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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅸ話 後編【スフレチーズと友愛の先】其の一


「……ミーナとはもうすぐ会えなくなる」


「……エル何を言ってるの?ミーナに会えなくなる……えっ意味がわからないんだけど――」

「エル兄ちゃん!どうしてミーちゃんと会えなくなるの!まさか、もう……」

 ティアはその場に泣き崩れた。


「違う、まだ無事だ。でも、ミーナとは会えなくなる。それは間違いないんだ。……治療の為にⅧの国に移住するそうなんだ……」


「でもさ、治ったら戻ってくるんだよね……エル兄?」

 そう思いたいが、そんなに早く治るのだろうか。なにより、移住というからには帰ってくるのも難しくなるはずだ。


「……それもわからない」

 

「……そんな」

 昨日の俺と同じだ。受け止められなくて、ただ辛かった。何より自分では、何もしてやれない。その無力感で頭の中が埋め尽くされた。


「――聞いて欲しい。ミーナを止める手立ては正直ない。俺も昨日偶然聞いて、一晩悩んだ。それでも答えなんて出なかったんだ。今のみんなと同じだ……俺だって行ってほしくない」


「……エル」

 

「でも、治るなら――治る可能性があるなら元気になって欲しい」

 

「俺はミーナが元気になって戻ってくるって信じてる。みんなは……みんなは違うのか?」


「違わねーよ」「違わないわ」五人が頷いた。

 泣き崩れていたティアが立ち上がると「ボクだってずっと待つよ」赤くなった目を擦り、力強く答えた。

 

 みんな同じだ。悲しくて辛くてもミーナにまた会えるって信じている。


「その事なんだけど……」

 黙っていたペイトが口を開いた。

「ミーちゃんの病は、おそらく完治しないわ」


「……どういう事だペイト」完治しない、その言葉に不安が過った。

「みつけたの……症状がとても似ている病気。病気とも言えないんだけど……」


 病気とも言えない。どういうことだ、ミーナは病に伏せっていると思っていたがそれも違うのか。

「ペイト……はっきり言ってくれ。ミーナの病気は何なんだ?」


「――大樹の涙。それがおそらくミーちゃんの病の正体よ」


 

「ペイト、そんな病気俺は聞いたことがないんだけど……」みんなの顔を見るが、誰も知っている感じはない。誰もが顔を見合わせ、首を振っている。


「お父さんに聞くまで私も知らなかったわ。――この病気はすごく昔からあるの……でも、未だに決まった治療法が分かっていないの。不治の病としても扱われているらしいわ……」

 

「そんな……」

 ペイトは静かに続けた。


 ――今から百年以上前。

 その病は突如現れたらしいわ。その頃、国同士の争いが過激で最初は見向きもされなかった。でも、国中……いえ世界中にまで、急速に広がった病を誰もが恐れるようになる。

 この病の特徴は統一性がないことよ……。


「統一性がないって、病気なら熱が出たり咳が出たりするもんじゃ――」

「だから、不治の病なのよ……症状は人によって違う。本には『争っていた人は、石のように体が動かなくなり、悪事を働いていた人は、思考を消された』そう書かれていたわ」


「でもよー。別にミーナは何も争ったりしてないんじゃねーか?」

「そっ、そうよ。そんなのミーナに当てはまらないわ」

 

 ガッチョとアルテミアの意見に、俺も賛成だ。ミーナが争ったり……いや、食べ物の事となるとわからないが。

 普段はのほほんとして、争いとはかけ離れている。


「――まだ続きがあるの……この病は“誰でも”発症してしまう。『走る子供の足を止め、働く者には怠惰を教え、学ぶ者から思考を奪った』――言ったでしょ、恐れるようになったって……誰もが争ったり悪事を働いてるわけじゃないはずよ。それなのにこの病は、その人の願いを奪う」


「願いって……どういう事だよペイト」

 ガージは分かってないみたいだ。俺の考えが合っていれば、この病がミーナに罹れば、おそらく……。ガッチョとアルテミアも気付いたみたいだ。

 

「ミーナは食べる事が生き甲斐みたいな奴だ。そんな奴から食べる事……いや、食べる為に動きそれを楽しむのを奪われたら――」

 言いあぐねていたペイトに変わり代弁したが、言葉がそこから続かなかった。


「そんな……」


 誰もそれを否定する事が出来なかった。


「でもーおかしくないですー?」

 アリーチェがみんな黙る中、言葉を発した。

「……アリーチェどこがおかしいんだ?」

「だって百年以上前に流行ったんですよねー。それなのに今は誰も知らない――おかしくないですかー?」


 確かにそうだ。誰でもかかった病を、今は誰も知らない。それほどの病があったのなら歴史として残っていてもいいはずだ。


「――誰も亡くならなかったからよ……誰も亡くなっていないから歴史に残らなかった」

 

「そして、その病は突然消えた。争いがなくなったのを見計らったように突如として消えたらしいわ……。調べていた学者も、記録に残せなかったようね。残っていたのは小さな文献が少しだけ……お父さんが持っていた古い本にしか書かれていなかった事よ」


「つまり――どういう事だ?」

「もう本当に馬鹿ね、昔の病にミーナが罹ってるってことでしょ」

 

「いや、そうじゃなくてよ。誰も亡くならないなら――ミーナは助かるって事なんじゃねーのか?」


 

 

 

読んでいただきありがとうございます。


『その人の願いを奪う病』

エル達が知った“真実”は、想像していたよりも残酷なものでした。


それでもエルは、ミーナへケーキを届けようとしています。


次回更新は5月28日19時30分です。

次回も引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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