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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅰ話 後編【祝願祭とサンドイッチ】其の三

ジャムを買って満足げなミーナと、目当てのケーキ屋へと向けやっと歩きだした。


 ジャムの屋台からは五分ほど歩いたあたり。

 教会から向かって南に伸びる大通りのおよそ中間程にその店はある。


 

 掲げられた看板には【ケーキ屋 クンパッパ】と大きく書かれている。

 クンパッパのシェフは大会で優勝した経歴の持ち主で、店先の看板には経歴が大きく書かれていた。


 そこの角を曲がったところにある店が、ミーナのお気に入りのケーキ屋だ。

「やっとついた……」

「えっ?すぐだったでしょ?」


『距離はね。寄り道してなかったらもうとっくに買えてたんだよ』


 

 開店してしばらくたっている。

『スムーズには入れればいいんだけどな』

 

 目をやる、店先には長い列が見えないほど続いていた。

 

「おいおいおい。この列を並ぶのか?いつもよりも長いんじゃ……」

 一応口にはしたものの、返事はわかっている。


 「あたりまえでしょ♪」

 

「エルくん、待つ時間はね食事の最高のエッセンスなんだよ!」

「それに、待ち時間のお供はいっぱいあるから大丈夫♪」


 ミーナは列の最後尾へと向かいながら、手に抱えた大きな紙袋を広げた。

「今からケーキ買うんだよな?」

「えっ?そうだよ?」


『お前の腹はどうなってるんだ!』


「……並ぶか」


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 たわいない話をしミーナが買い集めたホットスナックを食べていると、店に入るまであと少しの所まで来た。

 

 「ねぇ、エルくん。食事にとって一番大事なものが何かわかる?」

 不意にミーナから質問が飛ぶ。

 

 なんだ急に。材料?旬?結局は料理人の腕次第なんじゃないのか。

 「うーん。――それはやっぱり料理人の腕じゃないのか?」

 少し考えたが、俺にはそれ以外思いつかなかった。

 

 答えを聞いたミーナは腕を大きく横へと開き徐々に上へと上げる。

「おっ、正解か?」


 と思ったが、胸の前で大きな×印をつくった。

「ブブーッ、はずれだよー。それは美味しいっていわれてる料理の話でしょ?」

「そうじゃなくて、食事だよ?」


「ン――。…………降参」しばらく考えたが、わからず両手を少し上げた。

「で答えはなんなんだ?」


 

「次の方ー」


 

「あっやっと入れるね。答えは後でね♪」

 

 長い列を並び終え、やっと店内へと入れた。

 

 ミーナに付き添い幾度となく訪れたことがあるが、鬼かくれんぼの後からの屋台のはしご。最後に今までよりも長い列。


 『……本当に疲れた』


 そんな俺とは対照的に、隣で目を輝かせる少女が一人。

 

「ふわわわわぁ~季節のフルーツタルトだよ!」

「エル君見てよ!ほらっ、ほら!」

 色鮮やかな果実を乗せたタルトに目を奪われこっちを見ずに手を振っている。

 よくも飽きないものだと疲れを通り越して関心するばかりだ。

 

「早く選べよミーナ」

 早く出たい俺。

 「今入ったばかりでしょ!もうちょっとゆっくり見せてよ!」

 店に居座りケーキを眺めていたいミーナ。

 

 いつものことだが、ここに来るといつもミーナは長居したがる。外には行列。

 なんか窓越しに見られてる気がするから、早く店を出たいんだけどな。


 そんなことを考えているとショーケースの向こう側から声がかかった。

 「ゆっくりご覧くださいね。列を並んで入ってくださったのですから、それに見合った納得のいくケーキをお選びくださいね。」


「ほらっ!お姉さんもそう言ってるんだから――――あー本当においしそう」

 

 

