表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/78

第Ⅸ話 後編【スフレチーズと友愛の先】其の二


「そうね、おそらくそれは間違いないわ。――記録では誰も亡くならなかったらしいもの。私も病の特異性に目を奪われて、視野が狭かったみたいね――」

 張り詰めていた糸が緩んだみたいに、ペイトは短く息を吐いた。

 

 ――それならミーナは助かるのか……。


 心の片隅で、ずっと感じていた不安。もし、ケーキを間に合わせても助けられなかったら……。

 ミーナと、二度と会えなくなるかもしれない。


 ……そうどこかで思っていた。


 一人で過ごす俺を救ってくれたミーナ。あの時はわからなかった。変なやつに会った、それぐらいだったのに――。

 その変なやつに巻き込まれて、母さんだけじゃなく父さんにまで叱られるようになった。

 最初は巻き込まれただけだった、ガッチョとアルテミア。二人ともお節介で、二人といると心強くて安心出来た。

 パームス、ガージ、ペイト、ティア。みんな、ミーナと会えたから出会えた仲間だ。

 みんながいれば、俺はなんでも出来る。

 

 ――そんな気がした。


「……エル?あなた、それ……」

 頬を伝う、生温かい物が雫となってポタリと床に落ちた。言われるまで気付きもせず、止めどなく流れる涙は床を濡らし、止める事ができなかった――。


「――ミーナが助かるならそれだけでいい。俺はミーナが元気になるなら、どこに行ったとしても信じて待つよ……」


「そうね……ミーちゃんが無事なら、それだけでいいわ」

 誰も否定しなかった。静かに、みんなが頷いた。

 

「――そのことだけど」

 さっきまでとは違い、張りつめていた表情の緩んだペイトが口を開いた。

 

「大樹の涙は、ここ数年でいくつかだけど出ているらしいの。まだ完治した人はいないらしいけど……。でも、ミーちゃんの行くⅧの国では、Ⅻヵ国で先んじて研究されているってお父さんは言っていたわ」

 

「それならここにいるよりいいじゃねーか」

「そうだよ、早く治しに行った方が――エル兄ちゃん。ミーちゃんっていつ行くの?」


「――聞いた話では祝願祭の終わった翌日――三日後だ」

 

 「「三日!」」


 そう、時間がない。ミーナに会うことも出来ずに行ってしまうかもしれない。

「――聞いてくれ。俺はミーナに笑顔を取り戻してから行ってほしい」

「そのために、今スフレチーズを作ろうと思ってるんだけど――」


 ルセットを調理台に置き広げた。


「正直かなり難しい……」

「なーエル……時間もねーのに、わざわざこれにしなきゃダメなのか?前のミルクシフォンでいいんじゃねーか」

「このルセットは今朝、夢人のソウに貰ったんだ。それにあいつは「これなら食べられるかもな」そう言ったんだ。――俺はその言葉に懸けたい」

 

 思い返せば、あいつは最初から俺を導いていた気がする。ルセットも初級のシフォンに始まってミルクシフォン、偶然かもしれないけどカスタードクリーム。いや、知り合いだった素振りがあった。どこまで先を考えて動いていたんだ……。でも、そんなあいつが無駄な事をするとも思えない。


「――俺は今から作り始める。明日の朝には完成させたい。そう思ってるんだ」

 

「手伝いたいのは山々だけどよ……」

 祝願祭は最終日にかけてまた人が増える。王都から最高司祭が来て街を周り祈りを捧げるからだ。そのためにみんな仕事が忙しくなって、会うことも儘ならないのがこの三日間。

 ――それなのに朝から集まってくれた。

 その気持ちが嬉しかった。


 みんなの願いを俺が形にする番だ。


「大丈夫だ。俺にはみんながいてくれる。その思いだけで十分だ」

「後は俺に任せてくれ、祝願祭が終わる最終日の朝。――みんなで港に集まろう」


「必ずミーナを連れていく」

 

 

    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 みんなは家の手伝いに、帰っていった。

 厨房には俺と、手伝いをすると残ってくれたアリーチェだけ。パームスが持って来てくれたクリームチーズで、材料も揃った。

 

 そう思っていたのだが――。


 牛乳の横にバニラと書かれているのを見落としていた。持っているのはバニラの使い終わったカチカチに固い物と、似たような香りのトンカ豆だけ。

 アリーチェと二人、頭を悩ませた。


「これは……同じ物として使ってもいいのか?」

「んー微妙ですー。このバニラを使っても、そこまで香りは出ないと思いますー。それに、トンカ――豆でしたっけー?似てるけど違うって言うかー……」

「……そうだよな」


 買って来たはいいが、トンカ豆は使い方も詳しくわからないし、アリーチェはトンカ豆自体知らなかった。

 屋台の主人に言われていた通りに砕いてみたが、バニラに似ているように思っていたが、どこか違う。どことなく野生的で複雑な香りが少し苦手だった。

 咄嗟に感じたのは――この香りじゃない。それだけだ。

 

 砕いてみて分かったが、トンカ豆の香りは、ミーナが好きな香りじゃない気がした。


「でも、明日までに作るんですよねー?迷ってる時間なんてないんじゃないですー?」

 アリーチェの言う通り、時間は限られている。バニラが手に入ればそれに越したことはないが、市場に並んでいない物を買うなんてどこで……。

 市場に並んでない……市場じゃない店……そうか!

 

「あそこなら売ってるかもしれない」


 

読んでいただきありがとうございます。


残された時間は三日。

難易度は過去最高。

それでもエルは前へ進みます。


ミーナを笑顔にしたい。

その想いだけを抱えて、いよいよスフレチーズ作りが始まります。


次回更新は5月30日19時30分です。

しっかりと書きたいので一日更新をお休みします。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