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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅰ話 後編【祝願祭とサンドイッチ】其の二


 活気に満ちた【農産市】では主婦や町の料理人、酒場の主人など多くの人が買い物している。


「さーさー新鮮な野菜がいっぱいあるよ!取れたての春キャベツ、スープにしたら絶品だよー!」

「この辺りじゃ誰も知らない、〝二つ〟隣の南国の希少な果物を使ったジャムだよー!朝食のお供にいかがですかー!」

「さーパンが焼きあがったよ!小麦はもちろん、すべてポルトの名産品で焼いたものばかりさ!屋台のスープと一緒にいかがだい!」

 

 屋台からはそんな呼び込みが、あちらこちらから聞こえ、焼きたてのパンの匂いにつられて多くの市民や観光客の長い列が出来ている。


 そして、長い列をよけながら進む俺と、手に口にいろいろ持っているミーナがつづく。

 

 あれから「オススメに行くよ」と連れていかれた屋台は片手じゃ足りない。

 とんでもなくお腹はいっぱいだ。

 だがオススメされてついて行った屋台はどこもおいしかった。

 

 全くどこでそんな情報仕入れてくるのやら……。

いや、多分これはミーナもかんでるんだろうな。

 

  


 そんな時である。

 

 

「おい店主!」

 ある希少な果実を使ったジャムを売っている屋台から、大きな声が聞こえてきた。

 

「僕様の知らないフルーツなどあるものか!」

「僕様に材料がわかれば、知らないなんて嘘っぱちになるのだから安くするのだぁ?」


 屋台へと目を向けると、強引な値切り交渉を行う小太りのおじさんの姿を見つけた。

 

 値切りなんてありふれた日常だ。ある程度は容認されている。

 販売者はそれも踏まえて値段を設定してるんだろう。

 だから、ある程度は許容範囲として安く提供し利益を得ていると聞いたことがある。


『そんなに簡単にいかないのが現実とも聞いたけどな』

 買う側にしても安く買えるのであれば喜ばしい事なので交渉はするそうだが、そう簡単にはいかないのだそうだ。


【僕様】という不思議な一人称を使う会話は、辺りの注目を集め屋台の周りに人だかりができた。


「さぁ僕様に試食させてみるのだぁ!さぁ!」

 

「わっ、わかりました。――こちらです」

 ジャムをスプーンですくい、パンにつけ手渡した。

 

 パンを取り上げるように乱暴に受け取ったおじさんは「早くするのだぁ!まったく準備が出来ていないのだぁ!」と悪態をつき、パンにかぶりついた。

 

 咀嚼し材料を探るおじさんとその材料を持ち込んだ店の店主。

 周囲が静まり返り、誰もが息を止めているようだった。

 

 

「このまろやかなコク……」

「ねっとりとした舌ざわり、ペッシュ(桃)よりも濃厚な風味。そして黄金に輝く色。だが……かすかに香るこれは」

 

「くははははっ――小賢しい店主だ」

 僕様おじさんの口角が上がった。

 

「これはマンゴーなのだ!」


 答えを言われた店主は「……正解です」とだけ短く応えた。

 

「僕様が間違えるわけはないのだぁ!ガッハッハッハッ。さぁ店主約束を守るのだぁ!」


 大胆に値切るところを見ていたが、良い印象を感じることはなかったな。

 僕様おじさんを知らないうえに観衆の眼前で値切るのは脅迫にも似た何かを見ているようでなにか嫌な感じだ。


 「ねぇーエル君……」

 腕に抱き着くように手をかけたミーナに、心臓が一瞬高まる。

 

「マンゴーってどんな味なのかな?」

 

 ドキッとした気持ちを返してくれ。続いた言葉に唖然とした。

 嫌な感じがしたのは俺だけだったのか?ミーナは違う感情を抱いているようだ。


 

 目をキラキラと輝かせ、商人の言葉に心奪われていたのだ。

「この辺りじゃ取れない果実なんだよね?どこで採れるんだろう?二つ隣って言ってたからきっと〝Ⅴ〟だよね?行ったことあるはずなんだけど。見落としたかな――あの国広いから」

「うちでも取り扱いたいけど、加工品なのがな――何とか果物として持ってこれないかな」

 

「樹路――世界樹を伝う交易路だと時間がかかるから無理でも、海路ならワンチャン……いける?」


 

 ……やっぱり、ただの食いしん坊じゃないよな。

 ああいうところ、親父さん譲りなんだろうな。

 

 ミーナのフルネームはミーナ・ヴィターリ。

 町で一番の商会であるヴィターリ商会の一人娘だ。

 

