けて頂けたら嬉しいです。

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