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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅹ話 後編【約束のケーキと再会】其の一


 夕食を三人で食べ終え、先に離れの厨房を目指して歩いていく。

 アリーチェは「足りない材料を厨房でもらってからすぐに向かいますー。エルさまは少しゆっくりしてくださいー」と言うので先にダイニングを離れた。サルヴァも、「片付けと明日の仕込みが終わり次第向かいます」と言い、一人で先に抜けた。


 夕食を誰かと一緒に食べたのは、久しぶりだった。

 

 一皿目を運んできたサルヴァも交えて三人で机を囲んだ。最初はサルヴァに、スフレチーズの進捗を伝え、改良すべき所を聞きながら食事を進めた。

 サルヴァもアリーチェと同じ所が気になっていたようだが、知識が足らず、確証が無かった。と謝られてしまった。


 料理で窯を使うことはあっても、菓子では勝手が違うはずだ。全てを知っている方が難しいから、気にしないでくれと言ったのだが……サルヴァは納得していなかったようだった。

 その後、すぐにアリーチェに事細かにスフレチーズの状態を問いただしていた。

 始めは緊張していたのか静かに食べていたアリーチェも、いつもの調子が戻り、会話に花が咲いた。

 時折サルヴァが席を外して、次の皿を運んでくるぐらいで三人の会話が、止まることは無かった。

 話はスフレチーズから離れ、サルヴァの料理修行やアリーチェの物知りなおばあちゃんと色んな話が出てきた。

 サルヴァは元々王都にあるレストランを転々と回り腕を磨いていたそうだ。一度だけ知り合いの伝手で“Ⅴ”の国でも働いていたらしく、“Ⅴ”の国の食文化や【不思議な伝統】なんかも聞かせてくれた。

 アリーチェの祖母は元々【養蜂家】をしていたらしい。新たな街道の整備で道を作るのに場所を譲り養蜂家を辞めたそうだ。話はアリーチェのケーキ作りへと移ると、祖父がパティシエをしていたらしく、祖母から教えてもらっていたらしい。祖父は若くして亡くなったから会ったことは無いと、アリーチェは寂しそうな顔を見せた。祖母は昔を思い出すように、祖父が作っていたケーキをアリーチェに教えてくれたらしい。

 今度の帰省で、新しいケーキを持って帰れるから楽しみだとアリーチェは笑った。


 二人の話を聞いていると、他の街、他の国にも興味が湧いてきて、気分が上がった。まだ、この街から出たことがない俺は他の街の事を本でしか知らない……。

 ――ミーナが行く“Ⅷ”の国はどんな所だろうな。


 楽しい場所だったら良いんだけど。もう少しでミーナと別れる、それがどこか寂しかった。


 本邸と離れをつなぐ外廊下まではもう少し。あの扉を開ければ、庭園を脇をかすめ、離れへと向かうことが出来る。明るい光が視線を霞め、ふと窓の方へと顔を向けた。窓から見えるリヴォーラ山の頂を、三日月がやさしく照らしている。空気が澄んでいるのか、リヴォーラはいつもよりも――綺麗に見えた。

 

 

「それにしても――楽しかったな……」

 一人で廊下を歩きながらポツリと呟いた。その時に耳元で「何がですかー」といきなり声が聞こえた。


「うわっ!」

 いきなりの事に驚き、大きな声を出し飛び退いてしまった。幸いにも廊下には他に誰もおらず、驚かす事はなかったが……。

 

「アリーチェ……驚くからやめてくれ」

 振り向くと両手に材料を抱えたアリーチェが立っていた。

「そんなに驚くとは思わなくてー。すみませんですー」

「いや、大丈夫だ――それより、すごい量だな」


 アリーチェが抱えた荷物は、とても数回分とは思えないほど多い。

「――半分持つよ」

「いえいえ、大丈夫ですー。ただ、両手が塞がっているのでー扉を開けていただけると助かりますー」

「わかった、荷物を持たせてすまない。代わりにしっかりとエスコートさせてもらうよ」

 感謝を伝えようと笑顔で振り向いたが、アリーチェの頬が少しだけ赤くなった。


「――顔が赤いけど大丈夫か?」

「はい、だっだだだだ大丈夫ですー」


 流石に疲れているのだろうか。いつもよりも会話が更におかしい。懐中時計を開くと二十時を少し周っていた。

 ――おそらくだけど、あと二回出来たらいい方か……。

 アリーチェも疲れてきている。なんとかあと二回……いや、次で上手く焼けるようにもう一度ルセットから見直そう。些細な失敗で躓いている時間はないんだ。


 本邸の扉を開けて、離れへと向かった。


  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 サルヴァが、すぐに行くから作るのは待っていて欲しい。アリーチェから言付けを受け取り、二人で計量をしながら待つ事にした。スフレチーズを作るにあたり失敗しない為にすべき事を二人で出していく。と言っても俺の知識はそんなに多くない、器具を近くに置いておくぐらいしか出なかった。

 だが、そこはアリーチェが、クリームチーズを出しておくのはどうかと提案してくれた。

 詳しく聞くと、冷たいクリームチーズを入れるとカスタードクリームが冷えてしまう気がすると。

 確かに冷えたクリームチーズを入れた瞬間に、カスタードクリームがどんどんと硬く締まっていったのを思い出した。

 あの時は、急いでいたのもあるが、こんなもんだろうと思っていた。だが、その事でダマが残ったのかもしれない。


「よく気がついてくれた。クリームチーズを室内に置いておこう、そうすれば合わせる時に混ざりやすいかもしれない」

 切り分けたクリームチーズを室内に置いているところである事を思い出した。

 

 ――クリームチーズが決め手……。

 

 ルセットをもう一度見ると、やはり小さく書かれている。何の事かわからずに気にしないようにしていたが、妙な胸騒ぎを感じた。

 

 

お読みいただきありがとうございます。


失敗を重ねながらも、少しずつ前へ進むエル。

今回の夕食は、そんな彼にとって束の間の休息だったのかもしれません。


サルヴァの見てきた国。

アリーチェが帰る故郷。

そして、ミーナが向かう“Ⅷ”の国。


エルはまだこの街の外を知りません。


けれど、誰かの話を聞くたびに世界は少しずつ広がっていきます。

その広がる世界の先に何が待っているのか。


次回更新は6月14日(日)19時30分です。

引き続き描く物語にお付き合いいただけると嬉しいです。


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