「フレジェもある♪濃厚なバタークリームにゴロっと入ったイチゴの甘酸っぱさがたまらないんだよね♪」

「あっ!こっちは祝願祭限定だって!イチゴのホールケーキより、ちっちゃいホールケーキだ♪すごく、かわいいー♪」


『嫌な予感がする』

 

「……1個だけだからな?」

 約束の確認がてら、釘をさしておく。

 

「あれ~?2個じゃなかったっけ?」


 とぼけているがこの顔はよく見てきた。間違いなく覚えている顔だ。

「一個だ」


「エル君のいけずー。すいませーん、こっちく~ださい♪」

 

 一悶着あったがそれもいつもの事だ。

 訪れるたびに店内で言い争いを始めている気がするな。

 顔馴染みの販売員たちも最初のころは心配そうに見てきてたが、今は温かい目で見てるみたいだ。


「ありがとうございましたー」


 

 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 ケーキを買い噴水まで戻ってきた。

 噴水の縁に腰掛け買ってきたばかりの箱を開ける。

 

「ンフッンフフフフッ♡」箱を開け不気味な笑い声をあげたミーナ。

 買ってもらったケーキを見るや否や、どこからかフォークを取り出した。

 

「ン――――――♡」

 歓喜の声を上げるミーナ。選んだケーキにご満悦なようだ。

「やっぱり、イチゴを使ったケーキならフレジェだよね♡」

 

「丸々入った大きなイチゴが甘酸っぱくて、卵のコクと濃厚なバタークリーム。でも、硬すぎず柔らかすぎず、濃厚ながら滑らかで口どけのいいバランスが最高だね♡」

「なにより、それを支える陰の主役がアーモンドの風味豊かなビスキュイジョコンド♡」

「もうこれは芸術の域だね!」

 

「エルくんも食べてみてよ!ほら、あ~ん」

 

 運ばれたフレジェに躊躇いながら口を開けた。

『お腹いっぱいなんだよ。なんでまだ入るんだ?これが別腹ってやつなのか?』

 

「うまっ!たしかに大ぶりのイチゴとバタークリームがいい感じだな――」

 美味さよりも満腹具合に気を取られて、良いリアクションが出来なかった。

『しまった。やってしまったかな――』

 

「もう!そっけない反応だなー」


 おすすめにしっかりとしたリアクションで返さないと、ミーナは納得いくまで食らいついてくる。


 

「じゃあさ、じゃあさ。ビスキュイジョコンドって何かわかる?」

 

「ビスキュイジョコンド、細かく挽いたアーモンドと砂糖を混ぜた薄焼きのスポンジ生地だろ?」


「おっ、正解。エル君やるね~」

『妙にニヤニヤしているのが、気になるな』


「では、次の問題。このバタークリームの滑らかさはなんでしょうー」

「はい、考える時間始め。いーち、にーい、さーん――」


『そんなの、わかるかっ!』


「じゅーう。終~了~」

「降参だ、そこまでわからないよ」


「ンッフフフフ。正解は生クリームも使っているでしたー♪」

「エル君がお金払ってくれてるとき、お姉さんに教えてもらったんだ♪」


 ある程度の知識は、ミーナと食べ歩いているうちに教えられた。

 それなりに詳しくなってると思う。

 これがガッチョやアルテミアには難しくても、俺なら答えられるものも今までにはあった。

『聞いてきたばかり?それは理不尽すぎだろ――』


 

「フレジェってやっぱりお高いから、お小遣いで買うのは躊躇っちゃうんだよね♡」

「ハハハハ……」

 そう話すミーナの傍で苦笑いを浮かべた。

 

『お小遣いなら変わらないぐらいもらっているだろうに……。じゃないと屋台でこんな店に回るなんて無理だからね?』

 

 あまり納得は言っていない。

 「とっても美味しいよ♡エルくんありがとう♡」

 だが、その一言に満足した。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 春を告げる鳥が街路樹に留まり、綺麗な鳴き声を響かせている。

