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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅹ話 前編【再会と約束のケーキ】其の一


 アリーチェとサルヴァがいてくれれば大丈夫だろう。そう思っていた。


 だが、そんなにスフレチーズは甘くなかった……。

 

 

 一度目は、初めて使うコーンスターチに苦戦した。

 サルヴァの助言で、小麦粉とコーンスターチの違いは炊いている途中からかなり出てくるだろうと言われ注意しながら炊いた。だが小麦粉と違い、炊いているといきなり重くなった。

 重さに腕を持っていかれ、思うように混ぜる事が出来ずに四苦八苦していると底を焦がしたのか、嫌な焦げた臭いが上がり失敗。

 

 二度目は、重くなる事はわかっていたので重さに負けないように目一杯力を込めた。必死に混ぜていたのだが、小麦粉のようにトロリとは中々ならず、強火で火にかけていると、大粒のダマがいたるところに現れ失敗。


 三度目。サルヴァの助言で、火加減を途中で少しだけ落とす事にした。

 コーンスターチは最初重くなってきてから、トロリとするまで温度が違うのかもしれないと言われたからだ。

 意味が分からず、尋ねるとサルヴァは教えてくれた。

 

 小麦粉とコーンスターチ――トウモロコシ粉では、そもそも材料が違うので、火の通る温度が違うそうだ。料理でもスープにとろみをつける際に使うこともあるそうだが、ぶくぶくと沸騰まで加熱しないとトロリとはしてこないらしい。

 ――素材によって火の入る温度が違うのか……。

 サルヴァに言われた通り、最初は強火にかけて火を通していく。また急に鍋が重くなり、腕が持っていかれる。そこで一度火元から外し、火を少し落とした。

 混ぜる手は休めずに、もう一度火元へと鍋を戻し炊いていく。すると、先程よりもポコポコと気泡が浮いてくるのが見えた。先ほどは力いっぱいにかき混ぜていたので見落としていたようだ。

 

 底を焦がさないように力は入れながら、ゆっくりと底からかき混ぜる。弱火にしたからなのか、火の入りが遅く感じる。だが、そのおかげでゆっくりと変わる状態に目を向ける事が出来た。

 最初は鍋の縁をプツプツと小さな気泡が上がっていたが、過熱を続けていると真ん中からポコリと大きな気泡へと変わり少しだが艶も出てきた。

 ――もう少しか。

 そう思った時だ。

「――そろそろ良さそうです」

 隣で見ていたサルヴァが声を掛けてきた。慌てて火を止め火元から外すと、大きな気泡が一つボコリと沸いた。

 バターを一欠片加えて混ぜていると艶が一段と増し、出来上がったのはダマ一つない綺麗なカスタードクリーム。

 仕上がりが少しサラサラとしている気がするが、小麦粉との違いだろうか。

 気にはなったが、少なくとも今までの失敗とは違う。

 今までで一番綺麗だと思わず見惚れていると、今度はアリーチェが大きな声を上げた。

 

「エルさまー早くクリームチーズと合わせないとー」

 そうだ、ここでのんびりとしてられないのだった。カスタードクリームが熱いうちに、クリームチーズと合わせるとルセットには書いてある。

 冷蔵棚から取り出した、クリームチーズを鍋に入れヘラで混ぜるが、中々混ざっていかない。

 冷やしていたクリームチーズが固く、ヘラでは鍋の中を回すしか出来ずに手をこまねいていると、サルヴァが泡立て器を鍋に入れた。

「こちらをお使いください。最初はクリームチーズの真上から刺せばある程度の大きさにはなります。そこからはいかに早く混ぜるかで滑らかさが変わるでしょう。お急ぎを――」

 頷くと、鍋に差し込まれた泡立て器を握りグッと力を込めクリームチーズに差し込んだ。

 すると、ヘラでは崩れていかなかったクリームチーズが、泡立て器の隙間に入り込みいとも簡単に崩れた。

 泡立て器を動かし、カスタードクリームにクリームチーズを混ぜ合わせていく。鍋に残った熱を吸ったのかクリームチーズが柔らかくなり始めた。

 そのまま混ぜ続けたが――今度はクリームチーズの細かくなった欠片が残り、艶めいていたカスタードクリームに白いダマが残った。

 ……また、失敗だ。

 

 まだ窯にも入れていない。それなのに何度も失敗して……肩を落とした。

「――これー……裏漉ししたら使えませんかねー?」

「……裏漉し?」

 確か蕪のポタージュでサルヴァがしていた技法だったと思うが、見た事がない。

「エルネスト様こちらをお使い下さい」

 サルヴァが取り出したのは、粉振るいよりも粗い目をした器具。

 ――なるほど、これに通せば良いわけだな。

 

 受け取った裏漉しの下にボールを置き、ダマの残ったカスタードクリームを流し入れた。

 しばらくしていると少しずつだが、下に滑らかになったクリームが流れ落ちてきた。

「おぉ……あれ、止まった?」

 少し流れ落ちただけで、すぐに落ちてこなくなった。

「ヘラで押してあげれば残りも落ちますよ。ですが、固まってきますのでお早くされた方が良いでしょう」

 ヘラを受け取り優しく撫でると、また下に流れ落ちていく。

 冷えて固まってきたからなのか、裏濾すのが難しくなってきた。撫でるだけでは落ちていかなくなり、ヘラを押し付けるようにすると、何とか全てを裏濾すことが出来た。

 裏濾したカスタードクリームからはクリームチーズのダマはなくなり、ボールの中には硬くブルンとしたカスタードクリームが出来上がっていた。

 


お読みいただきありがとうございます。


料理もお菓子も、レシピ通りに作るだけでは上手くいかないことがあります。火加減や状態の変化など、経験でしか分からない部分も多いです。

失敗を繰り返しながらも少しずつ前へ進むエルたちを、引き続き見守っていただけると嬉しいです。


次回更新はまた二日後の6月6日(土)19時30分です。


しっかりと描いていきたいので、少しだけ楽しみにお待ちいただけると幸いです。

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