 他国との貿易業を生業とし、海路を切り開き他国とのパイプを持つポルトの重役がミーナの父である。


 小さなころから父に付き添い他国を訪れていたミーナ。その経験は食の魔物へと成長させるには十分だったようだ。訪れた他国や国中の町々で美食の限りを尽くし、その食べっぷりは料理人たちを魅了しているらしい。

 

『まったく色々行けて、いろいろ食べれて羨ましい限りだ』

 

 祝願祭の屋台を取り仕切るヴィターリ商会も、彼女が繋いだ縁を基にして料理人たちに声をかけていると噂で聞いたことがある。

 

『あの燻製ローストビーフも、それの一つなんだろうな』


 僕様おじさんに詰め寄られる店主がかわいそうに思った俺、それとは違う感想をミーナに求めた。

 

「ミーナ……他に何かないのかよ?」

「えっ?あー、うーんそうだねぇ……」

 

「あれだね!あのお客も交渉がへたっぴだよねー!」クスクスと笑うミーナは続ける。

「だって、あれじゃ値切りは出来ても、あまり量は買えないよ?多く買えるように前置きしてれば買えたかもしれないのにねー」

 

 流石は数多の商売人たちを相手にしてきた父を見てきただけはある。彼女もまた観察力と交渉術においては、その辺の商売人たちよりも上なのだと俺は納得した。



「まー屋台のおじさんも詰めが甘いよね、商売するなら裏付けはしっかりしなきゃ」

「おじさん希少価値の値上げ分多分一割ぐらいかな?それをあきらめて、目測通りの値段に変えて売るんじゃないかな?」

 人差し指をたて状況を整理したミーナはそんな推理を話した。


「いやーお客さん物知りだねー。まいったよ」

「負けは負けだからね。大安売りだ!ニ割引きでどうだい?十五瓶買ってくれたら三割引きするよ?」

 

「僕様にかかれば当然なのだぁ!それなら大きいのを十五……いや、二十瓶買うから準備するのだぁ。ただしもう一方だけのなのだ」

 

 フフンと鼻を鳴らし、値切りを成功させた僕様おじさんはご満悦な様子だ。

「はいよ、マンゴージャム二十瓶お待ちどうさま」

 紙袋に詰めたジャムを手渡した。

「――うむ、確かに。」

「なかなかに楽しかったぞ店主!来年も僕様を楽しませてみよ。ガッハッハッハッハッ」

 僕様おじさんは気分も揚々に南の方へと去っていった。


 

「いっぱい買って行ったねー」

「でも――途中で言ってたのって、なにかあるのかな?」

 

「なんの話だ?」


  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢ 

 

 なにか不思議なことなんてあったか?特に思い出せないんだが。

 

「あのおじさんが言ってた事だよ!」

「小賢しいって言ったんだよ!買う時も、もう一方って言った」

「もう一方って事は、二種類あるって事でしょ?」


 

 

 おじさんが去ると、遠巻きで見守り静かにしていた人たちも、徐々に声を出し離れ始めた。だが、店主はその足を止めるべく声を上げる。

 

「さー皆々様ご迷惑かけちまったね!まわりで見守ってくれたお客さんには、〝こちら〟を一割引きで販売しようじゃないか!売り切れごめんだよ、早い者勝ちさ、並んだもん勝ちだ!」

 

 物珍しい品に興味がわいていた人たちが慌てて列を作り始め、すぐに大きな列になった。

 慌てて品物を出しに後ろを向くその瞬間。

 流れ出る汗と焦りの表情とは別に、店主のにやける口元が見えた。

 

 

「……ほんと、よくわかるもんだよなー」

「んふふふふ、それが私の取り柄だからね」

 

「さっ、私たちもジャムを買いに並ぶよ♪」

「そうだな、そろそろケーキ屋も開く時間だ……」

 

 『待て、なんでそんな話になる?』

 

「いやいやいや、もうそろそろケーキ屋が開く時間だぞ?早くかないとすげー列になるんじゃ――」


「エル君ダメなんだよ」

 

「それじゃダメなんだよ。商売人はね探求心を忘れちゃダメなんだよ――その先にある、はるか遠くのあの味にたどり着けないんだよ」

 

 どこか遠くを見るように見上げた先には何もない。

 商売人なら仕入れればいいだけなんじゃ……。

 

『あーこれは絶対に食べたいだけだー』


 

今回はミーナの“らしさ”がよく出た回になりました。


食へのこだわりと、その先を見ようとする視点。

エルとの掛け合いも楽しんでもらえていたら嬉しいです。


次回は引き続き祝願祭のお話になりますが、少しずつ流れも動いていきます。


よければ引き続きお付き合いください。

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