表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/76

第Ⅹ話 前編【約束のケーキと再会】其の四


 焼き上がるまであと少し。最初は百八十度で二十分、扉を開けずに百六十度に温度を落として三十分。最後は百二十度で十分の合計一時間。ルセット通りだが、最初に見たときはシフォンケーキの倍の時間もかかるんだと驚いた。

 サルヴァに尋ねても、湯銭焼きは時間がかかるといていたので間違いはないのだろう。

 

 それにしても、何度も時計を見ながら温度を変えるのは大変だった。何もしていなければ時間は進まずに、何度も時計を見てはまだかと思い。アリーチェと話していると時間が過ぎそうになって慌てて窯へと急いだ。

 だが、そんな時間を潰すのもあと少しだ。もうすぐ時間になる。


 サルヴァと約束した夕食の時間にはギリギリ間に合いそうだ。

 

 「――時間だ」

 窯の前まで行くと、厚手の手袋を受け取り手にはめた。

 

 ――明日こそミーナに届けるんだ。だから、うまくいっていてくれ。

 

 心の中で願いながら扉を開けると、シフォンケーキの時よりもはるかに多い湯気がモクモクと上がった。

 湯気が落ち着くと、窯の中で膨らんだスフレチーズが見えた。



 

「……くそっ……」


 

 真ん中は盛り上がり、大きく割れて開いている。二台ともが同じように膨らみ、割れていた。

 期待していただけに落胆は大きく、すぐに言葉が出なかった。

 

 ――うまくいったと思い焼いてみたが、やっぱり失敗だったみたいだ。

 窯から取り出すと、湧き上がってきた香りが届き驚いた。


 卵のような乳のような、すべてが混ざった不思議な香りだ。

 割れ目からバニラの粒が見えるが香りはしない。

 香りだけではおいしそうとはとても思えなかった。

 

 見た目も、三つの山のように膨らみ割れた部分が崖のようにも見える。そんな不思議な焼き上がりに自然と肩を落とし力が抜けた。


「失敗か……」

カスタードクリーム――いや、クリームチーズを混ぜるときか?それともメレンゲ……いやすべてが疑わしく感じる。どこが悪かったのか工程ごとに思い浮かべて考えてみたが、思い当たる所が多すぎる。一人では答えが出なかった。

 

「――アリーチェ失敗したのはなぜだと思う?」

「そうですねー、気になったのはカスタードクリームにクリームチーズを混ぜた所ですー。今思うとー急に冷えちゃったと思うんですー、それに裏濾したのもまずかったかもしれないですー。裏漉しすると、ダマは取れるんですけどー、カスタードクリームの固まる力も弱くなったのかなって思いましたー。私が濾したらなんて言ったので……」


「いや、アリーチェがいなかったら、もう一度カスタードクリームを作っていただろう。それで失敗していたら分からなかった事だ。だから、気にしないでくれ。それよりも、夕食の後に、もう一度作ろうと思うんだが手伝ってくれないか?」

「お任せくださいですー。もちろん最後までお付き合いいたしますー」


「頼りにしているよ。――そろそろ夕食の時間だ。アリーチェも一緒に行こう」

「えっ?片付けもありますー作られるなら計量だって――」

「それは、後でいい。サルヴァに頼んで三人分作ってもらってるんだ……よかったら一緒に食べないか」


「――わかりましたー。エルさまとご飯を食べられるなんて幸せですー」

「ははっ、夕食を一緒に食べるだけで幸せなんて大げさだよ――」


 

  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢ 

 

 ダイニングへ向かうと、サルヴァが迎えてくれた。

「準備は出来ております。どうぞお席へ」

 いつもの自分の席に座り、アリーチェも席へと進めた。アリーチェは戸惑いながらサルヴァの方を向いた。

 

「――本来なら家人が席に着くことは失礼にあたるのだが、エルネスト様直々の指名だ。ご相伴にあずからせていただきなさい」

 笑顔で返事をすると、向かい合うように俺の前に座った。

「では、私は一つ目の皿をお持ちいたします」

 サルヴァはそう言うと厨房の方へと下がって行った。


「――エルさまー……本当に良かったんですかー」

「まだ言っているのか?サルヴァも言っていただろ、俺の指名だと。今日は俺が招いた形――つまりは客だ。気にしなくていいよ」

「ですが……」

 離れからここまで、何度も同じ事を尋ねられた。俺と一緒に食事するぐらい良いじゃないかと何度も言ったが、まだ気にしているようだ。

 

「それに――いずれ領主を継がないといけない。その時には来賓を招きこのような場もあるだろう。今日は俺の練習に付き合ってくれないか?」

 アリーチェはクスリと笑い口を口を開いた。

「――ずるいですねー、そんな事言われたら断れないじゃないですかー」

「そうか?」通じたみたいだな。これで気に病む事もないだろう。

「それならー、キースさんも呼んできますー?きっとご指導いただけますよー」

「それはやめてくれ!食事どころじゃなくなる」


 クスクスと笑うアリーチェは悪戯した子供のようだった。その表情は明るく、先ほどまでの心配はなくなったみたいだ。


「お待たせいたしました。一皿目でございます」

 


 

読んでいただきありがとうございます。


ようやく焼き上がったスフレチーズケーキ。

ですが、結果は思い描いていたものとは違う形になってしまいました。

ここまで積み重ねてきたからこそ、今回の失敗はエルにとって決して小さなものではありません。


ですが、支えてくれる人がいるからこそ、また立ち上がることができる。

何度転んでも前へと進む。


次回更新は6月12日(金)19時30分です。

更新の間隔が空いてしまい申し訳ありません。

じっくりと物語を紡いでいますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