表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/77

第Ⅸ話 後編【スフレチーズと友愛の先】其の五


「寝てしまって、ごめんなさいですー」

 寝る前に準備は終わらしてくれていたようだ。台の上には計量された材料が並び、シフォンケーキでは無い方の型が置かれていた。

「いや、疲れていたんだろう。大丈夫か?」

「――はい、寝させてもらえたんで全然大丈夫ですー。作られるですー?」


 アリーチェが寝ている間、起こさないように静かに作り方を見ていた。何度見返しても、スフレチーズはかなり難しそうだ。

 コーンスターチを使ったカスタードクリームに、メレンゲ。シフォンケーキで覚えた物が全て詰まっている感じだ。

 メレンゲの立て具合で膨らみが変わるらしく、一人ではその具合がわからない気がした。

 幸いにもアリーチェがいてくれるので、メレンゲは大丈夫だとは思うが……。もう一度、ルセットに目を落とし、焼き上げの横に小さく書かれていた湯煎焼きの文字。持って来た理論書を、読んでも湯煎焼きなんて言葉はどこにもなかった。

「――なぁ、湯煎焼きってわかるか?」

「湯煎焼きって何ですー?」

 この返しは本当にわからないって事だろう。アリーチェも知らないとなると、クンパさんは……まだ早いか。

 アリーチェが起きるまで待っていたとはいえ、まだ十五時を過ぎただけだ。夕方にもなっていない、今行っても迷惑だろう。


「エルさまー。それなら料理長に聞くのはどうですー?」

 そうだ、この前の夕食でもかなりこだわりが強く、なにより勉強熱心だった。畑違いとはいえ、料理にも何か通じる物があるかもしれない。


「アリーチェ、計量は……もう終わってるのか……それなら――」

「エルさまー。代わりに聞いてくるので、少しエルさまも休んでて下さいー」

 そう言い残すと、返事も聞かずに走って行った。



 アリーチェが戻ってくるまで、することも無く。ただ、のんびりと過ごした。しばらくすると扉がガチャリと開き、アリーチェが戻って来たようだ。開いていた本を閉じると、そこにはアリーチェ、そして料理長も一緒だった。

「エルネスト様、湯煎焼きがわからないとアリーチェから伺い参りました。湯煎焼きも多少違いがございます、微力ながら私もお手伝いしたく――」

「……いいのか?みんなの夕食の準備があるんじゃ」

「たまには他の料理人に任せるのも大事なので、大丈夫ですよ。――あぁ、もちろんエルネスト様の夕食は私がお作りしますのでご安心を」

 料理長は胸をトンっと叩いた。


 ――任せるのも大事……か。

 きっと何か考えがあって、来てくれているのだろう。

 ここ最近、大人たちと話すようになって、その考えの深さに驚く事が多い。一言の重さが、俺が放つものよりも重たくて深い……そんな感じがする。

 だが、今はその言葉がありがたい。素直に手を借りよう。


「――ありがとう」

 二人の顔を見て言うと、二人は顔を見合わせ笑んだ。


    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「――湯煎焼きとは、深めの金属盆にお湯を張り、その上に型を乗せて焼く焼き方です」

「お菓子ではプリンなどが、その焼き方ですね」

 料理長――サルヴァが湯煎焼きについて教えてくれた。湯煎は料理でもするらしく、直接火にかけたくない物を間接的に火を入れるらしい。だが、説明を聞いてもよくわからなかった。

 湯煎を使った料理が想像出来ず、どんな料理か気にはなった。だがそれはミーナが旅立ってからでも聞ける話だ。

 ――それよりも今はスフレチーズに集中したい。


 サルヴァは、ルセットをジッと見ると眉を寄せた。

「……これは、正直かなり難しいですね。何か一つ状態が異なるだけで、仕上がりは変わる物のようです」

「どういうことだ?」


「例えばメレンゲの立て具合。メレンゲを立て過ぎればおそらく膨らみ過ぎて、表面が破れます。カスタードも同様です。炊き込みがゆるければ、焼き上げても形をなさないでしょう……」

 

 卓越した料理人が、そこまで言うものなのか。そんなにも難しいとは思っていなかった。

 

 やはりミルクシフォンにするべきだろうか……。時間もない、一度作っているのでおそらく失敗もしない。でも……。


 ――いや、やってみないとわからない。

 シフォンケーキだって最初はわからない事だらけで失敗を重ねた。スフレチーズも同じだ、初めての事なんて誰もわからない。


「――サルヴァ。この前の夕食で食べた前菜のサラダ。白身魚の燻製だったかな。あれは作るの初めてだと言っていた気がするんだけど……失敗したらとか考えなかったのか」

 サルヴァは一瞬悩んだそぶりを見せたが、すぐに振り払ったかのように口を開けた。

「それはもちろん考えます。新しい料理を試す際に、不安が無いわけではありませんから。――ですが、私はそれよりも楽しみの方が大きいですね」

「楽しみ?」

「えぇ。ご存知の通り、私の仕事はこの領主館の料理番です。御領主とその奥様、そしてエルネスト様。その他に働く者、皆に料理を作っております。健康を守るためだけならば、新たな事をする必要はありません。同じように作り上げればいいだけなのです」

「ですが……日々の生活の中で、嬉しい事も嫌な事も様々あります。そんな時、誰かと囲む食卓に花が咲けば、嬉しい気持ちはより輝き、嫌なことは忘れられはしなくとも、誰かと分け合えば少しは軽くなるかも知れません」

 

「食事とは楽しむこと。そのために私が臆してはいけない――そう己に誓っています」

 

 ――食事とは楽しむこと。

 ミーナが言っていたのは、この事なんだろうか……。サルヴァの言っている事は最もだと俺も思う。

 

 だが、ミーナが言っていた食事にとって一番大事な物とは何か少しだけ違う。


 ……そんな気がした。


 

お読みいただきありがとうございます。


新しいことに挑戦する時、不安になることは誰にでもあります。


失敗するかもしれない。

上手くいかないかもしれない。


それでも一歩踏み出せるのは、支えてくれる誰かがいるからなのかもしれません。


今回のエルも、アリーチェやサルヴァの言葉に支えられながら前へ進もうとしています。


次回はいよいよスフレチーズ作り。


どうぞ最後まで見守っていただけると嬉しいです。


次回更新なんですが、じっくりと内容を描きたいので二日置きの更新になります。

次回更新は6月4日(木)19時30分です。


楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