 広場には楽器を奏でる集団や異国の物語を語る吟遊詩人の音楽が広がっている。

 祭りを盛り上げる音楽に、合わせるように鳴き素敵なメロディーを奏で始めた。

 

 噴水の縁に座りのんびりと耳を傾け、その音色に耳を傾けた。

 

 眩しい光も照りつく程の力はそこまで強くない。流れる雲が時折陰りを生んでいる。

 ポカポカとした陽気に、ウトウトしてしまった。


「ミーナ」

 少女を呼ぶその声にあわてて目を開いた。

 俺の肩にもたれていたミーナも飛び起き、慌てて立ち上がった。

 

 そこには一人の女性と、買い付けた荷物を持つ仕様人のような装いの男の二人が立っている。


「ママ!」

 驚きを隠せないミーナは慌てている。


『あー。多分、手伝いとか何か言われてたんだろうな』

 祝願祭を取り仕切る側のヴィターリ商会、そこがそんなに暇なわけない。

 多分、欲望に負けたんだろうな。奢ってもらえるケーキに目移りして忘れてたんだろう。

 

「こんなところで、いつまでも遊んでいてはいけません、早くお父さんの所へいきますよ」

 

「……はーい」


 一応、声はかけておいた方がよさそうだな。そう思い立ち上がった。

「ヴィターリ夫人、ご無沙汰しています。ミーナを連れて回ったのは、僕です。」

「どうかご容赦を」


「あら、エルネスト様。ご無沙汰しております」

「大丈夫ですわ、ミーナの事ですから呼んだ屋台に顔出して回っていたのでしょう」

「娘が付き合わせてしまっていないかの方が心配です……」


『あーこれは、ばれてるな――』

 

「カリス夫人はお戻りになりましたか?」


「いえ……母はまだ王都に。父と二人、神事には帰ると連絡がありました。」


「――そうですか。早くお戻りなると良いですね」

「それでは、エルネスト様こちらで失礼させていただきます」

 

 そういうと頭を下げ去って行った。

 母に連れられるミーナがその去り際、耳の近くに寄ってきた。


「……エル君もちゃんと帰るんだよ?」

「あとさっきのは宿題ね。答えがわかったら教えてね?」

 

 手を振り帰って行くミーナを見送った。


 

 俺はエルネスト=フォン=カリス。

 港町ポルトを収める辺境伯エヴァルト=フォン=カリスの一人息子だ。

 

 辺境の地にして国内有数の貿易港を持つカリス、そんな最北東の地を治める父は忙しくてほとんど会えない。

 父は王都に出たまま、母もそれに付き添っている。

 

 ——だから、館に二人がいることはほとんどない。

 

 『それも全部、辺境伯としての務めなのだと……』


 

 両親の不在中、家の切り盛りを行う家人達しかいない館。

 多忙を極めた両親には中々会えない。

 人は多いのに、館はどこか冷たくて帰りたくない場所だ。

 

 ミーナを見送り一人立ちふけていた俺は、館へと向きを変え歩き出した。


 祝願祭はまだ始まったばかりだ。少し傾いてきた陽に向かい進む。

 

 賑わう宴は夜も町を染め上げる。

 舞台は屋台から酒場へと移りそれは夜更けまで続く。

 訪れる観光客は思い思いに祭りを楽しみ、故郷へと帰っていく。

 

 祭りの間、町民たちは教会を訪れ祈りを捧げ、春を祝う。


 そして一族総出で祭りを楽しむ。


 しかし、家族連れで行きかう人々の中を歩く俺の心は、ただ寂しさが渦巻くばかりだ。



「早く帰ってこないかな……」

 


今回は、祝願祭の賑わいの中で見えるミーナの無邪気さと、エルの内にある温度差を意識して描きました。

楽しい時間の裏にあるものも、少しずつ掬い上げていけたらと思っています。


ここから先、物語もゆるやかに動き出していきます。

引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。


更新は19:30で行っています。


しばらくは毎日更新しますので、今後ともよろしくお願いいたします。



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